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第36話 大号泣

リンゴを食べて、わたしも喉が潤って。

ふう……と一息ついたら、子どもたちがしくしくと泣きだした。

え、なに? どうしたの⁉


見れば、サバトラさんもキジトラさんも、涙を流しながら、リンゴを食べている。


「……おいしい」


小さい子がぼそっと呟いた。へ?


「……こんなに、おいしい、もの……。今まで、食べたこと、ねえや……」


キジトラさんが床に突っ伏して、泣き出した。ええええええええー?

サバトラさんまで子どもたちと抱き合って大号泣だ。


ど、どうしたのかな……?


「ありがとう。ありがとうございます……。アンタは女神様だ……。死ぬくらいなら、誘拐してって思ったけど……。悪かった。申し訳なかった……」


えーと、改心? それとも元々この人たち、悪い人ではなかったとか……。


泣いて泣いて、そして、その鳴き声のまま、ぽつりぽつりとみんなは事情を話してくれた。


元々細々と営まれていた教会の孤児院。その教会の神父様が高齢でお亡くなりになって。次の神父様は……派遣されてこなかった。

孤児院の子どもたちも、放置状態。

誰に訴えても、放置継続。

仕方なしに、意を決してマッグレガー侯爵家にまで乗り込んでみたけど……けんもほろろ。まあ、そうだよねえ。


飲み物は、雨水を溜めて。食べ物は残されたモノをみんなで分け合って食べて。

キジトラさんとサバトラさんはもともとこの教会の下男でしかなくて。高齢の神父様がお亡くなりになった後は、子どもたちと一緒に放置されて。当然給金もなく。たまに、臨時雇いのお仕事とかにも出ていたらしいんだけど、冬の間はそんな仕事もなく……。春になっても、ごくたまに、農家の種まきとか、そんな仕事しか見つからなくて。大勢いる子どもたち、全員を賄えるわけはなく……。

住むところはあるけれど、半壊みたいなものだし。

冬を乗り越えられたのが奇跡……って感じ。

あ、屋根はもともと壊れていたそうなのよね。修繕するお金もなくて、長年放置しているうちに、崩れてきて。で、その落ちた木材も燃やして、冬は暖をとっていた……。うわあ……。

カッシーニ伯爵家の借金もおっそろしいほどだけど、こっちもヘビーさでは負けていないなあ……。


なんとかしてあげたいけど……。うーん、今のリンゴみたいに、一時的に助けてあげられることはできても……ここはカッシーニ伯爵領じゃない。他領の、しかも、格上のマッグレガー侯爵家……。


手出しはできない。


うーん。ここはあれだ。あれしかない。


「……あなたたちは、マッグレガー侯爵家の領民なのよね。だから、わたしが……カッシーニ伯爵家のわたしがあなたたちにこれ以上なにかをすると、それが善意のものだとしても、マッグレガー侯爵家の権利を侵害することになるのよ」

「……はい。わかっています。助けてくれなんて、言えません」


言いたいだろうにね。

それでも、キジトラさんも、サバトラさんも、わたしに縋り付きたいのだろう本当は。


マッグレガー侯爵家に頼んで、この人たちを頂戴って言えないこともないんだけど……。痛くもない腹を探られることになるだろうし、なにより、ここの領地には、こういう不幸な人や子どもが、まだまだくさんいるんだろう。

全員をなんとかなんて、そりゃあ無理だ。領地でも乗っ取らない限り。


陛下に進言して、どうにかしろって言えない……こともないか。

お猫様と引き換えに……、いやいやいやいや、そんなことにお猫様を使いたくはない。

お猫様はそこにいるだけで天使なの。

愛されて、癒されて、かわいがられる存在なのよっ! 

交換条件で、差し出すものでは、断じてないいいいいいいいいっ!


だけど。


「死ぬ前に、こんなにうまいリンゴをみんなで食うことができた……。それだけで、しあわせだと……」


待て、死ぬことを前提に発言するな。生きろ。


……とか言っても、ねえ。事故に遭ったお貴族様の娘を、とっさに誘拐しちゃうくらいに追いつめられて。そこにリンゴ一個食べただけで、この様子……。


あー……。


空を、仰ぐ。

ここで、キジトラさんとサバトラさんと子どもたちを見捨てたら。

……わたしの良心が痛むなー。


「……一つだけ、わたしの取れる方法があるけど、それ、受け入れられる?」


キジトラさんとサバトラさんと、大勢の子どもたちが、目を見開いて、わたしを見た。

 

「あんまりいい方法じゃないのよ? いや、わたし的にはおいしい……いえ、嬉しい方法なんだけど」

「みんなで生き延びられるのならっ! どんなことでも頑張れますっ!」


キジトラさんはそう言うけどねぇ……。


「まず、一つ目。あなたたちはこの地では生きていくことができなくなります」

「そのくらい平気ですっ!」


子どもたちもこくこくと頷いている。


「二つ目。わたしの言うことには従ってもらいたいけど、ずっとわたしと一緒に居られるわけではありません。別の場所で生きることになります」


みんな真剣に、わたしの一言でも聞き漏らすまいと、真顔で聞いている。


「そして、三つ目。あなたたちは……人間ではなくなります」


へ? とか、は?とか、言われると思ったけど。

ぜんぜんそんなことはなかった。


「お嬢様ならおかしなことはしないと思います」


リンゴ一個で、そんな信頼。重っ!


「いい? 人間じゃなくなるって、わたし、今言ったの。具体的にはお猫様……。ニワトリサイズの小さな動物になるわ。それでもいいの⁉」


聞いてみたけど、全員が、首を縦に振っている。


「じゃあ……やっちまいますか。わたしの究極魔法っ! 行くぞっ! 『猫ネコはっぴーパラダイス☆』」


そうして、キジトラさんとサバトラさんと、大勢いる子どもたちは……眩しい光に包まれた。

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