うそつきとはりのおはなし
「ねえ、師匠」
なんだ、と慣れた手つきで剣を磨きながらペペドマイヤが呟く。間の抜けた声で返事を返す彼女に、メーリは尋ねた。
「嘘ついたら針千本のーます、って本当に飲ませるんですか?」
何故私に聞く、と欠伸混じりで風神は言う。メーリは口ごもる。
「言いたいことは分かったけど」
まあ、実際、武器は針って守人もいるかもしれないしな。
ペペドマイヤがそう言うとその弟子は大きく頷いた。
「ま、私の一族だとそれは無い」
「ですよねー」
「ただしそれは嘘をついた場合の話」
ペペドマイヤが剣を研ぐのを止めた。
「どういう意味ですか?」
それを刀カバーに戻す。メーリはそれを横目で見ていた。
「私の一族の死刑方法だ」
「……」
今はどーだか知らないけど。そう言って風神はまた欠伸をする。
「見たことあったりします?」
「あるよ」
彼女の答えは早かった。そしてまだ続ける。
「凄かった。死ぬまで針を飲まされるんだぞ? 見る方も見る方だ。今まで一族の仲間として一緒にいた奴にどんどん針を飲ませるんだからな。いくら泣いても、叫んでも聞こえないふり。家族が近くにいようが、お構いなしだ」
メーリはひたすら黙る。なんと答えてよいのか分からない。それでも話は続く。
「口から血があふれようが、喉元が張り裂けようが、ずっと針を飲ませていく……」
メーリの顔が少しだけ歪む。ペペドマイヤはようやく嫌な話をしたな、と思った。
「嘘だけで針千本も飲まされちゃたまらないしな」
話題を戻そうと、ペペドマイヤは呟く。
針を飲む。
考えただけで足元がふらつく。それだけ師匠の話がリアルだった。
「何言ってんだ? 針千本で終わらないだろ」
「まだありましたっけ?」
ペペドマイヤは口角を釣り上げて笑った。
ゆーびきりげんまん、うそついたらはりせんぼんのーます、ゆびきった。
そう歌うとメーリの目を見つめた。見つめられたその少女は、首を傾げる事しかできなかった。