1/3
プロローグ
京都府長岡京市にある長岡天満宮は、菅原道真公を祀る日本を代表する天満宮のひとつである。
地元の人々からは『天神さん』と呼ばれており、キリシマツツジが咲く毎年4月の中旬から下旬には多くの観光客も訪れる観光スポットだ。
正面大鳥居をくぐると広がる池――八条ヶ池。
池を跨ぐように石畳のまっすぐな中堤が続き、その中堤の両脇にキリシマツツジが咲き乱れる。
キリシマツツジは無数の紅い花を密になって咲かせるため、中堤に足を踏み入れれば、まるで燃え盛る炎の中を歩いているかのような錯覚に陥る。
その時期だけ、紅く姿を変える長岡天満宮の中堤。
嘘か本当か、キリシマツツジが咲き誇る満月の夜、不思議な現象が起きる――という噂がまことしやかに囁かれている。
その噂とは、中堤に別の世界へ通じる扉が現れるとか現れないとか。
――別の世界へ通じる扉。
もし現れるとするのなら、その先にはどんな世界が広がっているのだろうか。