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第13話 アスランの、父

「……酒に酔った父はよく騒いでいました。これで世界を変えるかと、産業革命? だとかなんとか。知識チートサイコーなんてことも、言っていましたね……」


 ボクには全く意味が分からないのですが……と、アスラン様は続けた。


「あー……」


 針でチクチク縫うしかないこちらの世界。

 そこに、ミシンを大量生産してバラまけば。

 そりゃあねえ、服飾界の産業革命でしょうよ。

 手縫いで縫うより、早くて正確。

 しかも縫い目がそろっている。

 ミシンの使い方なんて、慣れれば簡単。小学生の家庭科の授業で習う程度のレベルだもの。

 オーダーメイドの一点物を作っていた世界。

 そこが一気にファストファッションの世界へ突入も可能だろう。

 安価に大量生産、大量消費。

 社会構造だって、変わるかも。


 ……というか、産業革命に知識チートねえ。

 アスラン様のお父様、絶対に、異世界転生系のラノベかアニメ、読んだり見たりしている転生日本人でしょう……。


 ま、でも、アスラン様のお父様はもうお亡くなりになってしまった。

 問題は、残されたこれを、どうするか、よね。

 放置して、ゴミにするにはもったいない。

 なんとか加工して、お金に変えられるかな……。背負った借金、いくらかでも返済できるかしら……。


 いや、カッシーニ伯爵家の借金は、わたしのお父様が肩代わりしたから、もういいと言えばいいんだけど……。


 だけど、お父様は親切心でお金を貸すなんて人じゃない。

 いざとなったら、わたしやカッシーニ伯爵家を更に売り飛ばしてでも、もっともっとお金を儲けて、更に上の爵位も掴もうとするだろう。

 だろうじゃないわ、確実にやる。


 このまま、お父様の思惑通りに、わたしがアスラン様と子を作って、その子を名前だけのカッシーニ伯爵にして、実権はわたしのお父様に……ってなった後、現カッシーニ伯爵やこのアスラン様がどうなるのかわからない。


 用済みって感じで、暗い海の底に、捨てられるかもしれないよねえ……。


 多分、そのくらい、わたしのお父様は、やりそう……。


 ……っていうか、その場合、わたしも無事でいられるのかな?


 恐ろしい想像になってしまいそうだ。


「んー……」


 とりあえず、工場内を見回す。

 するとやっぱりあった。布とミシン糸。

 ボビンに糸は……。

 ミシンの中に入っているボビンをいくつか探ってみる。糸が既に巻かれているものもあるし、ないものもある。


 巻かれているボビンを一つ拝借。ミシンにそのボビンと糸をセットして、布も置く。


「とにかく、使ってみますね」


 電動ミシン。

 だけど、電力がなくても、動かせる方法は、ある。

 ミシンを使ったことがある人なら、すぐわかるだろうけど。


 ミシン本体の右側についている、ミシンが動いているときに、クルクルと回っている丸いヤツ。名前はプーリーとかいうらしい。


 これ、手で回して動かせるんだよね……。


 ちょっと大変なんだけど、ガシガシがシッと力を込めて、手でプーリーを手前に回す。はい、縫えました。


「えっ!」


 アスラン様は驚いているけど、別にわたしが魔法を使ったわけではないからね。

 ふつーに誰でもこうやって、ミシンって使えるものだからね。


「き、キアラ様……、どうやって……」


 驚愕って顔。


「アスラン様のお父様が魔石に力を込めて、こちらのボタンを押して、この丸い部品を動かすことによって、この機械を使うことができるようにしていましたけど。魔力なんてなくても、このように、この丸い部品って、手動で回すこともできるんですよー」


 こっちの世界の人は、そういうことも、わからないかもだよねえ……。


「動かせる……」


 呆然としている。

 それはそうだろうねぇ。動くとわかっていれば、莫大な借金を抱えて、現カッシーニ伯爵が「もう死ぬしかない」なんて言うまで、追い詰められなくて済んだだろうしね。

「ああ、動きませんか、ではこの丸いのを手で回して、同じように使ってみてください」って言えば済むだけだったはず。

 それでもクレームは来たかもだけど……。手で回したって、縫い目はきれいなんだもの。手回しでもいいから使うという人だって、いただろうし。


「まあ、動くには動くのですが、今、わたしが行ったみたいに、常に右手で回し続けるのは結構つらいものがありまして……」


 うん、電動ミシン以前。

 昔のミシンはこのプーリーのところにハンドルがついていて、手回し式だったり、プーリーからベルトが下へとつながっている、足踏み式ミシンだったりしたのよね。


 アンティークショップなんかに置いてある、アンティークミシン。あれ、飾りとしてもなかなか美しいものがあった。あー、あれ、プーリーが、すごく大きかった気がするなあ……。


 電動ミシンは高速回転だけど、手動か足踏みは、人力で回転させないといけないから……大きいほうが楽なのか、それで大きかったのか、なるほど……。


「ですから、この残された製品を、商品として売りつけるレベルに持って行くには、この部分の改良というか、改造が必要になりますけど」


 仕えないゴミのまま廃棄にするにはもったいない。

 だって、電力さえあれば、ちゃんと使える立派なミシンなんだもの。


 電力がないなら、プーリーの部分だけ、改造してみれば、使るんじゃない?

 で、使えれば、売れる、はず。


「ということで、アスラン様。アスラン様がこの電動ミシンを開発するとき、一緒にこの機械を作った職人さんたち、ご存じでしょうか?」


 新規の職人さんたちでもいいけど、アスラン様のお父様と一緒にこのミシンを開発した職人さんたちだったら、改良も話が早いと思うのよね~。


 だけど、アスラン様は考えこんでしまった。


「その……職人の皆さんは……、今どこでどう暮らしているのかわかりませんし。わかったところで、きっと、父の残したこの道具には……、もう、関わりたくないと思うのでは……」

「それでは、別の方でもいいので、この道具を加工できる職人に心当たりは……」


 誰かいないかなーと思ったけど。カッシーニ伯爵家の依頼というだけで、お断りされそうとのことだった。

 まあ、そうか。

 でも、これ、放置はもったいない。

 とすると……。


「最終手段、しかないかあ……」


 なるべくこれはやりたくなかったんだけど。

 他に思いつく方法はないし。


 しかたなく、わたしは、魔王を召喚することにした。



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