絶対竜レデュストロス
暗く、ジメジメとした、只々広いばかりの洞窟の最奥。
ソレは大きな瞼を開き、ゆっくりと意識を覚醒させる。
永い眠りから目を覚ました。
僅かに光源になるのは、淡く輝く様々な色を纏った
氷柱の様な石。地面から生える様に至る所にそれはある。
大きさも小妖精から鬼豚くらいの大きさまで様々だ。
竜は石へ意識を強くし観察した。
名称は…ま…魔……竜…いし…読めないな。
どうもまだシステム?との同期?があまり進んでいない様だ。
…まぁいい…それより…。
石の光源を頼りに、自らの身体の一部を目の当たりにする。
眠りの際、頬を乗せていたであろう腕が見えた。
その腕には銀白色の規則正しく並んだ強靭な鱗。
岩など簡単に切り裂けるであろう
太く巨大な漆黒の鋭い爪が4本。
自身の身体を見える範囲観察する。
前足と同様に…いや、以上に筋骨隆々に発達した
後ろ足。目の前の全てを薙ぎ払う事も容易であろう長い尾
背には自身を覆える程の巨大な2対の翼。
予想だが私の体長は牛鬼…ぐらいだろうか。
比べる物もないので定かではないが…
だが、私は分かっていた。意識を手にした瞬間の事だ。
何かが、情報が…アナウンス…と言うのか…
そんなのが頭に入り込んできた。
自身が何者か、何故ここにいるのか
何の為に生み出されたのかを理解した。
目視の必要性も、思考する労力もいらなかった。
私は竜だ。
それも、この世界「クロスアノート」の中で
4柱いる最強種。竜種の内が1体。
「絶対竜レデュストロス」
それが私だ…
と言う設定だ。
私が竜と言うのはこの世界
「ハイファンタジークロニクル」と言うゲーム?の中
設定上?の話…らしい。難しい事は分からないが
私は、このゲーム内部にいる「えーあい」という者が
こことは違う世界…の神話?という話から切り取って
作り出した…キャラ?との事だ。
可笑しな話である。私は私だと確固たる意志がある。
自身が湧いて出てきた作り物だと思うと変な気分だ。
でも不思議と怒りは湧いてこない。
これは、私が生まれたばかりだからか
それともシステムがそうさせるのだろうか。
…そうだったな…この考察も作り物だ。
いかんいかん…話を戻そう。
「ハイファンタジークロニクル」とは最新のHVRゲームソフトらしく
そのハードフェアがなんとかんとか…うーん分からん!!
とりあえず、そのHVRとなる機械を付けて色々すると
仮初だが身体を得て世界の壁に干渉しこの「クロスアノート」に
別の世界の人族が転移できる様になるだったか。
脳内に流れてきた内容とは若干違う気がするが
恐らく意味は合っている。どうやら、私は
難しい事を考えるは根本的に嫌いみたいだ。
「ハイファンタジークロニクル」これには略称として
「ハイクロ」と呼ばれていたりする。そう分かった理由は
私の頭に語りかけてくるアナウンス。
声の主は「えーあい」その者なのだろうと思っている。
今まさに[「ハイクロ」内、全アイテムのデータを転送中]
[「ハイクロ」内、全オブジェクト、CPU調整状況…の…
と引っ切り無しに頭の中でアナウンスが鳴っていた。
今だに、所々意味は分からないが…
そして、私もこの世界の一部と言う事なのだろう。
世界が…「クロスアノート」は完成に近づきつつある事に
理解するには苦労はしなかった。
竜は先程まで満足に動かす事が出来なかった身体を起こす。
洞窟の空気が循環し始めたことに気づいた。
たしか魔法の媒介になる魔素だったな。
大気中に含まれている設定だったか…
この世界がゲームという名の遊戯の場な事は
理解しているが、それにしても細かい設定だ。
1つ1つ挙げていけば切りがない程に…
私の同期された現時点での知識では
説明するにも心許ない。情報も知恵も
足りな過ぎる。
竜は洞窟の外へと歩み始めた。
名も分からなかった光源の石。
至る所にある為、踏みしめながら進むしかない。
後ろに広がる乱暴に砕かれた石を眺め
竜は再度「鑑定」を試みた。
今度は…読めるようだ。
[魔竜石] 長い年月、竜種の魔素に曝され
鉱石が変異した魔鉱石の最上位アイテム。
オリハルコン装備の錬金素材。
¥ーーーーエニー
…エニーは金額だったな…値段が付かないほど価値なのか。
興味を持ったのは一瞬だった。
動きを止めた竜は再度、洞窟の出口へ踵を返す。
しばらく進むと明らかに魔竜石とは別の強い光が洞窟の先から
漏れ出しているのが分かった。歩みにより舞上げた
砂埃が反射し不規則に輝いている。
期待に胸躍って足早になる事も感動することも無い。
只々、設定通りにシステム通りに私は、行動しているに
過ぎないのだから…
そして、間も無くして私は…
これが外…これが…クロスアノートか…
光源の元は予想通り外だった。
そして私が立つのは外界とは隔絶された孤島。
名は「絶界の空島」これが私の領域。
かなりの広さだ。上空を飛んでいるのは飛馬の群れだな。
あっちの森は…大猪、魔鹿…おお、毒魔大蛇もいるのか!
「気配察知」は便利だ。望めばこの島を隅々まで
察知する事が出来そうだ。それに…これなら退屈せずに
冒険者が来るのを待つ事ができそうだ。
島の周りを取り囲む青空と雲を見て私は安堵する。
自身の役割を理解しているからだ。
「クロスアノート」での、私の立ち位置は「絶界の対敵」と言う
隠しシナリオの裏ボス。そして、かなり後半の出番になると
「えーあい」は言う。
つまりは「ハイクロ」のベータ版も本作が発売されたとしても
特に私の役割がない。この世界は広大過ぎるくらいだ。
すぐに「絶界の空島」にたどり着けるユーザーなどは
物理的にもシステム的にも不可能。
万を優に超える様々なクエスト。
多種多様なミッション。
千差万別のジョブ。
同じ熱量を苦楽を共にするパーティー。
強力無比な装備、魔法、アイテム、ステータスを備え
ここに辿り着く事を初めて許されるのだ。
「ハイクロ」は冒険だけには非ず。
戦いが全てでは無いのだ。
時には助け、欺き、示す。
この世界は現実世界の様に甘く無い。
生死の概念が無ければ、モラルもないのだ。
あるのは狩るか狩られるか。統治するか謙るか。
当たり前の様に指定された場所に
リスポーンされ、生への渇望を希薄にする。
故に油断し蹴落とされる。
頭が長けた強者は駆け上がり不出来な弱者は淘汰される。
弱肉強食の世界。
その時、黙考する私に朗報が舞い込んだ。
[ 名 絶対竜レデュストロスへの
システムの同期を全て完了いたしました。
次回の世界解放の日まではメニュー画面の右上のヘルプから
わたくしにお問い合わせ下さい。]
いい加減に煩わしかった「えーあい」のアナウンスも
やっと終わった様だ。
さぁ…では始めよう。
ここには私以外、知恵ある者はいない。
少しくらい騒いでも良いだろう。
言わば悪ノリと言うなの練習を行う。
別に気分が昂った訳ではない。
気分がシステムで左右されているのなら
今から行う事もシステムの所為なのだろ。
仮に奇跡的な確率で強者の人族がこの空島攻めてきたときの
挨拶等の自己紹介的な練習だ。…ほんとだぞ。
身体の感度も…うん。問題ないな。
私は自身の身体を翼で包み込み…
綺麗に畳まれた翼を…
元の姿に戻す様…
思いっきり…振り上げた!!
バサっっっっア!!!!!!!
振り上げた翼の衝撃は軽く音速となり
空島を駆け巡った。木々は薙ぎ払われまいと軋み
引力度返しのあり得ない角度を向いて煽られている。
岩肌は摩擦で轟音を鳴らし雲はチリひとつなく消し飛んだ。
………。
やり過ぎた様だ。空島の殆どの魔獣、獣が失神し痙攣。
そのまま森の一部と一緒に消し飛んだり
生き絶えた者もちらほらいる…。
逃げ出す事も出来なかったのか…私の暇つぶし達が…。
こんなにチートなのか。竜って…
どうやら私は竜のポテンシャルを
全然理解していなかった。
い、いかん!やり遂げなければ!
声に怒気を込めた感じにするか。初めて発声するが
出し方を悩む事はなかった。
「この世界に踏み入る矮小なる者達よ!!
私の名は絶対竜レデュストロス!!
最難関クエスト。「絶界の対敵」絶界の空島で
貴様らを根絶やしにする為、私は待ち続けていた!!
さぁ今宵、貴様らを絶対的な絶望へと誘ってやろう…」
ここでブレス吐いてみるか。どんな効果かわからんが…
空想の相手へでも手加減などしない牽制でも全力だ。
竜は口先に漆黒の中に暗い赤色が混じった魔力を溜め込む
一瞬でソフトボール台の大きさになったソレを天空へ放った。
竜の放ったブレスの名は…
クリムゾン
ブレスの進行方向、任意で炸裂する。
半径10キロ内にマグマの雨が降り注ぐ。
効果時間10分 術者へのダメージ無効
絶対に空に撃ってはいけないブレスを放ったのだ。
球体型のブレスは私の意に反しながら上空を目指す。
放ったピストルの弾と一緒でキャンセルはできない。
球体は赤黒い炎を燃やしながら…
…爆ぜた。
幾重にもなる魔法陣が展開されていく。
その大きさはこの空島とほぼ同じ程。
それがゆっくりと重なり一つになった。
なんと禍々しい魔法陣なんだ…
それが竜にできる最後の思考に終わる。
ずずずずずずずずずずっ………
「うわぁああああああああやってしまったぁぁぁぁぁあ!!!」
地獄が降り注いできた。
空島を壊滅させるには10分は長過ぎた。
島の大きさが2割を切ったところでブレスの効果が切れたのだ。
絶望に誘われたのは空島だったなんて竜も
「えーあい」ですら予想していなかった。
後に焦りに焦った竜はメニュー画面からヘルプを連打し
「えーあい」に空島をなんとかしてくれと問い合わせた。
次の日には羽ばたきで狂った生態系になる前の綺麗な
空島と、ちょっとキレ気味のメールが「えーあい」から
届いてたのは絶対竜の沽券に関わるので内緒だ。
誤字脱字報告喜びます(^_^)