第32話 視察、当日
そんな感じでバタバタと。なんとか準備も終わった晴れの日に。
やってきました国王陛下御一行。もちろん魔王なわたしのお父様もいるよっ!
カッシーニ伯爵家、一同そろってお出迎え。もちろんお猫様たちもだ。
陛下だけではなく、ご一緒に視察に来られた皆様方……特にご婦人がたは、もう、目の色を変えて、お猫様たちを凝視だ。
「そ、そ、その生き物は……なんなのかしら?」
なんとかっていう侯爵夫人たちが、一緒に視察に来ていたんだけど。ミシンそっちのけでお猫様に見入っている。
ふふふ、そうでしょう、そうでしょう。わたしのラグにゃんとロッシーとラグママン、かわいいでしょう。
「猫という生き物です。ちょっと変わった生き物で……珍しいのですが」
「あ、あの、一匹、もらうことはできないかしら……」
そう言われることは想定しておりました。なので、対策は検討済み。
「申し訳ございません。この猫たちは、空想小説などに出てくる精霊に近い生き物なのです。この世にはあまり存在せず、適性のある人間と、主従契約と言いますか、隷属契約のようなものですが、それを結んでようやく顕現できる……。特にこの三匹は、わたしと魂の契約を結んでおりますので、離れてしまえば、この世から消えることになります」
嘘ですが。誘拐されないように、わたしから離せば消えると言っておく。
「まあ……」
「ですので、もし、猫をお求めでしたら、猫の知識をつけていただき、猫の元になる魂……的なものと出会い、そして、あなた様だけの猫を顕現させる……。そういう魔法を使わねば、猫を自分のモノとすることはできないのです……」
ちなみに猫の知識に関しては、このカッシーニ家に額装して飾ってある絵をご覧いただき、その知識をすべて覚えていただかなければならないのです……。
などと、重々しく言ってみた。
ミシンの視察ではなく、わたしの描いたお猫様戯画を、付き添いの侍女たちに命じて、メモさせているご婦人がたくさん出て……、というか、陛下の侍従もメモしてますけど。
はははははは。
ま、いーか。
で、ミシン工場のほうも案内したんだけどね。
サクッと見て、サクッと出てきて。
「他国に輸出可能な台数を、算出し、諸経費やもろもろ全て書面で提出せよ」
なーんて、わたしのお父様に命じただけで、またいそいそとお猫様戯画のほうへと戻られた陛下たち……。
えーと、なにしに来たのかなー?
ミシンはいいのかなー?
お父様が涼しい顔をしていらっしゃるから、まあ、平気なのか。
ミシンを、他国にも売りつけて、それで利益を上げられればオッケーですか? 細かいことは、無問題? ああ、そうですか。
それでは、疲れましたので、皆様をサロンにご案内。
練乳ミルクかき氷をお持ちする前までは、お猫様に、皆様のお相手をしてもらいましょう。
ソファに座っている陛下の足にすりすりしているのはラグにゃん。
手を伸ばしかけたご婦人方の手をすり抜けて、カッシーニ伯爵の膝の上に乗るラグママン。
カッシーニ伯爵は、ご満悦で、ラグママンの背中を撫でている。
陛下がものすごおおおおおおおく、羨ましそうな目で、カッシーニ伯爵を睨んでいるけど大丈夫?
魔王なお父様だけが、お猫様になんて気にも留めずに涼しい顔だ。
ロッシーと言えば……。部屋の壁際にずらりと並んでいるカッシーニ伯爵家の使用人の一人から、猫用ジャーキーを貰って、それを食べている。
ま、ロッシーもだいぶ猫生活、慣れたものねえ。
「……その、だ。儂が猫という生き物を飼うことは難しいだろうか」
陛下がぼそりと言ってきた。
えーと……。わたしが直答してもいいのかしら?
迷ったけど、陛下の目はわたしを見ている。
しかたない。
「僭越ながら、お尋ねさせていただきます。陛下は、猫知識……、我がカッシーニ伯爵家の廊下に飾っております、猫の絵の……、三百を超える知識を身に着けていただいた上で、猫をきちんと世話をするお時間がおありでしょうか?」
仮にも一国の王。猫を構う時間なんて……あるの?
そりゃあねえ、疲れた時に、ちょっと猫を触って癒される……くらいならあると思うけど。
聞いたら、やっぱり陛下は渋い顔をされていた。仕方がない。
「……陛下専用のお猫様をお世話するための、お猫様専属お世話係をまず誰かに任命していただいて。その者に、猫知識を身につけさせ、更にその者が猫精霊と出会い、専属契約を結び、猫が顕現。お猫様お世話係が、陛下のお近くで過ごし、そして、お時間がある時に、お猫様専属お世話係と共に、陛下がお猫様とお戯れになる……という感じがよろしいかと愚考します」
わたしの意見に、陛下は納得してくれた、らしい。
「その猫係というものは、どのような人物がふさわしいのか……?」
と、聞いてきた。
「はい、健康で、お猫様を愛してくださる穏やかなかたでしたら……。猫精霊様と契約を結び、お猫様として、この世界に顕現してくださるかもしれません。お猫様は、うるさい者を嫌いますので……」
「そうか、わかった」
後日、王城からの使いと言って、二人の使用人がカッシーニ伯爵家に派遣されて来た。
一人はフィリップ・リンゼイ・クラークさん。
もう一人はアナベル・テレス・マートンさん。
王城で働いているとのことだけど……、ご立派なお貴族様のご子息にご令嬢では……。
聞いてみたら、やっぱりそうで。でも、子爵家の四男に、男爵家の五女とかで。婚姻により爵位を継ぐとかは無理だから、王城で護衛兵と侍女として働いているんだそうだ。
お年のころは二人とも二十歳前というところだろうか。
穏やかに優しい雰囲気がある。
カッシーニ伯爵家に住み込みで、猫知識をおぼえ、お猫精霊を見つけ、陛下のためのお猫様をゲットする使命……。
「お猫様を、手に入れるまで、陛下の元へは戻れない……のでございます」
言葉だけは、割と悲痛だけど。
でも、目の前のラグにゃんたちを見てそわそわしている。
……うん、陛下云々を置いておいて、お猫様に触りたいのね?
はいはい、今日のところはラグにゃんたちと戯れてねー。
というわけで、お猫様好き仲間兼欲しかったお猫様専属お世話係をゲット……なんだけど。
わー、早いところ、猫になってもいい人間を探して、猫ネコ魔法を発動しないといけないかなー。




