第16話 爆売れ
完成したミシンは売れた。売れに売れた。
それはそうよね。
元々需要はあった。
アスラン様のお父様が売ろうとしたとき、我も我もと求める人が多かった。
だから「カッシーニ家のあの失敗した製品を、改良し、誰にでも使えるようにしたのですよ……」と、あちこちに言いまくり、まず手回しミシンと足漕ぎミシンをそれぞれ百ずつ、お父様は作らせたのね。
で、お披露目会を大々的に行った。
商人。流行りモノを求める貴族。
それらの人を集めての実演販売。
もちろん実演はわたし……ではなく、わたしの指導の下に、ミシン・エキスパートとなった若くて美人販売員のお姉さんたちよ。
うん、日本のモーターショウとかで、美人のお姉さんたちが、体のラインが丸わかりの、水着ですか的な衣装を纏い、新車の説明をするわよね。あんな感じよ。さすがに水着じゃなくて、ドレス姿だけどね。
もちろん、コンパニオンのお姉さんたちにはミシンに関する知識を、これでもかっと叩き込んだ。
どんな質問にも答えられる、凄腕の販売員となったお姉さんたちは、ミシンを売りに売りまくった。
結果、爆売れ。
現物は、瞬殺の勢いで、売れた。
予約販売は……さすがにアスラン様のお父様のことがあったから、忌避されると思ったのに、そんなことなかった。
予約数のすごいことったら……。
はい、カッシーニ伯爵家の借金、わたしのお父様が肩代わりした分なんて、そっこー解消。
おそろしいわあ……。
で、ミシンなんだけど。
お父様に一つだけ、お願いした。
地に落ちたカッシーニ家の評判を回復したい。
だから、製品の名称は「カッシーニ式手回しミシン」と「カッシーニ式足踏みミシン」にしてもらったの。
名前くらいはどうでもいいと思ったのか。それとも、そのうち乗っ取るのなら、カッシーニ伯爵家の名誉回復は必須だと思ったのか。
お父様は快諾してくれた。
だけど、これ以降、カッシーニ伯爵家に対する視線は、極寒から春のそよ風に変わったわ。
カッシーニ伯爵も、カッシーニ伯爵夫人ロロナ様も涙を流して喜んでいた。
もちろんアスラン様もね。
ロロナ様なんて、ご婦人の御茶会のお誘いなんてこのところ皆無だったのに、いきなり山のように招待状が舞い込んできた。
わたしも、わたしのミシンを持って、ご一緒にお茶会に参加して、で、いろんなものを作って……、ま、実演ね。
その時に作った給食袋……もとい、小袋は、お茶会に参加のご婦人やお嬢様方にプレゼント。皆様欲しがってくれて、大好評だった。
縫い目が美しいってね。
で、そんな興味津々のご令嬢たちに、手取り足取り、ミシンの使い方を伝授。
皆様目を輝かせて、ミシンを体験されたわ。
お裁縫が、下手ではないけど、上手でもないご令嬢の皆様なんて、
「こ、これがあれば、婚約者への贈り物も……素晴らしいものができるわ……」と、目の色を変えた。
あっという間に、ご購入希望者が山のように!
わたしは皆様のお名前やらなんやらを、ノートに書いて、それをお父様に送っておいた。
販売は、お父様へお任せ。金になることを、忘れるようなお父様ではないので、さっさと対応してくださることでしょう。
バックマージン? リベート? 紹介料? なんて言うのかは正確には知らないけれど、お父様からは少々報奨金をいただいた。
お父様はお金儲けでウハウハ。
わたしもおこぼれにあずかって、ラッキー。
カッシーニ家の皆様も笑顔ですよ。
みんな、しあわせ。ハッピー、ラッキー。
そんなこんなで、ミシン事業は順調。
ミシンのほうは、たまに糸が絡まって動かなくなったとか、針が折れたとか、些細なクレームはくるけれど、そんな程度のことなら、現場の販売員の皆様だけで対処ができるようになってきている。
つまり、なにもしなくても、売り上げの二割がわたしの懐に……。
濡れ手で粟ってこういうこと?
ふっふっふ。
さあて、このところミシンで忙しかったけど、今日はゆっくりお猫様と戯れよう。
ミシンは、わたし用に一台もらったから、それでラグにゃんとロッシーにリボンでも作って、首に巻こう。
ふっふっふ。
前世で培った、猫服制作のこの腕がっ! 唸る時が来たっ!
ふおおおおおおおっ!
勢いのあまり、リボンだけではなく、ケープとか、お洋服とか。作りに作ってしまったわ!
ああ、楽しかった。
「うふふ~、どう、ラグにゃん、ロッシー」
ロッシーは「別にどうでもいい」という顔だけど、ラグにゃんは、目をきらっきらに輝かせていた。
「あ、やっぱり女の子ですものねぇ……。かわいいお洋服はいくらあってもいいわよね」
「にゃんっ!」
うふふ~、あはは~と、自室でお着がえショーを繰り広げていたら。
次の嵐が、やって来たのだ。




