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第20話 猫爆弾、体当たり

 さてと……。カッシーニ伯爵家の玄関ホールに残されたのは、がっくりとうなだれたまま、動きもしないステファニアさんのお母さん。それから、黙ったままでいてくれたカッシーニ伯爵。それから、わたし。


 わたしはふうと息を吐いて、取りあえず、カッシーニ伯爵に向かってにっこりと微笑んで見せた。


「わたしのお父様のところにも、あのように金をせびりに筋違いな文句をつけてくる輩が多数いたのです。彼らにまともに対しても、無駄。借金を抱えてまともな思考なんてできなくなっていますから」

「そ、そう……だな……」

「カッシーニ伯爵も、ご理解いただけるでしょう? 莫大な借金を抱えると、人間、落ちるところまで落ちます。特に、自分の借金をなくすためなら、他人を脅してでも……と考える者に対処する方法は、ただ一つ。こちらから、脅す。付け入る隙など見せないようにね」

「な、なるほど……。で、その女性はどうするのかね……?」


 あ、カッシーニ伯爵も、ちょっと腰が引けている。さっきのわたしの演技、ちょっとやりすぎたかしら……。

 別に、お父様に売りつけたりはしませんよ。

 三匹目の猫にして、かわいがる、つもり。

 あー、別の手もあるか。ラグにゃんとロッシーの専属世話係。

 わたしがお世話したい気持ちはあふれんばかりにあるんだけど。

 このところ、ミシンのほうの事業とかいろいろあったし、今後、また忙しくならないとも限らない。専属お猫様係が必要かなーって思っていたのよね。


 さて、どうしよう。どっちがいいかなーと考えていると。


「にゃあああああああああああああああっ!」


 ものすごい鳴き声というか、叫びが聞こえてきた。

 ラグにゃんだっ!

 二階でなにかあったのかと思い、急いで階段を上ろうとしたら……。

 上から猫が降ってきた。ではなく、転げ落ちる勢いで、ラグにゃんが、階段を下りてきた。


「にゃああ、にゃああ、にゃあああああ……っ!」


 駆け下りて、はっとなにかに気が付いたように、足を止めて。それから、項垂れているステファニアさんのお母さん目掛けて、一直線に走って行った。


「にーーーーーーーっ!」


 猫爆弾に体当たりされた、ステファニアさんのお母さんが、驚いて顔を上げる。


「え、え、えっ⁉」

「にゃあにゃあにゃあにゃああああああああっ!」


 ステファニアさんのお母さんに、ラグにゃんがしがみつく。必死になって鳴いて、何かを訴えている。


「あー……、ステファニアさんのお母さん。その子はね、その……、名前をラグにゃんと言います」

「は? ラグ……にゃん?」


 呆気にとられたのか、ぽかんとした口で、ステファニアさんのお母さんはその名を繰り返した。


「その子が落ち着くまで、ちょっとその背中を撫でてやっていてください」

「は、はい……」


 そっと、撫でているうちに、ステファニアさんのお母さんの顔も、なんか、なごんできた。

 うんうん、猫、かわいいよねえ。

 撫でていると、落ち着くよねえ。


「にぁ……」


 階段を、もう一匹の猫であるロッシーが、のそのそと降りてきた。


「あらロッシー。ラグにゃんを心配してきたの?」

「にぃ……」

「そっか、いい子ねロッシー」

「にぎゃーっ!」


 あら、子じゃないぞ、オレは立派な大人だぞと言わんばかりに歯を向かれてしまったわ。ふふっ、かーわいい。


「あー、そうだ。カッシーニ伯爵も、このロッシー、撫でてみます?」


 ついでに言ったら、カッシーニ伯爵の頬も、なんか知らないけど、即座に緩んだ。


「ふ、触れてみたいと思っていたのだが……」

「うんうんそうでしょう、お猫様、かわいいでしょう……。あら、ロッシー」


 父親に撫でられるのなんて、嫌だーっとばかりに、ロッシーは「シャーっ!」と威嚇のポーズ。


「あら……駄目みたいですねぇ」


 がっくりと肩を落としたカッシーニ伯爵。


「お父様に、そのくらい、いいじゃないのロッシー」


 小声で尋ねてみたら、「嫌にゃ」とばかりに、プイッと横を向かれた。


「あー、伯爵。ロッシーはちょっと機嫌屋さんなところがあって。なかなか難しいんですけど。あっちのラグにゃんは……今はあれでも、普段は愛想振りまく触りやすい猫ですので。そのうち機会を狙ってください」

「そ、そうか……」


 あら、本気で残念そう。

 うん、カッシーニ伯爵も、お猫様、触りたくてうずうずしていたのかしらねー。


 ま、次の機会にでも。


 で、ラグにゃんは、ステファニアさんのお母さんに、ひしっとしがみついたまま、動こうとしない。


「とりあえず、玄関ホールにいつまでもいるというわけにもいきませんので。お猫様とステファニアさんのお母さんはわたしの部屋にでも連れていきましょうか」

「そうか……」


 あら、カッシーニ伯爵、声がまだ残念そうね。うん、そのうちおさわりタイムをもうけますので。


「ステファニアさんのお母さん、そのままラグにゃんを抱っこしていてね。二階に行きましょう」




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