第12話 これって、もしや、転生チート?
ミシン。
ソーイング・マシン。
布とか紙とか革とかを、糸で縫いあわせる機械。
そう、機械なの。
この、電灯すらない世界で。灯りだってローソクを使っているような世界で、機械っ!
そりゃあ、調理場には鍋だのヤカンだのがあるんだから、金属を加工する技術はあるんでしょうけど。
宝石とか、装飾品とかもあるくらいなんだから、小さいものを加工する職人なんかもいるんでしょうけど。
マジでミシンだよ、この工場に並んでいるモノたちはっ!
え、え、え。どういうこと? なんで?
さすがに、布の端を自動ハサミでカットしつつ布端を糸で抑え込むように縫い合わせるロックミシンとかじゃないけど。
コンピュータ制御で指定した文字を自動的に刺繍するネーム入れミシンでもないけど。
幼稚園とかに子どもが入園するときに、その幼稚園で使うような、上履き入れとか、手提げかばんとか、給食袋とか、お母さんとかが作るでしょ。そういうものが作れちゃうような、家庭用の電動ミシンとまるっきり同じ。
わたしも、転生前にはミシンでお猫様のお洋服とか、手作りしていたから、おなじみの、コンパクトタイプ電動ミシンっ!
「うっそ、ちゃんとしたミシンだっ! 糸巻の軸にボビン抑え、糸調子ダイアルがあって、針に糸を通して。透明じゃないけど、針板パネルの下にはちゃんとボビンもあるっ! はずみ車も返し縫入れバーまでもついているっ! どこからどう見ても、立派な電動ミシンっ!」
驚きのままに、わたしは声を上げた。
「えっと、キアラ様。これがなにか、わかるのですか……?」
アスラン様の声なんて聞こえてなかった。
あんまりにも驚いて、わたしは一番近くのミシンをガッと持ち上げて、見た。
「コンセントとかコードはない……。え、これ、どうやって動かしてたの……って、あああああああっ! まさかっ!」
ミシンをひっくり返して、底を見た。
「電池……っ! これ、内臓電池で動かすタイプかっ!」
ミシンの底には、へこみがあって、そこに黒い石みたいなものが、埋め込まれていた。しかもその黒い石は取り出し可能。
もちろんこの世界には電池なんて、ない。だって、電力自体がないから。
だけど、きっとこれ、電池みたいなもの。
「えっと、それ、その黒い石は、魔石と、父は呼んでいたものなんですが……」
アスラン様が律義に説明してくれているけど。
「……もしかして、アスラン様のお父様って、なにかの魔法、使えました?」
聞いてみたら、アスラン様はこっくりと頷いた。
「は、はい……。ボクにはよくわからないのですが。父は、その魔石という黒い石を握りしめて、なにかの魔法を込めていたようでした。そして、父が握ったその石を、その道具にはめ込むと、その道具を動かすことができたのですが……」
「充電式電池っ! だから、アスラン様のお父様がお亡くなりになった後、しばらくは使えたけれど、次第に使えなくなってしまったのか……」
つまり、充電された電力があるうちは、このミシンが使えたんだけど、その電力がなくなったら、使えなくなった……ということね。
「アスラン様。アスラン様のお父様以外に、この魔石に電力……、ええと、この道具を動かすための力を込められる人は……」
「いません。というか、その魔石がなんなのか、それすら知っている者は……」
「いないのね……」
うっわー。アスラン様のお父様。ミシンを大量生産して売りつけて、それで、電池の充電、どうするつもりだったんだろう。
ワットとか、ボルトとか、そういうの、わたしにはわからないけど。
単三電池と単四電池の違いもわからないくらいだけど。
でも、そういうの、ちゃんと理解して、充電しないと、ミシンを動かすこともできないんじゃないのかな……。できるのかな……。わかんないなあ……。
しかも、その電池とか、電力的な知識だけじゃなくて、魔法で、この魔石とやらに、ミシンを動かすための電力を充電するって……。
そういう魔法を理解して、使えるのは、アスラン様のお父様だけ、なんじゃあないの……。
というか、アスラン様のお父様の死因って、もしかして、電力の放出しすぎ⁉
いやいや、事故だというし、それは違うか。
でも……。
少なくとも、こんなミシンを作るっていうことは、アスラン様のお父様、日本……かどうかはわからないけど、わたしと同じ世界から異世界転生して、で、この世界で転生チートをやらかして、お金を稼ごうとか思った人……なのかしら……ね。
今となってはわからないけれど。
「キアラ様は……見ただけで、これがなんであるか、どうやったら使えるのかが理解できたのですね……」
「あー、うん。理解は、だけで、わたしには……これ、動かせないけどね」
動かすための力……充電をしないと、これは使えないだろう。あ、いや……動かす方法は、あると言えばあるんだけど……ね。
新年ですね!
よき一年になりますように!
今年も藍銅のお話を、どうぞよろしくお願いいたします!




