第39話 子猫の名前
さてと、いきなり王城に乗り込んで陛下にご面談……というわけにはいかない。
まずはキジトラさんとサバトラさんと子猫たちをカッシーニ伯爵家に連れてきた。
帰ったら、カッシーニ伯爵や使用人のみんな、それからフィリップとアナベルがすごい心配した顔で待っていたんだけど。
大量お猫様を見てポカーンとなった。
うん、気持ちはわかる。
「皆様、ご心配をおかけしてごめんなさい。ですが……、星の光に導かれ、猫精霊様に出会い、そして……猫神様より多くのお猫様を下賜していただきましたの」
もうね、皆さん目が真ん丸。
わたしの話なんて聞いていない。
うん、いいや。放置しておこう。
それより大事なことがある。
先住猫がいる家に、新たな猫を連れてきた。
最優先事項は、先住猫のラグにゃん、ロッシー、ラグママンに「あなたたちが大切なんだよー。新しい子と仲良くしてねー」と伝えることだ。
じゃないと先住猫様、すねたりおびえたりするからね。
「ラグにゃん、ロッシー、ラグママン~。キアラが戻ってきたよ~」
「にああああああああ……っ!」
突進してきてくれたのがラグにゃん。わたしは両手を広げてラグにゃんを受け止める。
「心配かけたねー、ごめんねー。会いたかったよー」
「にあっ! にあっ! にいいいいいいいっ!」
ぐりぐりと頭をわたしの胸に押し当てるラグにゃん。うんうん、心配かけてごめんねー、わたしは元気だよー。ちゃんと帰ってきたよー。
ロッシーがのっそりと、そして、ラグママンがおっとりと、わたしのそばまでやってきた。
「ロッシー、ラグママン。心配かけてごめんね」
「にっ!」
ロッシーは短く鳴いて、顔をプイっと背けた。
あらあら。ツンデレさん流の「し、心配なんか、してねえんだからなっ!」ね。ふふふ~。
ラグママンも「にゃー」って鳴いてくれたけど「娘がすみません」って感じよねえ。
あははは。わたしはうれしいけどね。ラグにゃんが「二度と離れるものかー」って感じでしがみついてくれるの。
抱っこして、にゃごにゃごするよー。
「ロッシー、ラグママン。新しいお猫様、増えちゃったから、面倒見てあげてくれる?」
わたしがキジトラさん、サバトラさん、子猫たちのほうに視線を流したら、ロッシーとラグママンもそちらを見て……。
「にゃっ⁉」
ロッシーが飛び上がった。
あ、今までわたししか目に入っていなかったのね。フフフ、心配してくれてありがとう。
キジトラさんとサバトラさんがトコトコ近寄ってきてた。
「にゃご」
「にゃご」
「お世話おかけいたします。どうぞよろしく……かな?」
伏して、ご挨拶しているキジトラさんとサバトラさん。
ロッシーが「にゃ?」って言っているのは「ああ? 貴様たちはなんだ?」って感じなのかしら?
ラグママンが間に入って、お互いにニャゴニャゴ言っている。
自己紹介かな? 実に愛い。
子猫たちは、ものおじもせずに、カッシーニ伯爵夫妻、カッシーニ伯爵家の使用人たち、フィリップとアナベルにまとわりついている。
足の先だけ靴下をはいたように白い子猫を抱き上げるカッシーニ伯爵。幸福感に満ちた顔。
カッシーニ伯爵だけでなく、みんなきゃあきゃあと子猫様たちと戯れている。
うむ。しあわせで良かったね!
☆★☆
とりあえず、わたしの部屋から一番近いサロンをお猫様達用に開放してもらって。
その部屋にキジトラさん、サバトラさん、子猫たちを案内する。
「この部屋が、とりあえずのみんなのお部屋ね」
子猫たちが興味深そうに、ふんふんと部屋の中を見回っている。
キジトラさんとサバトラさんは「お世話になります」とお辞儀をした。
侍女たちには新たなる猫トイレを用意してもらった。あ、あと大量の毛布。サロンだからテーブルとソファとかはあるけど、ベッド的なものがないから。ベッド代わりに重ねた毛布を部屋の隅に置いておく。
「この部屋は自由に使って。屋敷の中は安全だけど、外に出るときは必ず一言わたしかこの二人に言って」
キジトラさんとサバトラさんと子猫たちにフィリップとアナベルを紹介。
「フィリップ、アナベル。キジトラさんとサバトラさんと子猫たちのお世話は任せるわ。しばらくはこの部屋で。陛下とのお話がつけば、移動する予定だけど」
「キアラ様……つまり、このお猫様たちが……、陛下の猫となるのですか……」
おおおおおっ! と感動しているフィリップとアナベル。
陛下のという言葉に、キジトラさんとサバトラさんは「は?」って感じに目をまん丸くさせた。あ、かわいい。
「……猫精霊様が、ご承諾してくれればね」
嘘だけど、一応言っておく。
先走って王城に連れていかれては、たまったものではない。
「今はわたしとこの猫たちは仮契約をして、この世に顕現してもらっています。その仮契約を解き、本契約を結ぶ……。手順をきちんと踏まねば、せっかくのお猫様が、元の猫天国へと帰られるかもしれません……」
重ねる嘘。
だけど、フィリップとアナベルは真剣な顔で頷いた。
「当面のお世話係はあなた方二人です。が、今後お猫様係も増やしていかねばなりません。新たな世話係を指導する、その教師としての役割も、ふたりには兼ねてもらわねばなりません。よろしいですか?」
「はいっ!」
「もちろんですっ!」
おおおおお。フィリップとアナベルの顔が輝いている。
よし。
「では、ふたりには子猫たちの名前を教えましょう」
えーと。
今すぐ考えないとね。十七匹の子猫の名前なんて、即座に覚えらえないわ。
ノートを取り出して、書く。
1 シロタビ 足の先だけ靴下をはいたように白い。
2 クロタビ 足の先だけ靴下をはいたように黒い。
3 チャタビ 足の先だけ靴下をはいたように茶色い。
4 ハチワレ 額に漢数字の八を描くような模様のブチ猫。
5 黒ブチ 白のベースカラーに黒のまだら模様が入っている。
6 茶ブチ 白のベースカラーに茶色のまだら模様が入っている。
7 タキシー 胸元だけが白い、タキシードを着ている感じ。
8 シロネ 真っ白シロネコ。
9 ハイネ グレーの被毛の灰色ネコ。
10 サビネ 錆び猫 黒と赤に二色の毛。
11 ハイサビ グレーと薄茶の混じった毛。
12 ミケ 三毛猫。灰錆び猫に白の経路が混じっている。
13 トービー 縞模様を持った灰錆び猫。
14 ポンシリ ポンポン飾りのような短いしっぽ。
15 ナガシッポ 体長とほぼ同じくらいの長いしっぽ。
16 カギシッポ 鍵のように、しっぽが曲がっている。尾曲がり猫。
17 マキシッポ コークスクリューのように渦を巻いたしっぽ。
書いたノートを広げると、フィリップとアナベルが真剣にのぞき込んできた。
「すぐに覚えるのはむずかしいと思うから。ミシンでバンダナ風の首輪を作って、その布のところに番号と名前を刺繍するわね」
そうすれば、使用人のみんなにも、子猫たちの名前が分かりやすいはず。
そういうことで、さあ、次は陛下との面談だー! 嘘も方便的に、がんばるぞー。




