第35話 いきなり食べてはいけません
うわ……。ここの子たち、あと何日生きてられるのかしら……?
想像すると、気が重くなる。
ああ、そうか。だからか。
キジトラさんとサバトラさん。わたしの身代金で、この子たちになんとかご飯を食べさせなければ……とか思っているのね。
でも、キジトラさんもサバトラさんも、まともに食べていなくて。短絡的に誘拐なんて考えて……、うわあ。
とりあえず、わたしは近くの長椅子に座って。行儀悪いけど、靴を片足だけ脱いだ。
その靴の中敷きをめくって、銀貨を二枚取り出す。
ん? なんでこんなところに銀貨って?
もちろんわたしのお父様になにかされたとき、もしくはお父様のせいでなにかに巻き込まれたとき。
そんなとき用に、いつも靴には銀貨を数枚仕込んである。
銀貨を手にして、中敷きを戻す。それで履きなおす。
それから、その銀貨を、キジトラさんに渡す。
「それで果物を買ってきてちょうだい。リンゴとか、消化に良いものね。ああ、肉とかは駄目よ。あなたたち、何日絶食しているのか知らないけど、いきなり重たいものなんて食べたら、死ぬわよ」
回復食……おかゆとか重湯とか、そういうもののほうがいいんだろうけど、それを作るための鍋やら薪やらもないだろう。だったら、果汁。それがいい。
キジトラさんは受け取った銀貨を信じられない目で見ている。
「ほらっ! さっさと行って買ってきなさいっ! わたしの監視はサバトラさんがいればいいでしょ! か弱い乙女なんだから、監視に二人もいらないわよっ!」
キジトラさんとサバトラさん、二人掛かりで襲ってきたとしても、わたしのほうが強いと思うけどね。
わたしの魔王なお父様に、万が一売られたとしても、逃げられるようにって、実は体もそこそこ鍛えているし。なにより猫化魔法を使えば簡単だ。
だけどねぇ……。
じっと動かない……というか、動けない子どもたちを見捨ててもおけないと思うのよ。
わたしの声に、キジトラさんは駆け出した。
サバトラさんは、茫然としている。食べていなくて、頭に糖分が足りなくて、考えることもできなくなりつつあるのかしらね~。
ま、仕方がない。
とにかく、キジトラさんが帰ってくるのを待つ。
その間に、誰も死なないでよーっと、心の中で願いながら。
しばらく経って、帰ってきたキジトラさんは……半裸だった。うわ……、痩せて、肋骨、丸わかり。ガリガリ。
なんで半裸なのとツッコミも入れられない。
シャツを脱いで、そのシャツを風呂敷みたいにして、果物をくるんで運んだのか……。なるほど。
買ってきたリンゴは、子どもたちとキジトラさん、サバトラさん、そしてわたしに一人一つはわたるくらいの分量だった。
「はいはいはいはい。一人一個ずつね。で、食べるときは、少なくとも三十回はもぐもぐもぐって、果肉を噛んで。すぐに飲み込んじゃあダメよ。果汁だけを飲む感じで。果肉はできるだけ歯ですり潰してから飲み込むように。ああ、皮は……吐き出すのよ」
ナイフがあったら皮を剥きたい……。だけど、そのナイフがキレイだとは思えない……。
仕方がないので、わたしはハンカチを取り出して、リンゴの皮をごしごし擦る。それからそのハンカチをサバトラさんに渡す。
「ほら、よく皮を拭いてから食べて」
「そんなお嬢様のハンカチなんていらねえよ。シャツで拭けば」
「……そんないつ洗ったかわからないような、汚いシャツで拭くくらいなら、そのまま食べたほうがマシでしょっ! いいからっ! わたしのハンカチで拭きなさいっ! 子どもたちもみんな、ハンカチで拭いてから食べるのよっ!」
わたしのハンカチを使いまわすのも良くないかもだけど、汚れたシャツよりマシだろう。
とにかくわたしは見本みたいに、がぶりとリンゴを齧る。もぐもぐして、皮は吐き出す。お行儀悪い? 知ったこっちゃない。
ものすごおおおおく噛んでそれから飲み込む。
「いいこと? 噛みなさい。死ぬ気で噛みなさい。そうすれば、あなたの体が驚かないで、ちゃんとリンゴを吸収してくれるから」
キジトラさんもサバトラさんも、そして、子どもたちも。
大人しく、わたしの言うことを聞いて、むしゃむしゃとリンゴを食べだした。よしっ!
これでとりあえず、わたしの目の前で脱水症状とか、そのままお亡くなりとか……のコースは無くなっただろう。




