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第43話 しあわせ

 はい、そういうことで。


 仕事の早い国王陛下と無駄な時間を過ごすのがお嫌いなお父様とのタッグで。

 スピーディーに猫カフェ第一号店候補地が決定です。わーい。


 王城から馬車で半刻ほど離れた離宮。

 何代か前の王弟閣下の愛人様がお住まいだったところで、今はだれも住んでいない……という好物件。


 しかも、その館の形がいいのよね。

 長方形のすんごい広い中庭。

 ここで、お猫様を遊ばせたらいいよね。外に連れて行ったら迷子になるかもって心配がなくなるし。


 で、その中庭をぐるりと取り囲んでいる重厚な建物。

 外観は要塞の風貌で質実剛健、防衛のための建物といった印象なんだけど。

 車止めから建物の中に一歩足を踏み入れると、そんな印象は吹き飛んでしまう。


 繊細で緻密な石膏の彫刻が壁や柱、天井のすみずみまで施されている。それから、ローマ風の大理石の彫像群。等間隔に置かれ、ルネッサンス的な雰囲気というか、なんか美術館みたい。さすが元愛人宅。

 趣味のいい調度品、広くて長い廊下。

 壁の風景画だの人物画だのが飾られているし、壁際には暖炉にソファにテーブルに……、もう、このまま改装なしで猫カフェにしちゃっていいでしょ。


 うん。屋敷の中をお猫様たちが走り回っても大丈夫。

 高貴なかたをお迎えしてもオッケー。問題なし。


 お付きの人の控えの間だの、護衛の人の待機室だのも元々ある。

 猫の毛まみれになったご婦人のお着換え用の更衣室だって用意できる。


 すごいなー。


 地下には厨房もあるし、三階には客間もあるし。この客間は猫カフェに従事する職員寮として使ってもいい感じ。

 取り合えずフィリップとアナベルには、ここに住み込みで働いてもらって。あとは二人だけだと手が足りないから、ふたりは家令と侍女頭的に働いてもらって。お猫様お世話係をあと数人は増やして、掃除とかに下働きのメイドとか厨房係とか、いろいろ使用人を雇って。

 そんでもって、キジトラさんとサバトラさんと子猫たちにはここで暮らしてもらう。

 慣れたころに、猫カフェオープン!


 完璧だ。

 完璧なる猫カフェ第一号店だ。


 お客さん用飲食メニューはお茶とコーヒーと……。ああこの間作ったミルク練乳かき氷アイスのフルーツ添えでいいかーって、夏は良いけど寒い時期用のメニューは考えないとね。

 やっぱりアフタヌーンティーセットとか?


 猫のおやつも作らないと。

 お猫様戯画も描いて、壁に展示しよーっと。


 やることいっぱいだけど。

 夢の猫カフェオープンまであと少しと思うと楽しい!


 思いついたアイデアをお父様に言えば、完璧に遂行してくれる。ありがとう、超有能お父様。魔王様なんて思っててごめんねー。



 ある程度、猫カフェ店舗の形ができたところで、フィリップとアナベルと、キジトラさんとサバトラさんと子猫たちを連れて、猫カフェにやってきた。

 もう、そのままここに住んでもらうよーって言ってね。


 ラグにゃん、ロッシー、ラグママンはここには住まないけど、一緒に猫カフェに来た。


「さあ、みんなっ! 中庭とお屋敷は好きに遊んでねー」


 子猫たちはもう、一目散に走りだした。ああ、元気ー。かわいー。


 中庭の芝生の上に寝転ぶ子猫。

 木登りして、降りれなくなって、みゃあみゃあ泣く子猫。

 ロの字型の建物の中を何周も走り回る子猫。


 うんうん、たのしいねえ。


 ラグにゃんとロッシーも、興味深げにあちこちふんふんと見回っている。ふふふ。ふたり……じゃなかった、二匹でデートでもしてらっしゃい。


 ラグママンは、芝生の真ん中までトコトコ歩いて行って、空を眺めている。

 まぶしそうに目を細めて、ゆったりと呼吸をして。


「ああ……、空ってまぶしかったのね……」


 なんて、感嘆の溜息を吐いているみたい。


 ようやく、猫の暮らしにも慣れたかな?

 もう、怖いものなんてないよ。肩の力を抜いて、ゆっくりと人生……じゃなかった、猫生を送ればいいって体感したのかしらね?


 わからないけど。


 そんなラグママンの横に、すっとキジトラさんとサバトラさんが近寄っていき……。


「よかったですね。安心しましたね」


 みたいな感じで、顔を突き合わせた。


 そして……三匹が一列になんで、わたしのほうを見たかと思うと、頭を下げてきた。


「にゃ」

「にゃ」

「にゃ」


 ありがとうと言っているみたい。


「キジトラさん、サバトラさん。ここはもう怖いものはないよ。子猫たちと一緒にのんびり暮らして。それから、ここはね、猫カフェって言って、お猫様に癒されたいお客さんが来る場所にもなるから。そのお客さんたちと遊んでね」


「にゃ」

「にゃ」


 キジトラさんとサバトラさんはまるで「かしこまりました」とか「了解しました」というふうに鳴いた。


「ラグママンはラグにゃんと一緒にカッシーニ伯爵家に帰るけど、わたし、ここの猫カフェのオーナーだから。ロッシーとかと一緒にちょくちょくここに来るからね。安心して」


 まあ、強制するわけではないけど。

 ラグママンもねえ、まだ若いんだし。

 キジトラさんかサバトラさんと新しい恋でもしてもいいかと思うんだよね。


 ふふふ、恋、かあ……。


 わたしは、わたしの後ろに控えるようにしているアスランを振り向いた。


「ねえアスラン」

「なんですか、キアラ」


 お猫様は駆け回っているし、空は晴れて青い。


「いっしょにしあわせになろうねー」


 そう言ったら。アスランは顔を赤らめて「もう、とっくに。キアラにしあわせにしてもらっていますよ」と笑った。









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