第14話 魔王、召還、前
魔王、召還。
と言っても、本物の、魔界の魔王を呼び出す魔法陣とかを描くわけではない。
わたしのお父様。
魔王のごとき守銭奴の、魂でも売りそうな、商売人。
とりあえず、お父様はお忙しいと思うので、手紙を書く。
「お父様、キアラです。
お金儲けのご相談がありますので、お手すきのときにでも、カッシーニ伯爵家にお越しいただくことは可能でしょうか?」
手紙が届いてお返事が来るまでの間、わたしはラグにゃんとロッシーをアスラン様に会わせてみることにした。
いきなりわたしの部屋に……というのも、慎みがないかなとか思ったけれど。
ラグにゃんとロッシーのことを考えると、知らない人間とのご対面……。
安心して過ごせる慣れている場所でのほうがいいわよね。
そう思って、アスラン様をわたしの私室にご招待。
「お、お邪魔いたします……」
ちょっと顔を赤らめて、緊張気味のアスラン様。
「はい、どうぞ……って。あら、ラグにゃん、お迎えに来てくれたのね~」
私室のドアを開けた途端に、ラグにゃんがわたしを待っていたかのように「にゃー」と鳴いた。
う、かわいすぎる。
わたしはしゃがんでラグにゃんに手を伸ばす。
「ただいま、ラグにゃん。お留守番ありがとう。こちらはね、アスラン様。ラグにゃんなら知っているわよね。ジュリオ様の従弟よ。わたしの旦那様になることになったの」
アスラン様を紹介してみたら、ラグにゃんは、とっとっとっと……って、アスラン様に近寄って行って「にゃー」と鳴いた。
「よろしく~」とでも言っているみたい。
で、アスラン様と言えば。
「な、な、な、なんですか、この愛らしい生き物は……」
衝撃を受けていらっしゃっている。
うんうん、そうでしょう、愛らしいでしょう。
「名前はラグにゃんと言います。猫という生き物です」
どうぞ、撫でてあげてみてくださいと言ったら。
アスラン様は、ラグにゃんに恐る恐る手を伸ばして……そして。
ふわっと。
ひとなで。
そして、その感触のすばらしさに、伸ばした手が震えているわ。
「わ、あ……」
ふふふふふ。アスラン様も、この屋敷の使用人同様、落ちたわね。
いらっしゃいませ、猫好きの世界へ。
で、ロッシーはどうかな~って、見てみたら。
ソファのお上で、バンザイポーズで固まっていた。
いきなり知らない人間が入ってきたから、びっくりして固まった?
いやいや。アスラン様はロッシーのというよりはジュリオ様の従弟。
知らないはずはない。
じゃあ、なんで、固まっているのかなーって思ったら。
なんと、爪がソファの布地に引っかかって、動けなくなっていたっ!
「う、動かないと思っていたら、引っかかっていたのねロッシー」
「にぁ……」
途方に暮れているというか、絶望というか、そんな表情がかわいすぎる。
ハアハアと、荒い息というか、鼻息を押さえながら、なんとか爪を布から外す。
すると、恥ずかしそうに、ロッシーはそのままソファーの上で、こちらに背を向けて丸まってしまった。
かわいい。
かわいすぎる。
「あの、そちらも、猫という生き物なのですか?」
「ええ、猫です。こっちの名前はロッシーです」
アスラン様はロッシーの背を撫でた。
「ラ、ラグにゃんとロッシーではずいぶんと手触りが異なりますねっ!」
ああ、アスラン様の瞳がキラキラだ。
わかる。
わかりますとも。
「異なる手触りですが、それぞれに良さがあるでしょう」
「そうですねっ!」
おお、前のめり。
良かった。将来の旦那様も猫好きになりそう。
一安心。
ひとしきり、ラグにゃんとロッシーを交えて、穏やかであたたかな交流のひとときを過ごしたわたしたち。
こんなしあわせが、ずっと続けばいい……と思うんだけど……。
その前に、魔王様との交渉だ……。
ううう、気が重い。
しあわせまでの道のりは……多分、長い。




