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正月そうそう今年の一番長い1日

別連載のスピンオフエピソードです。

主役は毎回変わります。


今回は空真 颯真の密室コントです。

◆2026年正月開


年始の資料管理室は、資料整理のシーズンだ。他部署が落ち着いて、部署間の資料も減る。

だから俺たちは、やっと“本来の業務”に戻れる。


俺(空真)は2026年明けから、資料倉庫の整理に明け暮れていた。倉庫は資料管理室の隣――扉一枚でつながった、ミニ図書館みたいな場所だ。


整理して、片づけて。

ゆっくりと流れる穏やかな時間。

気が緩むほどの静けさ。

気づけば、俺はいつの間にか昼寝していた。


どれくらい時間がたっただろう。

ガチャ、扉一枚向こうのドアが開く。俺は、目をこすりながら意識を戻す。


正月早々、俺の「今年いちばん長い一日」が始まる――そのことをまだ俺は知らない。




扉越しの声だけで、白木先輩と有村が賑やかに話しているのが聞こえてきた――


※※※※※※※※※※


有村が


「いや~年明けちゃいましたね」


「あっという間だったね!」


「先輩、年末年始何していました?」


「結局設定資料とかのRPGゲームの参考文献のチェック。宗教とか、悪魔とか、中世民話とか、まとまった時間ないと勉強できないんだよね」


「あ~分かります。

私も、年末大学の同級生からめっちゃ誘われていましたけど、ガン無視かまして、結局ずっと絵、描いていましたよ。


あけおめLINEうざいですよね~!」


※※※※※※※※※※


扉の向こう側の俺は思う。

有村無自覚に、白木先輩あおってる。


※※※※※※※※※※


白木先輩は


「それ分かる。ウザいよね。」


「先輩はめちゃくちゃ男受け良さそうじゃないですか?でも、男のにおい“全く”感じないっすね。」


「そんな“子供”ぽいのもう卒業しちゃったかな。」


※※※※※※※※※※


俺は、感じる。

有村、白木先輩の負けず嫌いに無自覚に


踏んでる!踏んでる!そこ地雷!


※※※※※※※※※※


「わかる!なんか男ってガキっぽい。私も、なんか乃木坂よりAKBっぽいとか、結構失礼なこと言われて、ムカついたりしてますよ。

おまえら、誰様相手に言っているんだっつて。


ウチら可愛いの、もはや常識だって。テスト出るから。


ところで・・・なんか白木先輩ってAKBより乃木坂って感じですよね?


男受けMAXって感じ。うらやまし~」


※※※※※※※※※※


おいおい。

有村どこまで天然なんだよ。

それとも本気であおってるのか?


※※※※※※※※※※


「乃木坂って言われたことないかな。浜辺美波とか清原果耶って言われることおおいよ。


最近だとえっと~、福原遥って。


人と比べるのデリカシーないのを分かってない、男子おおいよね。

有村さんの気持ち分かる~。」


懸念が確信に変わった。

白木先輩、完全に戦闘モードだ。

有村、気付け!気付け!


「白木先輩、福原遥って言われるんすっか?

それ、ちょっとガキっぽいですよね。え~わかんない~。だって白木先輩大人女子だもん。」


※※※※※※※※※※


これ、天然じゃない。

AKBくらいから、有村も戦闘モードだったんだ。

これ、外に出られん。どんな顔して出て行けば分からん。


いわば扉の向こう側に、前門の虎と狼が激しく笑顔でガチバトルしてる。


出るの無理、無理!


その時、事件が発生した。


俺の、こ......後門に悪魔が忍び寄る。トイレに行きたい......


やり場のない苦しみ。

俺は冷静に原因を推測する。

あれだ!


それは大晦日。


有村がおせち作りすぎたって、珍しく、俺んちに芋きんとんと、鶏の甘露煮を持ってきた。


その時はかわいいとこあるじゃんって有村のこと思った。

でも、その鶏の甘露煮はやけに酸っぱかった。


腐った甘露煮に、芋きんとんの炭水化物がブーストをかけ、俺の悪玉腸内フローラを咲き誇らせたに違いない。


悪魔のような花畑。


冷静な分析の向こう側、二人のバトルは加速する。


※※※※※※※※※※


「そういえば。聞いたわよ。

有村さん、おせち、作って空真君にプレゼントしたって。

すごいな~。私料理、全然だもん。

しばらく家では料理作ってないかな。いいお嫁さんになるね。


私、全力で二人のこと応援しちゃえる。」


「あれは、クウマに残飯処理させただけっすから。

クウマと私とじゃ、全国の私ファンが黙ってないでしょ!」


※※※※※※※※※※


扉の向こう側でも分かる有村の鼻息。

その残飯処理のおかげで俺は今黒い花畑に襲われてるのに...


※※※※※※※※※※


「話は変わりますけど、

白木先輩だって、ニンニク料理食べた午後、マスク、二重につけてますよね。」


「あら、それは有村さんもよね?」


「いや、ぜんぜん違う!


私は、いろんな人と打ち合わせがある。いわばエチケット!

でも白木先輩は、基本、空真君と

ふたりっきりじゃないっすか。


私ならば空真君とならば、ニンニク料理のあとも、マスクなんてつけないっすよ。

白木先輩こそ、あいつのこと、意識してるんじゃ、ないっすか?


やっぱり、二人っきりなら

ほっとけなくなっちゃう系?

意識しちゃう系?」


※※※※※※※※※※


たしかに・・・マスクつけている。


※※※※※※※※※※


「それに、白木先輩一郎系ラーメンおいしいからって、あんまりがんばらない方がいいんじゃないっすか?

私も、就職してから、基礎代謝落ちちゃって。まだ“新人”なんすけどね。」


「それは......野菜も食べているから、プラマイゼロなんだよ。


それに、ジムの先生も、チートデーは大切だって言ってたもん。

ところで、有村さんも鍛えた方がよろしいのでは?

あら、さっき基礎代謝、落ちたって言ってたでしょ?


この業界、油断するとすぐに女子力下がっちゃうから。」


有村がぼそっと、


「……まっ、そっすね。」


一拍。


空気が、ほんの少しだけ戻った。


※※※※※※※※※※


なんか、よくわからん。

ただ、いろいろ襲ってくる。

確かにいえることは、

この扉、開けらんねぇ。


※※※※※※※※※※


「でも、所詮クウマっすもんね。

ウチらの相手じゃないっすもん」


「それ。わかる~有村さん。

なんか、なんか~ごめんね。」


部屋中が笑顔に包まれる。


※※※※※※※※※※


俺は扉の向こうで冷や汗が止まらない。少しふるえているかもしれない。


※※※※※※※※※※


「ところで、有村さん。

駅前に新しく、フルーツタルトの

店できたの知ってる?」


「あ!それかなり気になっていました。」


「甘いものは完全に別腹だもんね。」


「それな。白木先輩は完全小悪魔っすね。」


※※※※※※※※※※


それから、30分。

オチのない共感だけで作られたお菓子の話。

なぜ、めちゃくちゃ盛り上がる。まるで“あっち”は春のようなポカポカな空気。


扉の向こう側、完全にタイミングを逸した俺にとっては虚無と苦しみ。


俺の正月早々、“今年いちばん長い一日”は、まだ始まったばかりだ!

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