第29話 魔王降臨、爆弾投下
らぶらぶ~とまではいかないけど。わたしとアスランの仲は、割とうまくいっていると思う。
顔とか近づけると、なぜだかアスランは真っ赤になるけど。
ラグママンも、少しずつ、猫の生活に慣れてきているみたい。
使用人の皆さんの評判がいいのよね、ラグママン。
特にカッシーニ伯爵夫妻なんて、もんのすごおおおおおおくかわいがっている。
「ロッシーは絶対に撫でさせてくれないが、ラグママンは……なんというか、こう……穏やかで。癒される……」
あー、この間なんて、カッシーニ伯爵、ラグママンに猫おやつまであげていましたもんねぇ。
ふふふ、お猫様との生活、良いでしょう。癒されるでしょう。
これまでのつらい日々が全てなかったことのように。今、カッシーニ伯爵家の空気は春のひだまりのよう。
ほんわ~とか、のほほ~んとか、そんな感じで、使用人の皆さんもゆったりと肩の力を抜いて、楽しそうにお掃除とか洗濯とかをしている。
うむ、これぞお猫様効果っ!
猫は皆をしあわせにする。
このままねえ、のほほ~んと時間が継続して、アスランと結婚して、穏やかな夫婦生活を送れればいいなーって思っていたのに。
まあ、人生、そううまくは転ばない。
悪魔が来たりて笛を……じゃない。
わたしのお父様がやってきて、爆弾宣言をしやがった。
「来月、このカッシーニ伯爵家の工場に、国王陛下が視察に来る」と……。
待ってください、お父様。
ここに、誰が、なんだって……?
「晩餐や宿泊の用意はしなくて良い。視察と言っても数時間ですぐに陛下は王城に戻られる。だが、休憩のための部屋や茶菓子などは用意しておいてもらいたい」
なんですと……?
「それから、キアラ。陛下と工場を案内するときに、お前も説明役として働いてもらうからな。服装もそれなりのものを用意しておくように」
わ、わたし……⁉
「お待ちください、お父様。なぜわたしがっ! お父様がいらっしゃればそれで十分でしょうっ!」
優秀な販売員のお姉さんたちもいっぱいいるでしょうにっ!
抵抗したら、にやっと笑われた。お、お父様の笑顔って……怖っ!
「カッシーニ式の手回しミシンと足踏みミシンを発案したのはキアラ、お前だろうに」
「そそそそそそうですがっていうか、元はと言えば、アスランのお父様が作って、わ、わたしはそれを、ちょっと、加工することを提案した、だけ……」
「お前のその提案で、借金の元が莫大な資産を生んだ。知っているか? 今、この国で、一番売れている商品は、お前が発案したミシンだ」
し、しらんがなっ! っていうか、そんなに売れたの⁉ マジかー。
「陛下はな、来年にでも、ミシンを国内で販売するだけではなく、付き合いのある隣国などにも売りだしたいとお考えだ」
輸出するのかーっ! っていうか、お父様。いつの間に、国王陛下なんかとつながり取れたのよーっ! あり得ないでしょう、元平民のたかだか子爵がっ!
「……つまり、お父様は、恐ろしいほどのお金を儲けることができた……ということですね?」
お父様は笑顔で頷いた。魔王閣下の笑顔……、怖!
「キアラ、お前に売り上げの二割を支払っても、笑えるくらいには儲けたぞ」
その言葉と共に、運び込まれた金貨が入った大量の、袋。
「……お父様、まさかと思いますが、これ……」
わたしがもらえるお金ですか、全部金貨ですか、そうですか。恐ろしい量ですね……。
どうしよう。いやお金は大事だよ。だけど、こんなにあると……、気持ち悪い。
いえ、国家予算なんかよりは少ないんでしょうけど。
使って減らそう。うん、そうしよう。
「このお金を使って、陛下をお迎えする準備をすれば良いのですね……」
「私のほうで出してもいいぞ。必要経費だからな」
「いえ、ご遠慮申し上げます……。お金はあったほうがいいですけど、身の程を超える以上にあると、恐ろしくてですね……」
そう言ったら、お父様に頭を撫でられた。うわっ! マジで怖いわ~。
「では、そういうことで。詳しいことが決まったら、また来る」
魔王は、爆弾をまき散らして、魔界へと帰られた……。でも、また来るのね……。あ、ああ……。
このところ、うふふ、あははと、春のひだまりの中で穏やかに過ごしていたのに……。
振り返って見れば、カッシーニ伯爵夫妻が、蒼白な顔で突っ立っていた。
「……ということで、国王陛下のご降臨とのことです」
受け入れ準備、頑張りましょう。




