第27話 固まった
「そうです。アスラン様です。今、アスラン様は、おしあわせですか? アスラン様のしあわせってなんですか?」
やっぱりねえ、しあわせっていうのは、みんなでしあわせにならなくっちゃ意味がない。
そう思って、アスラン様に尋ねてみたら……。
アスラン様は、フリーズした。
固まったまま、動かない。
かわいいかわいいわたしのラグにゃんが、お膝に乗って「にゃー」と鳴いても、動かない。
ロッシーも、心配のあまりか「にゃあにゃあ」言っているのに、微動だにしない。
「し、し、し、しあわせって……なんですか……?」
「はい?」
聞いた質問を、そのまま返された。
わからず、首を傾げたら……。
「ボク、しあわせになって、いいんですか……?」
小さなつぶやきが、アスラン様の口からこぼれた。
「ええ。だって、アスラン様はわたしの旦那様になるんだし。一緒にしあわせになりましょうよ」
で、わたしのしあわせはお猫様だけど、アスラン様のしあわせってなんですか……って、再度聞こうとしたら。いきなり、アスラン様が泣きだした。
「え、え、え⁉」
どうしたの?
「ボク……、しあわせになって、いいんですか⁉ 本当に⁉」
流れる涙がきれいねえ……なんて、言っている場合じゃないわねこれ。
「だって、ボクのお父様は……叔父上に死んだほうがマシなほどの苦しみを与えて」
あー、まあそうねえ。一時期のカッシーニ伯爵は、すごい顔していたものね。
「ん、でも、それ、もう解決してますよ」
だって、借金、もうないしね。
「ボクは、見ているだけで、なにもできなくて」
「だって、アスラン様、十三歳でしょ。なにか出来たら、そっちのほうがびっくりするわ」
莫大な借金をなんとかできる十三歳が、この世の、っていうか、前の世でもいいけど、どこにいるのよ。
まあ、いるかもしれないけど、そんなの何億人に一人いるかの天才とかだよねえ。
転生前の世界では、株でもやって、莫大な金額を稼いでいる人もいたけど、そのレベルを普通の十三歳に求めてもねえ。
そりゃあ、伯爵家のご子息として、それなりに高度な教育を受けていたとしても……。無理、じゃない?
「莫大な借金も、キアラ様がなくしてくれて」
「別にわたしがなんとかしたわけじゃなくて、わたしの守銭奴のお父様がしたことですよ」
「ボクは……、なにも、できなかったのに、なんにも、してなかったのにっ! なのにっ!」
叫ぶ、声。
今まで、黙って、溜めてたものを吐き出すような。
「こんなボクが、しあわせになんて、なって、いい、はずがないっ!」
あー、そっか。
物わかりの良い、紳士的なかただなーって思っていたのは。
実は、嵐の中心で、翻弄されていて、そして、お地蔵様のように固まっていただけ、なのか。
これが、アスラン様が、心の奥に、溜めていた、気持ち。
わたしは、そっと、アスラン様の手を取った。両手で、両手をぎゅっと掴む。
「アスラン様に、しあわせになってもらわないと、わたしが困ります」
ゆっくりと、言った。
目を見て、その目を逸らさないで。
「だってねえ、わたし、今、すごーくしあわせなんですよ」
にへらっと笑う。
転生前の、あのっ! お猫様に触れない日々っ!
ようやく手に入れた、お猫様との素晴らしい毎日っ!
「ラグにゃんがいて、ロッシーがいて。更にラグママンが増えて。ふふふ、夢の多頭飼いに着々と近づいているの……」
ふっふっふ……っ。頬が緩むわ。
「まあ、人生楽あり苦あり。とりあえず、わたしのですねぇ、魔王なお父様が今後どう動くかによって、この今のしあわせは、どうなるかわからないという、薄氷の上のしあわせかもしれませんが。しあわせはしあわせで固めて、どんどんしあわせにしていかないと、と思うんですよ」
うん、まあ……。ミシンのマージン二割で、お金、着々と溜めているから、いざ、カッシーニ伯爵家がお父様に乗っ取られても、そのお金を持って逃げればなんとか……とか、思っているけど。
だけど、わたしのしあわせは、盤石ではない。
だから、周りの人、みんなしあわせ状態で、お父様が入り込む隙なんかないくらいの、鉄壁のしあわせガードっ! を、作ればいいんじゃないかなって思っているんだけど。
甘いかなあ。
でも、わたし一人でしあわせよりは、みんなでしあわせのほうが、何倍も幸せポイント、たまると思うよ。
しあわせの、好循環。
それが良いと思うんだよね。
だから、アスラン様にも、しあわせでいてもらわないと、わたしが困るの。
そう伝えたら、アスラン様は、顔をぐしゃぐしゃにして、子どもみたいに大泣きを、した。




