正月そうそう今年の一番長い1日
別連載のスピンオフエピソードです。
主役は毎回変わります。
今回は空真 颯真の密室コントです。
◆2026年正月開
年始の資料管理室は、資料整理のシーズンだ。他部署が落ち着いて、部署間の資料も減る。
だから俺たちは、やっと“本来の業務”に戻れる。
俺(空真)は2026年明けから、資料倉庫の整理に明け暮れていた。倉庫は資料管理室の隣――扉一枚でつながった、ミニ図書館みたいな場所だ。
整理して、片づけて。
ゆっくりと流れる穏やかな時間。
気が緩むほどの静けさ。
気づけば、俺はいつの間にか昼寝していた。
どれくらい時間がたっただろう。
ガチャ、扉一枚向こうのドアが開く。俺は、目をこすりながら意識を戻す。
正月早々、俺の「今年いちばん長い一日」が始まる――そのことをまだ俺は知らない。
扉越しの声だけで、白木先輩と有村が賑やかに話しているのが聞こえてきた――
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有村が
「いや~年明けちゃいましたね」
「あっという間だったね!」
「先輩、年末年始何していました?」
「結局設定資料とかのRPGゲームの参考文献のチェック。宗教とか、悪魔とか、中世民話とか、まとまった時間ないと勉強できないんだよね」
「あ~分かります。
私も、年末大学の同級生からめっちゃ誘われていましたけど、ガン無視かまして、結局ずっと絵、描いていましたよ。
あけおめLINEうざいですよね~!」
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扉の向こう側の俺は思う。
有村無自覚に、白木先輩あおってる。
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白木先輩は
「それ分かる。ウザいよね。」
「先輩はめちゃくちゃ男受け良さそうじゃないですか?でも、男のにおい“全く”感じないっすね。」
「そんな“子供”ぽいのもう卒業しちゃったかな。」
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俺は、感じる。
有村、白木先輩の負けず嫌いに無自覚に
踏んでる!踏んでる!そこ地雷!
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「わかる!なんか男ってガキっぽい。私も、なんか乃木坂よりAKBっぽいとか、結構失礼なこと言われて、ムカついたりしてますよ。
おまえら、誰様相手に言っているんだっつて。
ウチら可愛いの、もはや常識だって。テスト出るから。
ところで・・・なんか白木先輩ってAKBより乃木坂って感じですよね?
男受けMAXって感じ。うらやまし~」
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おいおい。
有村どこまで天然なんだよ。
それとも本気であおってるのか?
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「乃木坂って言われたことないかな。浜辺美波とか清原果耶って言われることおおいよ。
最近だとえっと~、福原遥って。
人と比べるのデリカシーないのを分かってない、男子おおいよね。
有村さんの気持ち分かる~。」
懸念が確信に変わった。
白木先輩、完全に戦闘モードだ。
有村、気付け!気付け!
「白木先輩、福原遥って言われるんすっか?
それ、ちょっとガキっぽいですよね。え~わかんない~。だって白木先輩大人女子だもん。」
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これ、天然じゃない。
AKBくらいから、有村も戦闘モードだったんだ。
これ、外に出られん。どんな顔して出て行けば分からん。
いわば扉の向こう側に、前門の虎と狼が激しく笑顔でガチバトルしてる。
出るの無理、無理!
その時、事件が発生した。
俺の、こ......後門に悪魔が忍び寄る。トイレに行きたい......
やり場のない苦しみ。
俺は冷静に原因を推測する。
あれだ!
それは大晦日。
有村がおせち作りすぎたって、珍しく、俺んちに芋きんとんと、鶏の甘露煮を持ってきた。
その時はかわいいとこあるじゃんって有村のこと思った。
でも、その鶏の甘露煮はやけに酸っぱかった。
腐った甘露煮に、芋きんとんの炭水化物がブーストをかけ、俺の悪玉腸内フローラを咲き誇らせたに違いない。
悪魔のような花畑。
冷静な分析の向こう側、二人のバトルは加速する。
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「そういえば。聞いたわよ。
有村さん、おせち、作って空真君にプレゼントしたって。
すごいな~。私料理、全然だもん。
しばらく家では料理作ってないかな。いいお嫁さんになるね。
私、全力で二人のこと応援しちゃえる。」
「あれは、クウマに残飯処理させただけっすから。
クウマと私とじゃ、全国の私ファンが黙ってないでしょ!」
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扉の向こう側でも分かる有村の鼻息。
その残飯処理のおかげで俺は今黒い花畑に襲われてるのに...
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「話は変わりますけど、
白木先輩だって、ニンニク料理食べた午後、マスク、二重につけてますよね。」
「あら、それは有村さんもよね?」
「いや、ぜんぜん違う!
私は、いろんな人と打ち合わせがある。いわばエチケット!
でも白木先輩は、基本、空真君と
ふたりっきりじゃないっすか。
私ならば空真君とならば、ニンニク料理のあとも、マスクなんてつけないっすよ。
白木先輩こそ、あいつのこと、意識してるんじゃ、ないっすか?
やっぱり、二人っきりなら
ほっとけなくなっちゃう系?
意識しちゃう系?」
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たしかに・・・マスクつけている。
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「それに、白木先輩一郎系ラーメンおいしいからって、あんまりがんばらない方がいいんじゃないっすか?
私も、就職してから、基礎代謝落ちちゃって。まだ“新人”なんすけどね。」
「それは......野菜も食べているから、プラマイゼロなんだよ。
それに、ジムの先生も、チートデーは大切だって言ってたもん。
ところで、有村さんも鍛えた方がよろしいのでは?
あら、さっき基礎代謝、落ちたって言ってたでしょ?
この業界、油断するとすぐに女子力下がっちゃうから。」
有村がぼそっと、
「……まっ、そっすね。」
一拍。
空気が、ほんの少しだけ戻った。
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なんか、よくわからん。
ただ、いろいろ襲ってくる。
確かにいえることは、
この扉、開けらんねぇ。
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「でも、所詮クウマっすもんね。
ウチらの相手じゃないっすもん」
「それ。わかる~有村さん。
なんか、なんか~ごめんね。」
部屋中が笑顔に包まれる。
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俺は扉の向こうで冷や汗が止まらない。少しふるえているかもしれない。
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「ところで、有村さん。
駅前に新しく、フルーツタルトの
店できたの知ってる?」
「あ!それかなり気になっていました。」
「甘いものは完全に別腹だもんね。」
「それな。白木先輩は完全小悪魔っすね。」
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それから、30分。
オチのない共感だけで作られたお菓子の話。
なぜ、めちゃくちゃ盛り上がる。まるで“あっち”は春のようなポカポカな空気。
扉の向こう側、完全にタイミングを逸した俺にとっては虚無と苦しみ。
俺の正月早々、“今年いちばん長い一日”は、まだ始まったばかりだ!
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