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アラサー冒険者のaimless odyssey  作者: 久遠堂 鍵介
第八章 「月下の檻」
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第35話 影の本領

 地下区画を離れたハルカは、足音を殺しながら礼拝堂の内部を移動していた。

 目的はただ一つ――ジュリアの捜索。


 人の気配は、まだ完全には消えていない。

 だが、その流れは明らかに前庭へ向かっている。

 残っている者が多いのは、上――屋上だ。


(……あそこに、何かある)


 信者たちが頻繁に昇り降りする様子は、嫌でも目についた。

 ならば、あえてそこを選ぶ。

 ハルカは礼拝堂の外へと回り込み、壁際へ身を寄せた。


 月光の影に溶け込む礼拝堂の外壁。

 そこには、淡く明滅する小さな宝珠が、等間隔に仕掛けられている。


 ――アラート・ノード。


 侵入者を感知すれば、音と光で周囲に知らせる、厄介な魔導具だ。

 熟練者ならば見抜けるが、雑に動けば即座に反応する。


 ハルカは息を潜め、影から影へと身を滑らせた。

 光の死角を縫い、わずかな凹凸に指先を掛けながら、静かに上へ。


 闇に溶け込むように――

 やがて、屋上へと辿り着いた。


 そこには、石造りの祭壇と魔法陣が準備されていた。

 風に揺れる燭台の火が、不気味な影を踊らせている。


 だが。


 ジュリアの姿はない。

 ヴァイアン・ヴェルゴの影も、ない。


(……ここが、舞台。だけど、今じゃない)


 儀式は、この場所で行われる。

 そう確信できるほどの準備は整っている。

 だが、主役がいない。


 ならば、今は退くべきだ。


 ハルカは屋上を後にし、次の手掛かりを探そうと視線を巡らせた。

 そのとき――


 礼拝堂の裏手。

 闇の中に、細長い影がそびえているのが目に入った。


 ――塔。


 しかも、その外壁にも、礼拝堂と同じようにアラート・ノードが仕掛けられている。

 前庭がこれほど騒然としているというのに、塔の入口に立つ二人の信者は、動こうとしない。


(……ここだ)


 確信が、胸に落ちた。


 ハルカは音もなく裏手へ回り込む。

 アラート・ノードを止める術は知らない。

 だが、無力化する方法なら――心得があった。


 死角へ滑り込み、ガーターリングから苦無を抜き放つ。

 一閃。


 宝珠は小さく砕け、光を失った。


 だが、その微かな音に、見張りが気づく。


「……ん?」


 足音が近づいてくる。


 ハルカは即座に壁を蹴り、塔の外壁をよじ登った。

 気配を探る信者が顔を出した、その瞬間――


 影が、落ちた。


 ハルカは上空から飛び降り、両膝を相手の首の後ろへ添え、そのまま圧し潰した。

 重力が加算された一撃に、男の身体が崩れ落ちた。


 声を上げる間もなく、失神。


 だが、もう一人が駆け寄ってくる。


「な、何だ――!」


 見張りの声には、明らかな動揺が滲んでいた。

 予想外の相手に対する焦りと、相手を小柄な少女と見ての油断――

 その二つが、致命的な隙を生む。


 ハルカは、掴みかかってきた敵の腕を潜り抜け、懐へ。

 反転――背負い投げ。


「かはっ……!」


 叩きつけられた衝撃に、男の息が詰まる。

 ハルカは即座に踏み込み、仰向けに倒れている男の胸に、掌打を打ち込んだ。


 鈍い音とともに、男は意識を失う。


 ハルカは二人の見張りを塔の影へ引きずり込みながら、ふと立ち止まった。


(……私、弱くない……よね)


 小柄であることも、女であることも、わかっている。

 腕力では劣る。

 だが、その分、速度と技に磨きをかけてきた。


 現に――今、こうして無力化できている。


 けれど、脳裏に浮かぶのは、あの日。

 シモンとの、最初の遭遇。


 自分の速度は通じなかった。

 技は見抜かれ、力も、経験も――比べるまでもなかった。


(……今も、前庭で……あの人は……)


 ハルカは思う。

 あの実力があるからこそ、この無謀な作戦が成り立っている。


 自分ひとりでは――

 ヴァイアン・ヴェルゴを見つけられたとしても、多勢に無勢。

 一太刀を入れる前に、押し潰されて終わる。


 だからこそ、シモンがこの作戦を提案したとき、半信半疑だった。

 だが、今なら信じられる。


(……シモンさんなら、大丈夫)


 ハルカは見張り二人を折り重ねるように隠し、深く息を吸った。

 そして――塔の入口へと、静かに足を踏み出す。

 闇の奥に待つものを、覚悟のままに迎えるために。


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