第33話 あら、まさかねえ
二人はめっちゃ真面目だった。
すごい真面目に……わたしの描いたお猫様戯画をノートに書き写し、時間があれば、それを音読し……。そして、ラグにゃんたちお猫様のお世話に明け暮れている。
ニルスたちとの関係も良好で、お猫様ご飯の作り方もあっという間に覚えてしまった。
うーん、すごい。優秀というより、お猫様の魅力にメロメロなだけ、なのかもしれないけど。
「すごいねえ、ラグにゃん」
「にゃん」
「あの二人、お猫様係としては花丸つきで合格よねえ」
「にゃん」
二人が真面目で人柄も良いだけあって悩む。
だって、猫にしていい人間は、そう簡単には見つからないのだ。
悪党を、猫に変えることは簡単なんだけど。
そんな悪い性質を持つ人間を、猫化するとはいえ、陛下に献上なんてできないでしょう。
困ったなー。
やっぱりニワトリを猫化する魔法を開発しておくべきだったか……。
悩んで悩んで。
どうしようかなーとかすっごく悩んで。
悩んでいたのが悪かったのか、それともうっかりとなのか。
わたしは、誘拐されてしまったのだ。
ええと、どこから話したらいいものか……。
とにかくお父様から手紙が来たのよ。
一度帰って来いって。
理由はわからない。書かれていない。
だけど、魔王からの召喚を、無視するわけにはいかない……。
あとからなにをされるか、わかったもんじゃあないから。
お猫様係のフリップとアナベルがいるからお猫様たちのお世話は問題ない。
で、わたしは久しぶりに実家に帰ることになった。
「実家の用事が終わったら、すぐに、すぐにっ! 帰ってくるからねええええっ!」
「みいいいいいいいいっ!」
ひしっと。ラグにゃんを抱きしめて。
ロッシーはあきれ顔だ。
「にゃごにゃごにゃご」
今日中に帰ってくるくせに。多分ロッシーはそう言っている。
「お父様からの呼び出しとはいえ、そうそうカッシーニ伯爵家から離れられないからね」
陛下たちに、嘘を言ってしまったからね。
かといって、お猫様たちを一緒に連れていくわけにもいかないし。だって、連れていったらラグにゃんたちが、お父様に売らてしまうかもしれないしっ!
いやだああああああっ! わたしのっ! わたしのお猫様っ!
そんなわけで、涙の別れよ。まあ、半日程度だけど。
それでも離れたくないいいいいいいいいいいいいいいっ!
「実家に帰って、用事を済ませて。即座に帰ってくるから。ディナーには間に合うわ。フィリップ、アナベル。その間ラグにゃんたちはあなたたちに任すわ。なにかあったらアスランに聞いて」
フィリップとアナベルは、深々と頭を下げて「かしこまりました」と言った。
アスランは……ちょっと心配そう。
「アスランも、ラグにゃんたちをお願いね」
あなただけが頼りなの……っとばかりにアスランを見つめる。
まあ、フィリップとアナベルはもう信用も信頼もしているんだけど。
「……まあ、ご実家のご用事なら仕方がないのですが……」
なんて、さみしそうな瞳……。ああ、 アスランもかわいいわ! 撫でたいっ!
っていうか、撫でてもいいよね! もういっそ、ギューッと抱きしめちゃうっ!
「すぐに帰ってくるわ、アスラン」
勢い余って頬にキスをしたら、アスランは真っ赤になって。それでもわたしの頬にキスを返してくれた。
「……キアラの帰りを、待ってますから」
見つめ合って、うふふ~。私たちも、ずいぶんと婚約者らしくなったわねえ。なーんて。
そんなふうに半分浮かれれ半分後ろ髪を引かれつつ、わたしは実家に向かった。
だけど……まさか、カッシーニ伯爵家から出たわたしが……誘拐されるとは思ってもみなかったんだよなー。




