Rと桐谷の場合~桐谷が受け取った手紙~
2025年時代「レジェンドソフト」の企画開発部エース桐谷。
新入社員時代は、エリート白木凪からかなり離されていた存在でした。
彼がどんな気持ちを思いどんな過去を背負ったか。
そして、物語は1話最初に戻ります。
2016年愛媛。
私(R)と桐谷は大学の野球部で知り合った。
選手と、マネージャー。
シャイな桐谷に惹かれて、3年生のときに付き合った。
4年になった桐谷は、リーダー肌で元気者のキャプテンだった。
桐谷の兄貴は、甲子園に出たらしい。
「いつも、兄貴には勝てなかったよ。」
自嘲気味に笑う桐谷。
二人のときだけに見せる弱音が、かわいかった。
キャプテンになると、これまでにもまして声を出し、チームを引っ張るようになる。
私は知ってる。
桐谷の、本当は負けず嫌いなところも。
コミュ障のくせに、笑顔でそれをごまかしていることも。
弱小チームだから成立してたけど、本当は野球が下手なところも。
付き合うきっかけになったのは、同じゲームをしていたからだ。
「桐谷。みんなには見せないけど、ガチオタだね。」
と言う私に、
「本当は、ゲームが一番好きなんだよね。」
子供みたいに笑う。
かわいかった。
2016年夏~大学生四年~
夏の大会が終わって、桐谷は泣いていた。
試合が無惨だったことより、これまで自分を縛っていたものから解放されるのが、どこか寂しかったんだろう。私はそう思った。
帰り道。
「かっこ悪かったな。」
っていう桐谷に、何を言えばいいんだろう。
兄を追いかけ続けて、本当は好きでもない野球に、仲間と捧げた現役時代が終わる。
――彼は何を得て、何を失ったのか――
子供の頃から人生の大半をそれに費やして、最後の試合を呆気なく終えた彼の背中が、いとおしくて可愛かった。
その気持ちを思うと、苦しくなる。
でも不思議と、共感の涙は出なかった。
「これから、ゲームいっぱいできるね。」
センスのかけらもない慰め。
取り繕うように、
「コミュ障なのに、よくやったよ。キャプテン。」
「ありがとう。マネージャー。」
純粋なところが、ピュアで可愛かった。
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◆2016年 秋
彼はゲーム業界を目指して、東京のゲーム会社に就活している。
本命だったレジェンドソフトの内定が決まったようだ。
私はあっさり地元の銀行に内定が決まった。
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◆2017年春
空港に彼を見送りにいく。
田舎にいると、見送る側にばかりなる。高校の時も、友人のときも。最近も
ただ、彼は特別だと期待した。
「行ってきます。時々会おうね。」
桐谷の大きな声が、いつも人けのない空港に響いた。
ゲートに入り、消えていく。
やっぱり、いつもと一緒だ。
見送るときは、いつもあっという間。
積み上げた時間に関係なく、あっけない。
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◆2017年 それから
社会人になって、お互い忙しくなる。
学生のときと、時間の流れが変わる。
バカな桐谷は、仕事終わりにいつもLINEで話してくれた。
どうやら希望の部署に配属されたらしい。
同期は3人。
すごくよくできる同僚が一人いるらしい。
「兄貴と同じだ。運命なのかな。」
桐谷はいつも自嘲気味に言う。
私は思う。
桐谷は桐谷のまま、自分を信じればいい。
下手くそな野球を、それでもひたむきにやってた桐谷を、私は愛してたんだと思う。
「夏休みには絶対帰る――」
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◆2017年 花火
夏休み、桐谷は帰省した。
三日だけの特別な時間を、私と過ごしてくれた。
最終日、花火を見に行った。
大きな花火が輝いては消える。
私は花火は苦手だ。キレイだけど、切ない。
一瞬の刹那の輝きの後の何もない夜空。
特に今年の花火はそうだった。
私は、切なさを桐谷に預ける。
このまま溶けて何もかもがなくなって混ざり合いたい。
体じゃなく心をあげたい。
バカ真面目な桐谷を守り続けてあげたい。
開いては散りゆく花火が映る桐谷の横顔をずっと見ていただけの時間――だったような気がする。
そして思う。
この瞬間を、きっと思い出してしまうだろう。
たぶん、ずっと覚えてるんだろう。
頭の中にフジファブリックの「若者のすべて」が流れてリフレインしていた。
桐谷の体温を感じながら、私は、連休明けの予定を確認していた。
◆空港
次の日、桐谷を空港に見送った。
手荷物検査のゲートの手前で、私は封筒を渡した。
「飛行機で読んで」
それだけ言って、笑った。
やっぱり見送るときは、いつもあっという間だ。
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◆手紙
愛する桐谷君へ。
花火、一緒に来てくれてありがとう。
私ね、昔から花火を見て、悲しくて感傷的になってしまう。
でもね、今年は君と見たから、最後までいられた。
桐谷君、一緒にいてくれてありがとう。
付き合って三年目だね。
好きな仕事に就けて。苦しいのに頑張ってるの、私、わかってるよ。
君は「元気な人」みたいに笑うけど。私は知ってるんだ。
君は、笑ってるときほど必死なんだって。
下手な野球。
それでも責任感と笑顔で。コミュ障のくせにキャプテンをやり切った君が、私はずっと誇らしかった。
そして今も。好きだったゲーム会社で働いて。ちゃんと輝いて見えてるよ。
だけど。ごめん。
私、最近ずっと。君の話を聞きながら胸の奥が痛かった。
君が言う「同期のすごいやつ」の話。
その人のことを褒めるときの、君の声のトーン。
軽く笑って。だけど最後に必ず、自嘲みたいな息が混ざってた。
「兄貴と同じだ。運命なのかな。」
その言葉を聞いた瞬間。私はわかったんだ。
君の中で、お兄さんと、その同期の人が、同じ場所に立ってしまったんだって。
君の中の「追いかける影」になってしまったんだって。
そして君は、また同じことを始めるんだ。
勝てない相手を、自分で選んで。
「やっぱり俺は」って笑いながら。
自分を削りながら、前に出るんだって。
それが君の強さで。
それが君の癖で。
私はそれを好きになったんです。
でもね、君のそのまっすぐさが、好きなのに、たまに目をそらしたくなるんだ。
私は、君ほど強くない。
君が誰かを尊敬して、ちゃんと認めようとしてるのを見ると、私は嬉しい。
心の底から、君の世界が広がるのが嬉しい。
……本当はね。ほんとうに。
なのに、その隣で私は小さくなる。
自分の心が狭いことに気づいてしまう。
妬ましくなるんだ。
君が輝けば輝くほど、私は「隣にいる資格」を探し始めてしまう。
見つからないと、勝手に苦しくなるんだ。
私、ずっと前から薄々わかってた。
毎日の電話で、君が「頑張ってる話」をしてくれるたびに。
私は少しずつ、気づいてた。
このまま一緒にいたら。
私はいつか、君の夢を汚す。
だからね。別れよう。
これは「君のため」みたいな綺麗ごとじゃない。
私が弱いんです。
私が醜くなるのが怖い。
君を好きなままの自分で、終わりたい。
花火が、綺麗すぎたんだと思う。
あの夜、私は思ったんだ。
これ以上の幸せを重ねたら、私の中の「欲」が育ってしまう。
「もっと」って言い始める。
「私を選んで」って言い始めるんだ。
それは、君の人生を縛る。
私は、自分を誇れなくなる。
だから私は。
あの夜のあとに、ちゃんと区切りたいと思った。
フェードアウトじゃなくて。ちゃんと区切りたい。
君といた輝いた時間を本物にするために。そう決めた。
エゴイストな私を、恨んでもいいよ。
でもね。私は弱いから。返事が来たら読んでしまうと思う。
声を聞いたら揺れてしまうと思う。
だから、LINEも電話もブロックします。ワガママでごめん。
でもね。安心して。
私はそんなエゴイストな自分も、嫌いじゃない。ちゃんとここで、ちゃんとやっていく。
最後にひとつだけ。
いつか君が、本当の名作を作り上げたとき。
もし私に会いに来たら。
そのときは、私は逃げない。
ちゃんと笑って。素直に言ってあげる。
「おめでとう」って言ってあげる。
「桐谷が一番好きだった」って言ってあげる。
君のことを、愛してる。
R。
◆空港を去るとき
私は空港を出た。振り向かない。
桐谷は変わらない。
アイツは、いつものように誰かに元気に挨拶する。
そして、素直に相手を褒めるんだろう。
私は、アイツとのLINEを消した。
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◆そしてすべては巡る――
2017年夏休み明け
短い夏休みが終わり。朝の立川駅。
大声で桐谷は白木に言う。
「白木。いつもすごいな。
俺も同期として誇りだな。
白木は、一見ロジカルに見えて。情熱があるの、同期からもわかるよ。
すっげーカッコいい。」
白木は答えずにうつむきながら目線をそらした。
人にはいろんな生き方や思いがそれそれ。
それと戦うやつ、全力で会わせるやつ、一週間まわって少しずつみんな成長してる。
そんな円環が無限に広がってるとおもえるだけでなんか楽になりますね。
今Rについて書くか迷ってます。なので連載終了ボタンはまだ押せなくてすいません。
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