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白木凪の場合~新人時代と蜜柑(みかん)~

別連載のスピンオフエピソードです。

主役は毎回変わります。


今回は白木凪の場合。

◆プロローグ


長距離走がすきだ。

止まらない限り、ゴールまで少しずつ近づいていく感覚。

昨日の自分より少し強くなれる感覚。

自分がくじけない限り立ち止まった人を追い抜ける。


その“いとなみ”が好きだ。


RPGはもっと好きだ。

敵を倒し、経験値をあげ報酬を得る。

計画的に成長を数字で見ることのできるステータス。

自分の成長へのエゴイズムなのにそのプロセスは世界を救うことにつながる設計。


すべてが美しい。

すべてが正しい。


その美しい世界に比べ、現実は“キタナイ”どうでもいい人間関係。愛想笑い。

必要のないことが多くを占めるルーティン。

現実は、不自由だらけ。


だいたい、美しくない。

だから私は、きれいな側を目指していた。


◆2017年春


私は、RPGの仕事がしたく、K大学の文学部を卒業し、そしてレジェンドソフトに入社した。


同期の中で、3人。

企画開発室。選別された新人が配属される部署。

私にとっては計画通りの人生だった。


同期は、3人。

私(白木 凪)と桐谷、そしてS。


企画開発室は、単純にゲームの企画をする部署じゃない。

作成したプロットを、デザイナーの「演出がしたい」と、プログラマーの「そのスペックじゃ無理」の両方が飲める形にして、同じ企画書で成立させる。


この部署では、新人の上澄みがはじめに配属され、そしてその8割が下界の部署に落ちるか退職する。


黒瀬部長は伝説のプロデューサー。

適当な意見は通さない。

新人は、プログラム論、シナリオ論。

あと、出来たゲームのデバッグ作業。

プレゼン資料づくり、その他雑用。


それを通し、この業界の仕組みを学ぶ。


◆2017年夏の終わりのある日


2017年夏休み明け。


短い夏休みが終わり朝の立川駅、


大声で


「白木!いつもすごいな~!

俺も同期として誇りだな!」


私は答えずにうつむきながら目線をそらした。


朝の静かな時間、デリカシーなくいつものように桐谷が声をかけてくる。私を現実に戻す。


私はこの図々しさが嫌いだ。嫌悪感をもつ。

そういうことを言う必要もないし自分への言い訳にしか聞こえない。


無言でぎこちない笑顔で会釈する。


「白木は、一見ロジカルに見えて情熱があるの同期からもわかるよ。すっげーカッコいい!」


具体性もセンスのかけらもない言葉に腹が立つ。私は(こういうやつなんだ)カテゴライズすることでやり過ごすことにしていた。


※※※※※※※※※※


夏休み明けのミーティングで、社内はざわざわしていた。


黒瀬部長が

「今年も新人コンペの季節がやってきた。

今年の新人は3人。大体仕事の流れが分かってきた頃だ。新作企画を3ヶ月用意する。

業務は続ける。

しかし雑用デバッグは免除。残業もしてもいい。とにかく期待している。」


企画室全体が熱気に包まれる。

私は、静かに心を燃やしていた。



◆2017年、秋の初め、別れ


「一身上の都合で短い間ですが、お世話になったレジェンドソフトを退職します。」


朝礼でSは下を向き挨拶をしていた。


開発室を去るSを桐谷は追いかけ


「なんか、同期なのにいろいろしてやれなくてごめんな。もっと一緒にいたかった。

次の仕事も応援してる!」


と叫ぶ。

二人は感情がこみ上げ涙が浮かぶ。


暑苦しいやりとり。

“無駄”な時間。

それを横目に私はカフェラテを作りに給湯室までいく。


その時、想定外の事が起きた。

桐谷は私を給湯室まで追いかけ大きくはないが強い声で、


「少しは同期になにかないのか!」


と詰め寄った。


Sには才能がなかった。

才能がなくてもそれを努力で補うことも出来なかった。

ただそれだけ。

桐谷の剣幕に私は嫌悪感を抱く。


「辞めたのは、彼の決断。

それに意見をするのは正しくない。

それを私に詰め寄ってくるあなたも、正しくない。」


桐谷のことが哀れに見えてきた。


「あなた、私達が今いる場所わかる?

桐谷君、あなたは間違ってる。

とても哀れよ。」


私は、桐谷を汚い物をみる目でそう吐き捨てた。


桐谷は理解できないんだろう。


「哀れ?」


憐憫れんびんよ。」


私は給湯室を後にした。



◆2017年晩秋・新人コンペ当日


その後、企画のため私は走り続けた。


ハードの限界。マーケット構造。それを前提としたオリジナリティ。

でも100点満点は自分でもつけられなかった。(95点か...)


焦燥感、尊大な自尊心、過去の大作に対する劣等感。満足はない。

でも、今の自分の全力であることも理解できる。悔いはなかった。


そして、私と桐谷はプレゼンをする。

すべての幹部そして黒瀬部長の鋭い目がプレゼンをするそれぞれにむけられる。


そして、休憩後――

黒瀬部長は発表する。


「総評をいう。今回の新人コンペは例年以上に、レベルが高いものだった。


一位白木、残念だが、二位は桐谷。」


全体の目が私を向く。


当たり前の結果。


桐谷に負けるような企画ではない事は、はじめから分かってる。黒瀬部長は続ける。


「それでは各自総評を言う。白木の作品は、今すぐゲーム化できる水準にある。」


私は少し驚いた後、黒瀬部長の言葉が続く。


「しかし、それはその辺のゲーム会社のこと。

レジェンドソフトの水準は全く満たしていない。

白木、おまえはレベル19。

でも、一人では戦えない後方のアタッカーと言うところか。」


黒瀬部長の評価が桐谷に向く。


「桐谷の完成度は白木に遠く及ばず。

ただ、荒削りだがでも”ひかる”ものはある。

レベル8。素手でぶんぶん戦っている、冒険の最初ってところだ。


でも、安心してくれ。新人コンペでここ3年、レベル5以上はいなかった。」


黒瀬部長は声をあげる


「今年の新人のレベルの高さにおまえらも危機感をもて。

白木、桐谷。それ以上は俺はいわない。

各自その意味を自分で答えを見つけろ。


以上。」


喝采のなか、私はプラスの感情はいっさいなかった。


◆コンペ後屋上


午後の休憩後の会社屋上。人影は全くいない。


私は、一人空をみあげていた。


雲一つない何処までも届きそうな秋の青空が私には、とてもモノクロに見えた。空だけじゃなく景色もすべて。一人カフェラテを飲みながら風にゆれるマフラーを押さえながら下を向く。


(私の全力レベル19か...計画練り直しだな...)


私はもう一度モノクロの空を見上げる。


そこに屋上のドアが開く。


桐谷だ。


「白木!おめでとう!やっぱおまえすごいよ!同期としても感動したよ!」


桐谷がなにをいいたいのか全く理解できない。

ただ、その言葉は嫌悪感、まさに私が感じるこの世界の醜さを言語化した“音”に聞こえた。


私は何もいわない。


「俺、レベル8だけど、いつか一緒にレジェンドソフトを支えよう!俺もっとがんばる。」


より嫌悪感が増す。一緒に?対等とでも思ってるのコイツ?それよりもっと努力するべき。


早くここから消えて欲しい。

私はまだなにもいわない。

ただ


消えろ!

消えろ!

消えろ!


――うざい――


嫌悪感が頂点になる。


桐谷はさらに言葉を続ける。

言葉を出そうとする桐谷に本当に怒鳴りたくなる。殺意に近い感情が満ちてくる。


「あとこれ、愛媛の実家から送られてきたんだ。じっちゃんの畑でとれた世界一甘くておいしいやつ。形は悪いけど、白木!

徹夜前にでも食べろよ。」


と袋から”それ”を取り出し、私に投げる。


“それ”は放物線を描き空に舞う。

それが空に放たれた瞬間――


いつも、走り続けていた私の時間が一瞬、スローモーションになる。


それはあまりにも

素朴で

純粋で

不完全な"だいだい”の球体。


蜜柑みかんだった。


私は"それ”を目で追う。


ミカンの放物線を中心にモノクロの空が本来の青に戻るような感覚がした。


私は一切を理解する――


桐谷は、この憎たらしい同期は、ゲームを作りたいという情熱だけで私には想像すらつかない遠い距離と不安を抱え上京したのだ。


私にはその思いは分からない。

今はその必要もない。


でも、その不器用な球体はそれを伝えてくれたような気がした。


そして、私の

ちっぽけな自尊心

世界に対する嫌悪感

競争にたいする焦燥感を


“ほんの少しだけ”溶かしてくれた、そんな気持ちにさせた。


◆立川コーヒーショップにて


あの後私は、結局なにもいえなかった。

でも、帰り道少しだけいつもと違う気持ちが湧き出た。

そして無性にいつも飲まないブラックコーヒーを飲んでみたくなった。


新人からの卒業証書を自分にあげようと言う感覚かもしれない。


まだ、ちっぽけな自尊心も

世界に対する嫌悪感も

競争にたいする焦燥感も

なくならない。


でも飲んでみたくなった。


私はブラックコーヒーを少し冷まし口に流し込む。

初めてのブラックコーヒーは


「苦くて

酸っぱくて、

少しあまくて


すごく


まずい」


――なのにまた、

私は飲むような気がする。

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