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第21話 しあわせになってもらおうかなー

 二階にって言っても、いきなりわたしの私室や寝室にご招待というのもあれかなあ…。

 ま、でも、ラグにゃんとロッシーが一番慣れているのはわたしの寝室だ。


 というわけで、いきなりではあるが、どでかいベッドがある寝室へ、ご案内。


 お猫様が転がしやすいように、毛の長い絨毯なんてものを先日購入しておいて、それを暖炉の前に敷いてあるの。

 新品、ふかふかの絨毯。

 ステファニアさんのお母さんにはそこに腰を下ろしてもらう。


 そのお母さんにまだ、ラグにゃんはしがみついている。

 ロッシーは、心配そうに、お母さんの横からラグにゃんを見つめている。


「とりあえず、お茶……と言いたいところだけれど。ラグにゃんが落ち着くまで待たないとねぇ……」


 仕方がないので、お母さんのほうに事情を聴くことにする。


「あのね、ステファニアさんのお母さん。さっきはステファニアさんのお父さんを脅すためにあんなことを言ったけど。わたし、あなたに危害を加える気はないから安心してね」


 まずこれだけは、言っておかないとね。


「でも、わたしがああいうふうに話を持って行かなかったら、借金返済のために、ステファニアさんのお母さんは、ステファニアさんのお父さんに売られていたかもしれないって思って……」


 ラグにゃんの背を撫でていた、ステファニアさんのお母さんの手がピタッと止まった。


「……そう、ですね。ええ、わかっていました。だけど……」

「だけどって、ステファニアさんのお母さん……って、この呼び方いい加減面倒だわね、あなた、お名前は?」

「あ……、スザンナ、と申します……」

「そう、じゃあ、スザンナさんって呼ぶけど。スザンナさんは、ステファニアさんのお父さんのこと、愛しているの?」


 あんな借金持ちのおっさんに惚れていても、良いことないと思うけど。惚れた腫れたはねえ、理性じゃどうにもならないからなあ……。


「いいえ……。娘をお貴族様のお屋敷で働かせて、その給金を巻き上げて、全て賭博に使い……。それでもそのお金が無くなったら、お貴族様の愛人になって、もっと金を持ってこいなどと、娘に命じるような……そんな男のことなど、愛なんて……。だけど」

「だけど、なに?」

「もしかしたら、いつか、娘が帰ってくるかもしれない。お貴族様と一緒に駆け落ちなんてしても、いつか捨てられて、ぼろぼろになって帰ってくるかもしれない……。そう思うと……、今いる家から離れることもできなくて……」

「あー……」


 そっか、娘のために、耐えていたのか……。


 嗚咽もあげないで、静かに泣くスザンナさん。

 苦しいの、耐えていたのね。

 だけど、あの手の男は下種だし。耐えていたところでステファニアさんは帰ってこないし。まあ、それは、わたしのせいでもあるんだけど……。


「にー……」


 鳴いているスザンナさんの腕の中で、ラグにゃんが弱々しく鳴く。


 賭博で、借金を山のようにする。そんな夫や父親を持ってしまったのが運の尽き……なのかしらね。

 そもそも、ステファニアさんがジュリオ様と真実の愛なんて言い出したのも……お父さんに命じられてなのかなー。

 だから、猫化して、ジュリオ様に媚び売らなくて済むようになったら、わたしに懐いたとか……。


 うーん、真実はわからないけど。

 かわいそうだったのかなー、ステファニアさんも、スザンナさんも。


 うーん……。


 人間、生きていれば、どうしようもないことだってある。


 転生前の、わたしの猫アレルギーだって、努力してなんとかなるって種類のものではなかったもの。


 どうしようもないことは、確かにあるの。

 だけど。

 どこかでいきなり、環境とか運命とか、なにかが変わることだってある。


 だから、しあわせになることを、諦めたくないんだけどな。


 わたしのしあわせ。

 それはお猫様。

 猫を飼って、猫を愛でて、そうして生きていければそれだけでしあわせ。


 じゃあ、そのお猫様は?


「ねえ、ラグにゃん。今、しあわせ? 猫で、しあわせ?」


 聞いてみた。


「にゃんっ!」


 スザンナさんから離れることなく、それでもラグにゃんは、答えてくれた。


「じゃあ、ロッシーは? ロッシーも、しあわせかなあ?」


 ロッシーは「……にぃ」となんか、文句ありそうだけど、まあ、こうなった以上仕方がないみたいな返事を寄越してきた。


「そっか。ありがと」


 じゃあ……、スザンナさんにもしあわせになってもらおうかなー。



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