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天海カイ 




青年は自室で雑誌を流し見ていた。


青年と言っても大分、小柄な僕は天海カイ。


僕の名前だ。


雑誌の内容はゲームの新キャラ実装

新マップ追加、新しいゲームの事前予約など多岐に渡る。


ゲームの情報雑誌だ。


僕が足を運んで買いに行った訳でじゃない。

大学が休みの日。家からも出ず永遠にスマホゲームを

している僕に姉がたまに買ってくる様になった。


きっかけなんて物は無い。

初めて買ってきてくれたときから

新しく出る度に雑誌を買い与えてくれる。


なんでこの雑誌?とか疑問に思う事もなかった。

僕がゲームするからとそれだけの理由だろう。

と勝手に解釈している。


勿論、その度に感謝を言葉にもしている。


「へぇ…今やってるゲームに新システム実装かぁ」


一人で感心しながら独白していると


部屋の外、廊下から軽い足音が鳴った。

足音は僕の部屋の前で止まりドアをノックする。

音が部屋に響いた。




コンっコンっ



「どうぞ」



ガチャ…




「姉さん。雑誌ありがとうね」


「良いよ別に。それより夕飯の買い物行くけど一緒にくる?」


第一声で感謝する僕の相手は

綺麗に揃えられた前髪を垂らし

後ろで染めた茶髪を括ったポニーテールの女性。

歳が僕より2つ上の姉さんだ。


因みに僕は今年19になった。

ピカピカの大学1年生なのだ。


「車?」


「うん」


僕は少し考える


「…行こうかな」


僕の返事を聞いた姉は踵を返し

最初に部屋に来た時より軽い足取りで

その場を後にした。


「15分後に車に来て」

そう言い残して。

 

雑誌を手にベットで横たわっていた僕は

勢いよく起き上がった。





「お昼も済ませようか。お薬は持ってきてる?」


「うん。持ってるよ」


姉の運転する車に揺られ僕達は

目的地のショッピングモールへ向かっている。


「お薬飲むの忘れたら怒るからね。食後にはちゃんと…」


「分かってるって…」


終始無表情の姉は僕に語りかける。

長い付き合い…と言うか姉弟の関係だから分かっている事だ。

抑揚がない姉の言葉だがしっかり意味はある。


僕の身を案じての事だ。


僕を嫌って無表情を貫いている訳では無い。

僕の姉、「天海明日香」はこれがデフォルトなのだ。


僕に物心がついた時から姉はこうだった。

僕が一切関係していない訳では無いんだろうけど。


僕は助手席で姉が買ってきてくれたゲーム雑誌を

読みながら姉に相槌を打つ。


「…おぉ…ハイクロすごいね!リリースから8年で1億ダウンロードって…ソフト本体の売り上げ本数入れたらもっと行ってるんだよね!」


僕は思ったままの心境を姉に投げかける。


「そうね…」


姉の返事は淡白だった。

それで僕が気にする事はない。

姉弟のいつものやりとりだった。


他愛もない会話の後…


「…ついたよ」


「姉さん、いつも運転ありがとね」


目的地への到着を知らせた

姉さんに僕はいつも通りの感謝と笑みを浮かべる


「…うん」


僕がそう言った瞬間

無表情の姉さんは言葉に詰まり

頬をほんのり赤く染めたのはきっと外気の寒さの所為だ。


ふと僕は中学の時、よく遊んでいた友人の事をを思い出していた。


「お前の姉ちゃん超可愛いのに勿体無いよな!!表情筋なさ過ぎワロタ」


僕は友人の何気ない言葉にイラッとしたのを覚えている。


こんなに自分に素直な人はいない。

僕の姉に対する感想だった。





「それじゃ30分後にレジに来てね。その後、昼ご飯ね」


そう言い残し姉は買い物カートを押しながら僕と別れた。

これも姉と買い物に行く際のいつもの流れだ。


踵を返し僕はモール内を物色する。

最後にこのモールに来たのは1週間前。

その時は姉と母が一緒だった。


1週間でモール内が様変わりするわけでもない。

僕は自身の中で優先順位通り店舗を見て回る。

本屋では攻略本、ゲーセンではスマホゲームのキャラ

そして最後は…


玩具屋。


主に見るのはゲームソフト。

新しいゲームのハードウェア。


陳列棚を隈なく見やる。

欲しいソフトも無いし買う気はないが

見るのはタダだしバチも当たらない。


只々、興味の延長線上に過ぎない。


薄目で商品を見ていくと棚にこれ見よがしに

一本だけ飾ってあるソフトに僕は驚いてしまった。


「え?…ハイフロのソフトが売ってる!珍しい…」


今話題のリアルバーチャルゲーム

「ハイファンタジークロニクル」のソフトが

そこにはあった。


たかがソフト。昔流行ったMDの様な円盤型のソフトだが

これにはかなりの価値がある。


ソフト購入特典。

これがとてつもなく豪華らしいのだ。


それ故に数多のゲームを売買する店舗、通販サイトでも

ソフトが枯渇しきっている。故にダウンロードコンテンツで

入手する。これがハイクロの今の現状だった。


「でもなぁ…ハードウェアのHVRが無いしなぁ」


たった1本のハイクロのソフトを手に取った僕はそのまま

陳列棚に戻そうとした。HVRはお世辞にも安いとは言えない。


…買えない事はないが、あまり欲しいとは思わなかった。


ゲームは程々に嗜む程度にやる僕だ。

スマホゲームは課金してなんぼ。全力で楽しむなら課金。

そんな思想に対して僕には以ての外だった。

課金なんて無駄、生きてく上で絶対のお金を小さな画面の

1コマに捧げる意味が理解できなかった。


僕はソフトのパッケージを再び見遣る。


表のジャケットだけで興味をそそられるハイフロ。


だが僕は無課金勢だ。スマホゲームも無料ダウンロード

無課金でも時間をかけるが前提の楽しめるゲームが好きだった。



言い方を変えれば熱中したくなかった。

課金する事によってもっと楽しめると分かっていても。

何事にもゲームにも現実にも…



邪念。物欲センサーを無に帰す為、僕は頭を振るう。


「凄いレアだけど…じゃあね」


と言い僕はソフトを棚に置いた。


「あ、ジャケットが逆だ…表に向き直さないと…」



?…



…?!




僕は慌ててソフトを手元に寄せた。

視界の限界までソフトを近づける。


僕が凝視したそれは裏表紙のジャケット。


ゲームの設定。あらすじを書き込んだ内容。


僕が見ていたのはそれじゃない。

このゲームの設定では魔獣…いや、なんなんだろう…



「綺麗だ…ドラゴン…かな?」



ぽっと出た感想。それが僕の純真無垢の感想だった。

裏表紙にはあらすじの文言の背後に

彩度を落とし薄らと4体のドラゴンが写っていた。


1体1体が容姿が違う個性的なドラゴン。

その内の1体に僕は目を奪われた。





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