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第19話 悪役令嬢みたいな嗤い

「そう……、お前たちがあのステファニアの親、なのね。わたしから、愛しい旦那様を奪った悪女の……。さて、この始末を、どうつけていただこうかしら……」


 カッシーニ伯爵も、ドン引きしているほどの、わたしの演技。

 だけど、カッシーニ伯爵に向けて「ちょっと黙っていてくだだいね」と目線を流しておく。


 そして、その目線を、ステファニアさんのお父さんのほうに向ける。

 もちろん、悪役令嬢バリの鋭い目つきだ。


「せっかく嫁いできたというのに、夫となる愛しいジュリオ様は、ステファニアなどという女に騙されて、初夜も済まさずに、逃げられた。このわたしの気持ちがあなたにわかるかしら……? ねえ、屈辱って、どうやって晴らしたらいいと思う?」

「あ、あ、あ……」


 わたしが一歩近づけば、ステファニアさんのお父さんは、一歩後ろに下がる。


「ちょぅど、あの女を、探し出して。わたしから愛しい旦那様を奪った罪を償ってもらおうかと思っていたところなのよ。だけど、探し当てたところで、既に愛しいジュリオ様はステファニアなんていう醜い女に汚されているのよね……」


 まあ、まだロッシーとラグにゃんはキヨラカさんな関係ですけどね!

 そのうち、かわいい子猫を産んでくれるかもだけどね!


「……この屈辱を、どうやったら晴らすことができるのか、悩んでいたところだったのよ。ふふふふふ……。ちょうどいいところにやってきたわねぇ、あなたたち」


 にたりと笑ったら、ステファニアさんのお父さんは顔をひきつらせた。

 あら、この猫っぽい釣り目の表情、そんなに怖いかしらねー。それとも、いわゆる悪役令嬢顔なのかしら、わたしって。


 まあ、いいわ。雰囲気にのまれているうちに、ぱぱぱと、やっちゃいましょうっ!


「あなたたちの娘の愚行の責任は、親のあなたたちにとってもらいましょうか……」


 二人の体が飛び上がった。

 それはそうよねえ。

 悪魔の借金取りから逃れようと、伯爵家にまでやってきたら、その悪魔の娘がいて、しかもご機嫌最悪。

 お前たちに責任をとれと迫ってくる。


 借金取りのわたしのお父様の所業を知っていれば、わたしも同じくらいえげつないことをしてくるだろうと思っていることだろう。


 なにせ、わたしのお父様の金貸し業は……、マジでえげつないのよ。

 借金で、首が回らなくなって二進も三進も行かなくなった相手にだって、金を貸す。

 もちろん、普通ではありえない、ものすごいレートの利子をつけてだ。

 当然、借金の返済なんて、できやしない。

 膨れあがった利子と共に、一生お父様の奴隷だ。

 いや……奴隷として働かせてもらえるのなら、まだマシかなあ……。


 だって、わたしが魔法で失敗した人面猫さえ売ったお父様だもの。

 単なる借金まみれの人間なんて、最大限に活用できる場所に売りつけて、貸した金とその利子も、きっちりと回収する。

 お父様から逃げようとしても、無駄。

 お父様からお金を借りるということは、自分の人生を放棄する、もしくは破滅一直線コースへご案内と同義だ。


 借金をした、本人だけが、お父様の用意した地獄へ落ちるなら、いいんだけど……。そうじゃない場合もある。

 一家、一族。全員まとめて、さよーならー……、なんてことも多々ある。


 教訓。金は借りるな。借金は地獄への一直線コース。


 あら、話がずれたわ。ええとなんだったっけ?


 ああ、そうそう。娘の愚行は親が責任をとれ、とか言ったのよねわたし。

 ステファニアさんのお父さんとお母さんの顔を、交互に見る。わざとらしく、腕を組んで、上から目線で。


「そうねえ……。二人同時にいたぶるのも面倒よねえ。かといって順番待ちをさせている間に死んでもらっても、処理が面倒だし……」


 考えるフリをする。


「それに、娘一人分の愚行の責任を、親二人に取らせるのもねえ。うん、決めた。一人でいいわ」


 にっこりと微笑む。で、告げる。


「ステファニアの責任はどっちがとる? 父親のほう? それとも母親のほう? どちらか一人、わたしの憂さ晴らしにかわいがってあげるわ」


 かわいがるの意味を、どうとったかは知らないけれど。

 ステファニアさんのお父さんは、さっさと玄関扉まで逃げていき「そ、そいつを残していくからっ!」と叫んできた。

 ステファニアさんのお母さんは、さっきからしゃがみ込んだまま、項垂れて、微動だにしていない。

 ……これまで、辛い目に遭ってきたのかもね。もう、どうなってもいいやーのあきらめの境地? なのかしらね。


 心の中で同情はする。だけど、まあ、予想通りよね。ステファニアさんのお父さんみたいな人種は、他の人を悪魔に擦り付けてでも、自分は逃げようとするんだろうし。

 まあ、いいわ。

 逃げ腰のステファニアさんのお父さんに向かって冷たい声を出す。


「ああ、そう。じゃあ、この人はわたしの好きにさせてもらうわ。どんなふうにかわいがって差し上げようかしら……」


 悪魔みたいな……って言うと、わたしのお父様みたいになるから、えーと、レベルダウンして、ネット小説とかの悪役令嬢みたいな……にとどめておく。

 そんな顔で、妄想。

 もちろんこの女性を猫化して、こねくり回して猫かわいがりひゃっほーいという妄想だ。


 ふっふっふ、と重低音の笑い声さえ発してしまったわたし。


 もう、ステファニアさんのお父さんなんて、蒼白を通り越して、死人みたいな顔になっている。その、ステファニアさんのお父さんに向かって、言う。


「今は、お前のことは見逃してあげる。でも、また、ふざけたことを言いにここに来るのなら……、わたしのお父様に売りつけられる程度のことは、覚悟してちょうだいね」


 低く、嗤う。

 そのわたしの嗤い声から逃げるように、ステファニアさんのお父さんは、カッシーニ伯爵家の屋敷から、走り出て行った。



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