第3話 最強魔導士と竜の王
俺たちはひたすら歩きバレール火山へ向かう。休憩のため立ち寄った村の宿屋。
出入り口付近にある丸い机を囲んだ3つの椅子に俺たちは座っていると、外が騒がしい。
見ると、金髪で緋色の瞳をした少女が村人に手を振りながら歩いていた。少女はこちらに向かってきている。
その少女の事を俺は知っている。
彼女の名はメルディア・アフロディーテ。神殺しで愛と美の女神アフロディーテの名と力を授かり者の1人。
メルディアは俺たちがいる宿屋に入って来て俺に近づく。
「ま......ま......マスター!!!」
俺に抱きつこうとキス顔で飛びつく。俺は右足の裏で受け止める。
「ぐへっ!」
メルディアはその場に落ちて顔を抑えて痛がる。
華林とリリカはものすごく引いている。まぁー引くの分かる。
メルディアは俺にキスしようとしたのだ。こいつ、相変わらず困ったものだな。
「痛いよ! マスター」
「いきなり飛びつくからだ! そういうの辞めろといつも言っているだろうが!!!」
「だってぇ。マスターの事好きだもん」
顔を赤らめてもじもじするメルディア。
「あのぅ......誰?」
「世界一可愛い美少女! メルディア・アフロディーテでーす! てへぺろ!」
可愛いポーズを決めるメルディア。可愛いのは分かるが美少女ってのが引っ掛かる。
なぜならこいつ、うっとしさが世界一だからな。
「んでお前はどうしてここにいるんだ?」
「それがね、マスター。この村の近くにダンジョンがあるんだけど、そこにいるとある魔物が倒せなくて......」
メルディアは泣きながら依頼書を見せる。依頼内容的には魔物討伐で、結構強い魔物のようだ。
依頼主はと見てみるとリリー・サインサルトと書かれてあった。
この国の女王からの依頼だとはな......仕方ない。
「メルディア、俺らも協力するぜ」
「ほんと!!?」
メルディアは目を輝かせる。嬉しそうだな。
ほんとだと言ってたらメルディアは跳びながら喜ぶ。
「いいの? こんな事している時間はないんじゃ?」
「パパの考えだからきっと大丈夫だよ」
リリカと華林は小声で話していた。
華林の心配は分かる。俺だってリカを早く助けたい。だが今の俺らで戦える相手ではないのは確かだ。
相手はフレドラ。太陽の化身とも呼ばれたドラゴンだ。その強さは俺より劣るが大差はない。
戦闘系魔法を使えない俺に、華林とリリカの今の強さでは勝ち目はないだろう。
少しでも2人には強くなって欲しいからこの依頼は調度いい。
分かりやすく言うとRPGで言うレベル上げって事。
俺たち4人は道中自己紹介をして、近くにあるダンジョンの入り口に到着した。洞窟のような入り口。
中へ入り依頼の魔物を探す。
ダンジョンとはこの世界でいくつかあり、通常より強い魔物が生息している。ボス級の魔物が最後に生息していて、そいつを倒せばダンジョン攻略クリアとなる。
ダンジョンごとに階層が違い、難易度によって階層が多い。
俺たちがいるダンジョンは15階まである。
魔物を倒しながら俺たちは15階にあるボスの扉までやって来た。
「ねぇ、メルディアは?」
メルディアの姿がない。まぁー俺のせいだがな。
「あいつは俺たちがボスを倒すまで、他の魔物が来ないように囮になってもらった」
「......そうね......いない方がましだわ」
嫌われているのか? メルディアは。
リリカは苦笑いしている。
あいつは大丈夫だ。心配する必要はない。あれでも俺の守護者の1人だ。
俺たちは扉を開ける。しかし、ボス級の魔物は倒れていて、その近くに男が1人いた。
「あんた誰だ?」
男はバンダナで目を隠していて、城で会った、男と同じ服装をしていた。城で会った男とは違い、少し痩せ形の男だ。
「僕かい? 僕はアルタイル。フレドラ様から君たちを殺すように言われている」
案外、賢い奴だなフレドラは。龍一族における王と呼ばれているだけはあるな。
そこにメルディアが勢いよく走ってきた。タイミングばっちりだぜ。
俺は近寄ってくるメルディアの首襟を掴み、アルタイルへ投げ飛ばす。
「メルディア行ってこーい!!」
「えぇぇぇぇ!!? マスターぁぁぁぁぁ!!!?」
目を飛び出して驚くメルディアはアルタイルにぶつかりそうになる。
アルタイルはぶつかる直前で爆発させる。
「何やってんの!? あんた! 味方を投げるなんて!!」
「華林よ。あいつは大丈夫だって、あんぐらいでやられねぇよ」
メルディアは俺の近くまで飛ばされ着地する。彼女は無傷であった。
「あぁーびっくりしたぁ」
とか言いながら平気そうだな。
「あんた、何ともないの!?」
「ん? 何が? 痛くはないよ?」
メルディアは頭の上にクエスチョンマークを浮かばす。
華林が驚くのも無理もない。あの爆発を受けて無傷でいるなんてあり得ないから。
「かっちゃん、メルちゃんは頑丈なのよ。弱点の部分以外はダメージ受けないんだ」
「何よそれ......チートじゃない!?」
「まぁ、世界の王の守護者だからねぇ。それぐらい強くないと務まらないから」
「そういうもんなの?」
「そういうもんなの」
「華林ちゃん、リリカちゃん、マスター! あいつの魔法は全て私が受けるから攻撃よろしく!」
「任せたぜ!」
華林とリリカはアルタイルに向かって飛び出す。
アルタイルは光弾を出現させて2人に放つ。だが光弾は全て、軌道が変わりメルディアに向かう。直撃するがメルディアはやはり無傷。ドヤ顔を決めている。
「どういう事だ?」
アルタイルは不思議に思っている。
「黒澤流......地獄突き!」
華林は炎を纏った刀を地面に突き刺す。割れた地面から炎が吹き出しアルタイルを包み出す。
「ぐっ......」
炎に包まれながらもアルタイルは魔法陣を複数展開して光を放つ。華林に向かって放たれた光も全て途中でメルディアに向かう。もちろん、無傷である。
「にゃはははははは!!! 一切効かないもんね!」
「爆拳!」
リリカは左拳に炎を纏い、アルタイルを殴る。アルタイルは飛ばされ壁に激突する。
直ぐ様にアルタイルは飛び出して着地する。その瞬間をリリカは右足に炎を纏ってアルタイルに向かう。
「爆脚!」
リリカは飛び蹴りする。しかし、アルタイルはリリカの右足を掴み投げ飛ばす。魔法陣を展開して光を放つ。しかし、この光もリリカに向かわずメルディアに向かってしまう。
リリカは回転して体勢を立て直して着地する。
「伊南川流.....居合い......」
「黒澤流......」
俺と華林は一瞬でアルタイルに近づき懐に入る。
「獄柳斬!」
「黒炎!」
俺は普通の刀を華林は黒い炎を纏った刀を同時に振るう。
アルタイルは仰向けに倒れる。
メルディアとリリカは喜んでハイタッチする。
メルディアのお陰で倒せた感じがあって不服ではあるが良しとしよう。
とりあえずは依頼クリアとなるだろう。俺たちは村に戻り宿屋へ。
ベットがある部屋に入り、リリカとメルディアがベットにダイブする。
「うわぁー、ふかふかだぁ」
「気持ちいい」
部屋には2人分のベットしかないため、2部屋とっている。
俺と華林、リリカとメルディアで泊まる事にしようと思っているが......。
「私はマスターと一緒の部屋がいいなぁ。あんな事やこんな事して一晩過ごすのぉ」
メルディアは照れながら体をくねる。なんだがムカッとくる。
仕方ない、やるしかねぇか。
俺はリリカに小声でメルディアにとある事して欲しいと言う。リリカは了解と左手をグッとして指でパチンと鳴らした。
「ん?」
妄想に浸るメルディアは何かに気づく。
「あぢぃぃぃぃぃぃ!!!!!!」
なんとメルディアのお尻に炎が出て燃えていて、そのプリっとしたお尻を焼く。
「あづっ! あづっ! あづっ! お尻がぁぁぁぁ!!! マスターごめんって!!!」
メルディアは涙目になりながらお尻の炎を消す。
華林の方を見ると俺に対してジト目で引いていた。こいつにはこれぐらいで充分なんだよ。それとメルディアの唯一の弱点でもある。
その夜、俺と華林はベットの布団の中に入って寝ようとしている。
「ねぇ」
「どうした?」
「アルタイルとの戦いの時、あいつの魔法が全部メルディアに向かっていたけど?」
「あれはメルディアの魔法さ。相手の魔法、能力、銃での攻撃、その全てを自身に向けさせ、自分が受ける魔法さ。ま、物理攻撃は無理だけどな」
「ほんとチートね」
メルディアはそんな魔法が使えて、なおかつ、一切のダメージを受けない頑丈な体をしている。お尻以外は無傷で攻撃を防ぐ事ができる。
彼女の弱点がお尻である事はほとんどの女性に怒られると思うと言いたくはなかったが、言わずにはいられないのが小説というもの。
ま、そんな設定にしなくてはいいのだが。
次の日、俺たちは村から出てフレドラが住まう城へと向かう道中だ。
俺は何かに気づき立ち止まる。
「華林とリリカは先に行ってくれ」
「どうしたの?」
「ちょっと、野暮用があってな」
リリカは華林の手を引く。俺の事を察してくれたみたいで、先へと両足から炎を出して跳んで行ってくれた。
メルディアは残ってくれた。
「マスター。あいつ、うっとしいね」
「だな。少し本気を出すから、お前は離れていろ」
メルディアは跳んでその場から離れた高台へ移動する。
俺は振り返り、その先にアルタイルがいた。
「うっとしい野郎だな」
「君らを城へ行かせるわけにはいかないからね」
「そんなボロボロで勝ち目はないはずだが?」
「なめるな!!!」
仕方ないなぁ。確実に殺してあげよう。
俺は右拳を前に出し人指し指をアルタイルに向けて立てる。
魔法による攻撃はできない。だが俺は最強だ。魔法以外に扱う力がある。
「朱の呪法......朱空」
俺の指先にアルタイルは引き寄せられる。周りの木々や岩、石ころ、地面もめくれ、宙へ浮き始める。
「くっ......これは?」
「魔法だと思うかい? 違うんだなぁ、これは。碧の呪法、碧爆」
アルタイルが一気に俺の指先から飛ばされる。
宙へ浮いた木々や岩、石ころなど全てがアルタイルに引き寄せられる。
アルタイルは埋められる。
「そんなんでは死なないだろう。だから完璧に死ぬように......黄斬」
俺は指パッチンして見えない斬撃で木々や岩、石ころごとアルタイルを切り刻む。
アルタイルは大量の血を流して死ぬ。
「せっかく殺さないでおいたのによ、自ら死に来るとか馬鹿な野郎だよ」
メルディアは俺の隣に移動してくる。
「これはあの2人には見せられないねぇ」
「メルディア、お前は王都に戻ってリリーに伝えてくれ......リカは必ず助けるってな」
「ラジャー!」
メルディアは走りその場を去る。俺もすぐに飛んでその場を去り、華林とリリカの後を追う。
俺とメルディアが去った場所は木々がなく、地面はえぐられ、地肌が丸見えになっていた。
やり過ぎたな。
あたしとリリカはお城へと到着した。長い道のりで動けそうにないが、ここは敵のアジト。
黒い城壁に赤い屋根が目立ち、旗にはドラゴンの顔をしたマークがある。
あたしらは中へ入りリカ王女を探す。王の間へやって来たら、そこにはリスラレン城で会った筋肉質の男とフードを被った少女がいた。
「我らフレドラ様の守護する者......カインと」
「セイン」
筋肉質の男がカインで、フード少女がセインと言うらしい。どうでもいいがリカ王女とフレドラの姿はない。
「フレドラ様は次の秘宝を探しにここにはいないぜ。お嬢ちゃん」
「き、キモいんだけど」
「はっはっは!!! お前の相手は俺がしよう」
カインが一瞬であたしの前に現れる。とっさの事であたしは迷い何が起こったか分からずにいた。
カインは右拳に炎を纏い、あたしの左頬に殴る。あたしは飛ばされ壁にぶつかる。壁が崩れて穴が開く。
「かっちゃん!?」
リリカがあたしを見ていると矢が1本だけリリカをかする。矢は壁に刺さる。
「貴方の相手は私。フレドラ様に魂を捧げなさい」
「へん! そんなのごめんだよ!」
リリカは左拳に炎を纏いセインに向かって飛び出す。
セインは弓に矢を構え、糸を引く。そして放ち、光を纏わせる。
リリカは間一髪の所で体をくねらせ矢を避ける。そのまま、セインに近づき左拳を振るう。セインは弓で防ぎ、後ろへ跳んで離れる。
リリカは何かに気づき周りを見ると光を纏った矢が複数、リリカに放たれいた。
複数の矢がリリカに向かう。リリカは炎で全て凪ぎ払う。
流石だわ。リリカは......あたしも負けてられない!
「黒澤流......黒龍斬!」
あたしはカインに向かいながら、黒い龍を刀に纏わせ振るいかかる。
龍は蛇のように長い体をもつドラゴンの1種。
「ほほぅ。俺を楽しませてくれるじゃねぇか!!!」
カインはにやけていて嬉しそう。両拳をぶつけ合い、火花を散らす。
「炎の防壁!」
あたしは刀を振るう。しかし、カインは炎で防ぐ。
あたしは後ろへ下がり、刀の鎖を長くして握る。
「黒澤流.....」
刀をカインに向けて投げ飛ばし鎖で巻き付ける。電撃を流しカインの動きを止める。
あたしは右手で鎖を引き、カインを引き寄せる。投げ飛ばした刀があたしの元へ戻り、それを左手で掴む。
「炎天昇!」
あたしは刀に炎を纏わせ下から振り上げる。斬られるカインの胸から血が吹き出す。
「やるじゃねぇか......だが! こんなもんで俺は倒れねぇよ!!!」
カインは腕力だけで鎖を砕く。
何ちゅー馬鹿力しているのよ!
あたしは右手を地面に触れ、岩山を出現させる。カインを離すためにやったのだが、案の定、カインは後ろへ跳んで離れてくれた。
鎖はあたしの魔法ですぐに再生され短くなる。
「炎属性だけではなく、雷と土属性まで使えるとはな。楽しませてくれて嬉しいぜ」
カインはバンダナを外して隠していた瞳を現せる。するとカインの全身に炎が吹き荒れ、両手の間に収束する。
「これが俺の最大火力だぜ。死んでも恨むなよ! 竜の咆哮!!!」
カインは両手の間に収束した炎を放つ。炎はビーム状になり、あたしに向かう。
あたしは刀を右手に持ちかえ横へ跳んで避ける。
炎は壁に穴を開け城外まで突き抜ける。しばらきして消える。
「ちょっと!! カイン! 城を壊さないでよね!!!」
「すまんすまん」
セインに怒られるカインであった。何なの? これ?
こいつらの目的はあたしらの足止めかもしれない。フレドラの目的は分からないがおそらく、聖域の扉を開くための鍵である3つの秘宝。その残り2つ。
とりあえず、こいつらを倒さないと......だけどこいつら強い。
「かっちゃん! こんな奴に負けられるかよ! アニマルモード......チーター!」
リリカは全身に黒い斑点模様と瞳の下に黒い線が現れて、きつね耳と尻尾が丸を帯びたチーターの耳と尻尾へと変わる。
あたしは何ひよっているんだろう......リリカのお陰でキリッとした表情になる。
「絶対に勝つわよ!」
リリカは一瞬でカインとセインの背後へ回り込む。
両手に炎を纏い右拳をセインに、左拳をカインに振るう。
「爆王拳!」
カインは右頬に殴られるがダメージはあまりない。セインはとっさに跳んで避ける。
そのセインの後を追うようにあたしは跳ぶ。
「黒澤流......炎輪」
あたしは刀に炎を纏わせ、鎖を持ち円を描くように振り回しながらセインに斬り裂く。
セインは斬られた部分から血が流れるが弓を構える。
「うっ......まだ終わらない! ライトニングショット!」
1本の矢を放ち魔法陣を展開する。矢が数千本の矢へと増えあたしに向かって放たれる。
あたしは風を起こし、数千本の矢を弾く。そんなんであたしを殺るなんて早いわ!
再度、セインに近づく。
「黒澤流......炎閥両断!」
炎を纏った刀を振り下ろす。セインは落ちて倒れる。
あたしは上手く着地する。
残るはカインのみ! さっさと倒してリカ王女を探さないと!
「紅蓮爆王拳!!!」
リリカはカインに炎を纏った両拳で連続殴る。カインも同じように炎を纏った両拳で連続殴る。
お互いの攻撃は相殺し合い、衝撃波が辺りを壊す。
ちょっと! やり過ぎだわ。
「そんな炎でこの俺を倒せると思っているのか? お前にはまだまだ力が隠されているはず......もっと! もっと! 俺を楽しませろよ!!!」
リリカは一旦攻撃を辞めて離れる。
カインはちらっとセインを見てあたしに視線を戻す。
「俺たちは世界の王を護りし者、お前は世界の王になりたいか?」
あたしに問い出すカイン。あたしは小さく頷く。
正直、びっくりはしている。何を言っているんだろうか?
「そうか......」
カインは右拳に炎を纏う。その炎は黄金に輝いていて普通の炎とは明らかに違う。
リリカに向かって飛び出し右拳を振るう。
「獄炎拳!!!」
リリカはお腹を殴られ飛ばされて壁に激突する。カインの攻撃は今までの攻撃と比にならないぐらいの威力だ。
あたしはリリカに近づき、上半身を支える。
「守護者として弱いな。そんなんで彼女を守れるのか?」
「はぁ......はぁ......うるせー......」
「お前も俺たちも守護者に選ばれし者だから教えてやる。世界の王になりたければ己の正義を貫け」
カインはセインにゆっくり歩き近づいて彼女を担ぐ。
一息ついてあたしらに振り向く。
「フレドラ様は西の大地にあるスノーヴェ村に行ったぜ。3つある秘宝の内の1つピースサファイアがあるからな。奴を倒し、王女を救うんだな」
カインとセインは炎に包まれ、スッと消えた。
何なの? あの人たち......よく分からない奴らだった。
リリカは立ち上がろうとするがすぐに倒れそうになる。あたしが支えなければ立てそうにない。
それでもリリカは立ち上がろうとする。何でそこまでする? あなたに何が動かす?
あたしには理解ができない。
「かっちゃん、私はリカを助けたい。リカは私にとって家族だから......もっともっと強くなる! あいつをぶっ飛ばせるぐらい強くなる!」
リリカ......あなたならきっと強くなれるよ。あたしが保証する。あなたは世界の王の守護者になるんだから。
あたしはリリカをおんぶして城の出口まで歩く。他に誰もいないため、無事に城を出る事ができた。
俺がフレドラの城に到着した直後に、リリカを背負いながら華林が歩いて来た。
リリカは随分とダメージがあるようだが平気そうだな。
「今さら来るなんて遅いのよ!」
「すまねぇな。リリカは大丈夫か?」
「今は寝てるわ。かなりのダメージがあるからしばらくは起きそうにないわね」
「そうか。一旦、王都へ戻るか」
俺たちは王都へ戻る事にした。道中で寄った村で車を手に入れ、その車で王都へ向かう。
中古の古い車だが、ないよりはましだ。
数十時間かけて王都へ到着した俺たちは青蘭学園へ向かう。
青蘭学園、学園長室。俺はエリナに報告を兼ねてそこにいた。
リリカは保健室で寝かせ、華林が付き添ってくれている。
「それでマスターはこれからどうするのですか?」
「まぁ、フレドラがいるというスノーヴェ村に向かうわ」
「なら、車の手配しときます。雪道でも平気に走れる車を用意しときますね」
「ありがとな」
俺は学園長室を後にして、保健室へ向かい、扉付近でそっと覗く。
保健室ではリリカはまだ寝ていた。その傍に華林が丸椅子に座っていてリリカの右手を両手で軽く添えて包む。
ずっと傍にいてくれたんだな。ありがとな。
俺は保健室を後にして学園の庭へ足を運ぶ。一息ついて長椅子に座る。
俺がこうなってから月日がだいぶ流れたが、世界はどうなっているだろうか? なんとなく想像はできるが気になる。
スマホを取りだし、ネットニュースを見る。世間的には俺は死んでいるということになっている。俺が若返りした事を知っているのは極一部の人間のみ。例えば守護者たち10人とこの国の女王、我が娘たち、妻、妻の妹とか。
華林は何故か知っているがな。それは華林の母親が誰なのかって分かれば華林が知っている理由が分かる。今は言わないでおく。
さて、世界情勢はっと......どうやら、犯罪者が増えているらしい。やれやれだな。
そんなネットニュースを見ていると華林がやって来る。それに気づいた俺はスマホをポケットにしまう。
「どうした?」
「リリカが起きたみたいよ」
「そうか。すぐに出発しようと思う。寒い地方だから防寒着とか準備しないとな」
そして、俺たちはショッピングモールへとやって来た。
これから行くスノーヴェ村は極寒地方になるため寒さ対策をする必要がある。
そこで服屋を中心に装備品や防具を見に来たのだ。
とりあえず、試着して決めようと試着室へ入るリリカと華林。
「パパ~! どう?」
リリカは1回だけ回って俺に着用している服を見せる。
似合っているじゃんと言いながら右手の親指だけ立てる。
かわいいなぁ。頬が緩んでいると華林が勢いよくカーテンを開ける。
「ちょっと! あたしには何もないのかよ?」
「お前もかわいいぞ!」
「なんか照れるわね......」
「でぇきぃてぇるぅ」
顔を赤らめる華林に対してにやにやして小馬鹿にするリリカであった。このあと、リリカは華林に怒られたのだが、そこはカットだ。
数時間、ショッピングをした俺たちは学園の校門前にやって来て、車に乗り込む。
無論、俺が運転だ。助手席に華林、後ろにリリカが乗るが、リリカは不服そう。俺の隣が良かったみたいで。
数日かけてスノーヴェ村に到着した俺たちは車から降りる。
「わぁー! 雪だぁぁぁ!」
はしゃぐリリカは目を輝かせて走り回る。防寒着を着ずに何やってるだが......。
「リリカ、あんた寒くないの?」
華林の問いかけにしばらく固まるリリカ。そして、ぶるぶると体が震え出す。
「寒っ!!!」
「いや、遅いわ!」
某海賊漫画みたいなボケとツッコミをするな!
流石に寒いな。雪降ってきたみたいでとりあえず、宿をとる事にしよう。
宿屋を探しながら俺たちは雪で遊んだりして楽しんだ。そうした後に宿屋を見つけなんとか泊まる所が確保できた。
さて、フレドラを探しに行くのはいいが何処にいるか分からないため、まずは情報集めだな。
俺たちは各々で村人に聞き回り、情報を集める。そんな中、華林から有力な情報が入ってきて、ピースサファイアの事を耳にしたようだ。
奴がいるならピースサファイアがある場所だな。
村の近くにある雪山に神殿がある、そこにピースサファイアが祀られているらしい。
スノーヴェ神殿。そこへ到着した俺たちは中へと入る。
奥へと進むと部屋の中心に蒼く輝く宝石があった。そう、ピースサファイアだ。
その台座の前に黒髪のポニーテール女性が立っている。背丈は俺より少し低いが、胸の膨らみは大きくDカップはあるだろう。
ちらっとリリカを見ると小さい胸の膨らみ。うーむ、華林の方が大きいなぁ。
「パパ......小さくて悪かったな!!!」
何も言ってないが!?
何故わかったのだろう?
女性の腰には1振りの刀をぶら下げている。なるほど、剣士というわけか.......。
こいつの相手は華林に任せるとしよう。
「華林、彼女の相手はお前に任せる」
「わかったわ。任せなさい!」
リリカは頬を膨らませて不服な様子。相手が悪いからお前は休んでいろよな。
華林は女性の前に立ち、距離を取って背中にある刀を右手で握る。女性も鞘から刀を抜く。両者構える。
「私はサワ・アークテイル。ピースサファイアの守護する者。貴様らに渡すわけにはいかん!」
勘違いしているようだが、俺たちはフレドラがいると予想していたが違ったようだ。
話し合って分かるような相手ではなさそうなので闘う事になるだろうと思ったから華林に相手をさせる。
サワが華林に向かって飛び出す。刀を振るい斬り裂こうとするが、華林は刀で防ぎ、その後サワの刀を弾く。
「黒澤流......炎閥両断!」
華林は炎を纏った刀を勢いよく振り下ろす。サワは後ろへ跳んで避けて上手く着地する。
すると華林は刀を持ち上げようとするが持ち上がらず、むしろ重くなっている。そのせいか、地面が少しひび割れる。
「何これ? 刀が重い!?」
思わず声に出しちゃう華林。
これは彼女の魔法か......重力を扱うのか?
「私の魔法は触れたものに重力を加えさせる魔法だ。貴様の刀は倍加させた重力により重くなっている」
説明ありがとな。読者にもなんとなく分かる事だがな。
予想通りで何も言えない。ツッコミする気もおきない。
「それがどうしたって言うのよ」
華林は重力により重さが倍になった刀を持ち上げる。腕は震えているがその刀を振るう。
そしたら、重力が消えたのか腕の震えがなくなった。
流石は華林。魔法を消す魔法を使えるとはな。授けた甲斐があったな。
「この程度の魔法、無効化するぐらい簡単だわ」
「なかなかやるようだな。貴様は」
サワよ。顔がひきつっているように見えるのだが気のせいか?
両者は同時に飛び出す。その時、華林とサワの目前に1人の男が現れて2人を吹き飛ばす。壁に叩きつけられる華林とサワ。
燃えるような髪型をした赤髪の男。
「やっと見つけたぜ。ピースサファイア」
「ちょいと待ちな。フレドラ」
そう、その男こそフレドラなのだ。竜の王と呼ばれたドラゴンの1体。
「あん? これはこれはリカ王女のお父さんじゃん」
俺に気づいたフレドラは振り返る。
なんか、言い方に腹立つなぁ。
「リカは何処にいる?」
「安心しろ。我が浮游戦艦にいるぜ」
「そうか......こんな事して何が目的だ? 王国軍大将の1人がよ」
フレドラはサインサルト王国軍の2人いる大将の内の1人。国を護る軍の者が王女誘拐だとか最悪だよ。
「決まっている。俺様はリカ王女と結婚するのだ!!!」
その場にいる全員が固まってしまった。
そんな理由で誘拐なんてするなよ。それに1度フラれたろ! お前!
「お前みたいな奴にリカを嫁にさせるか!!!」
リリカがフレドラに向かって飛び出す。左拳に炎を纏って振るう。
フレドラは右手で受け止める。
俺のセリフをリリカが言うんかい!
「そんな炎では俺様を倒すのは不可能だぜ。炎拳!」
フレドラは左拳に炎を纏ってリリカの頬に振るう。
リリカは飛ばされて壁に叩きつけられる。
「悪いな。邪魔はしないでくれよな」
「朱の呪法、朱空!」
俺はフレドラを引き寄せる。そのままフレドラを右拳で振るって飛ばす。
フレドラは壁に叩きつけられ壁が崩れる。その後、瓦礫を退かし、口から少し血が流れる。
「魔法が使えないと陛下から聞いていたが流石は世界の王。魔力だけではなく、呪力も使えるとは」
華林は驚いているようだが無視しよう。今はフレドラをぶっ飛ばさないとな。
フレドラはゆっくり立ち上がり、俺に少し近く。
「この世界には魔力以外に呪力、霊力、忍力等様々な力があり、それら全てを扱え、全てを統べ、全ての種族の頂点に立ち、世界の秩序を護りし者......それが世界の王」
奴の言う通り、世界の王とはそう言う者を指す称号。
世界の王は神をも統べるため全知全能とされるゼウスさえ頭が上がらない立場になる。
それぐらい凄い称号なのだ。
「お前が何を想い、何を考えているか分からないがフレドラ。俺の家族を傷付けるなら容赦しないぜ」
「けっ。それが俺様に対する態度かよ!」
フレドラは俺に向かって飛び出す。俺は指をパチンと鳴らす。
すると、神殿が崩れる。跡形もなくなり、華林、リリカ、サワは俺の呪力で無事にいる。
俺とフレドラは空中に浮いていてお互いに構える。フレドラの背中には1対の翼と尻尾が生えている。
「これが......あいつの力......」
そっと華林が呟く。あーあ、見せたくはなかったが仕方ない。
「パパはとんでもない力があるのは知っていたけどここまでとかすげぇーよ......」
「貴様ら! これは一体なんなんだ!?」
サワは華林とリリカに近づく。焦りのあまり華林の胸ぐらを掴む。
「あたしだって分からないわよ!」
「くっ......」
華林の胸ぐらから手を離すサワ。ふと思い出したかのように辺りを見回しピースサファイアを探す。
幸い、近くにピースサファイアが転がっていてそれを拾う。
「良かったぁ......」
「あんた......騒がしい人ね」
華林は引いている。
「ちっ、ピースサファイアはお前にくれてやる。近々、俺様の所へ持ってくるんだな。必ずだ!」
「リカを返してくれるだな?」
フレドラは頷く。奴の目を見れば本気だと分かる。それに奴の性格からしても嘘を言う奴ではない。
「約束しよう」
フレドラはそう言い残し戦艦まで飛んで戻る。戦艦はフレドラが戻り次第、動きだし何処かへ飛び去る。
俺は華林たちの所へ下りる。
「ちょっと! 弘樹! 死ぬところだったじゃない!?」
「まぁ~まぁ~。かっちゃん落ち着こうよ」
「これが落ち着いてやれるか!」
宥めるリリカに、怒り心頭の華林。無事だからいいじゃねぇか......やれやれ。
「んで、これからどうするの?」
落ち着いた華林が話し出す。決まっているだろ。フレドラの後を追う。しかし何処に行ったかは分からず。予想するとおそらくカオスルビーなのだがそれは既に手に入れているだろう。
すると、俺のスマホが鳴る。エリナからの連絡があり、それを見た俺は驚く。
「お前ら! 急いで王都へ戻るぞ!!!」
「どうしたの? パパ」
「王都が襲撃されているらしい!」
俺たちは急ぎ王都へ、サワからピースサファイアを受けとり、車で戻る。サワには事情を説明したが納得はしてなさそうだがな。
戻る道中、先程の空飛ぶ戦艦が見え、その方向は王都へ向かっている。
「リリカ! お前はあの戦艦へ行け!」
「OK!」
俺は車を一旦停めてリリカを下ろしてすぐ走らせる。リリカは下りてすぐに足に炎を出して戦艦に向かって飛ぶ。
フレドラ、何を考えているだ? このままだとお前、反逆者になるぞ。それでいいのか?
空飛ぶ戦艦の中へ突撃して私リリカは壁を壊し侵入する。
侵入した際に響いた爆発音で軍兵たちが集まってくる。こんな奴等に構っている暇はねぇーよ!
軍兵たちを蹴散らしながら艦長室へ向かう。
「どけどけどけー!!!」
扉があって勢いよく飛び蹴りして壊す。すると、艦長室ではなく戦艦の甲板へ出る。
「あれ? どこだここ?」
「どうやらここまで来るとはな。流石は世界の王の娘......」
炎のような髪色をした女性がいた。私と変わらない背丈と年齢のように見える。
彼女にも背中に1対の翼と尻尾が生えている。フレドラと同じ色合い。
「お前をここで倒すのが我が兄上からの命。この私エンドラが相手しよう」
「私を倒すって? やれるならやってみろよ!」
少し調子に乗っているからぶっ飛ばすしかないな!
私はエンドラに向かって飛び出す。左拳に炎を纏う。
「爆拳!」
「炎拳!」
エンドラも右拳に炎を纏う。私は左拳をエンドラは右拳を振るう。互いの攻撃は相殺して火花が飛び散る。
両者は距離を取るため離れる。
何だろう? あいつから、かっちゃんと同じ匂いがする......何故だ?
見た目も何処か、かっちゃんに見える。雰囲気が似ていて見間違えそうになる。
ただ、背丈はかっちゃんより低い。
「どうした? 来ないならこちらから行くぞ!」
エンドラが私に向かって飛び出す。右足に炎を纏い、私の直前で蹴り回す。
「炎脚!」
私は間一髪で後ろに仰け反って避ける。その後、バック転して頬を膨らませる。
「爆炎光!」
口から炎を吐いて攻撃する。しかし、エンドラには効いてない。
だよなぁ~......相手は炎のドラゴン。効く訳ないよね......。
そう思いながら私は後ろへ下がる。
「その程度の炎、通用はしないぞ。だが、少しは熱さを感じたな。ただの炎ではない事は分かる」
「そりゃーどうも」
「お前は龍殺しだな?」
私の魔法は古代魔法の1つ、ドラゴンと同等の力を持ち、ドラゴンを殺す魔法......龍殺しの魔法だ。
エンドラはにやける。
「面白い! お前の力が私に勝るのか確かさめてもらうぞ!」
再度私に向かって飛び出す。なかなかの速さだ。これはあれしかない。
私は両足に炎を出して飛ぶ。エンドラは私の後を追うように飛び立つ。そして、私はエンドラの真上に浮き、エンドラに向かって飛び出す。
「爆王拳!」
両拳に炎を纏って突きだし、両足から炎を出してその勢いで突撃する。エンドラは両腕を交差して防ぐ。両者はその態勢のまま、甲板に落ちる。
「炎竜波!!!」
炎の衝撃波が私を押し上げる。私は上手く着地する。
甲板に少し凹む。エンドラはゆっくり立ち上がる。
「流石に甘く見ていた。これ程とはな」
「ありがとさん」
「だが私には対したダメージにならない。残念だ」
エンドラは全身から炎を勢いよく出す。私も同じように炎を出す。
魔力のぶつかり合いのように互いの炎が交わる所から衝撃波が飛び散る。
お互いにゆっくり歩いて近づく。
「紅蓮爆王......」
「炎王......」
両者は両拳に炎を纏せて構える。その右拳を振りかかる。
「拳!!!」
同時に叫んだ時、両拳を連続で振るう。拳がぶつかる度に衝撃波が飛び散り、周りを壊す。
お互いの右拳がぶつかった瞬間、衝撃波で私は砲台へ飛ばされ砲台は崩れる。エンドラも飛ばされて甲板を転がる。
私は空中へ飛び出し、エンドラも翼で空を舞う。両者は空中戦艦の周りを飛び回りながら拳をぶつけ合う。
何度かぶつけ合った後、私はエンドラの胸ぐらを掴み、1回転して甲板へ投げ飛ばす。
エンドラは甲板へ落とされ、その後を私は追い、右足に炎を纏う。
「爆王脚!」
エンドラへ向かって飛び蹴りする。一旦離れて近くに着地する。
エンドラは咳払いしながら立ち上がる。
「不覚を取った......私にした事が」
「おいおい、そんなもんかよ!」
「......お前に......お前に何が分かる!!!」
エンドラから勢いよく炎が出て、私は飛ばされそうになる。
先程までの雰囲気とは違い、怒りを感じる。
「エンドラ!!! これ以上反逆者になるな!!!」
叫び声がした方へ私とエンドラは向くと、そこにリカがいた。
何故リカがいるの? パパからの話だと戦艦にいると聞いていて捕まっているはず......。
「リリカ、無事か!?」
リカが私に駆け寄る。心配な表情で私の体を見る。
特に対した怪我はしていない。リカはほっとする。
「何でリカがここに!? 捕まっているはずじゃ?」
「訳は後で話す。それより父上は?」
「パパなら王都に向かっているよ」
「そうか......フレドラを殺るつもりか」
「リカ王女、そこをどけ! そやつを私の手で殺す!」
「そんな事をさせるかぁぁぁぁぁ!!!!!!」
リカは私の前に立ち両手を広げる。私を護るため必死になっている。
「リリカは私の家族でこの世界の王になる者だ!!!」
リカ......何言っているの? 世界の王になるのはかっちゃんで私じゃない。
パパと話してそう決めた。なのに何で?
すると、王都から光の柱が立ち上る。3人はそれに気付く。
「あれは!?」
「まさか!? 扉が開こうとしているのか!?」
エンドラは高笑いする。確実に嬉しそう。
「これで我らの願いが叶う」
俺と華林は急ぎ王都へ向かっている。そんな中、光の柱が立ち上るのを見える。
これは扉が出現した証。奴の狙いはやはり聖域か......ほんとに反逆者になるつもりかよ。
光の柱が立ち上る付近へ到着して、車から下りてその地下へと向かう。
王都の地下。神殿のような構造した通路を進み、フレドラがいる場所に到着する。
「よっ。待ってたぜ」
「ちゃんと持ってきたぞ」
ピースサファイアを見せ、それを投げる。それを見たフレドラは受けとる。
「リカ王女はお前に返そう。これで揃った! 我らの願いが叶う時がすぐそこに!」
「待ちなさい! フレドラ!」
華林が呼び止める。振り返るフレドラは華林を見て何かに気付く。
「弘樹よ。そいつを大切にしているようだが、世界の王にさせるのはリリカはずだが?」
「ちぃーと事情があってよ。華林を世界の王にさせるつもりだ」
「そうか......お前、名は?」
「福本華林よ」
フレドラは戦闘態勢を取る。
「お前が世界の王に相応しいかこの俺様が確かめさめてもらう!」
「馬鹿にしないでちょうだい!」
華林には申し訳ないがお前は世界の王になる事はできない。その理由はいずれ話す。
フレドラはそれを知っている。だが、察してくれたようだ。
「黒澤流......黒龍斬!」
黒い炎を刀に纏わせ龍のようにうねらせながら華林はフレドラに向かう。刀を振るい、フレドラは右腕で防ぐ。
右腕は斬れる事はなく、左拳に炎を纏う。
「炎豪拳!」
炎を纏った左拳を華林の腹に向かって振るう。華林は少しうっとなり、飛ばされ転がる。すぐに立ち上がり再び飛び出す。
「この俺様にそんな攻撃は効かねぇよ!」
「黒澤流......炎閥斬!」
刀を振るい炎の衝撃波を飛ばす。フレドラは右手で掴み握り消す。
炎が消えた瞬間、フレドラの目前に華林がいた。
華林は左手に魔法陣を展開して雷撃を放つ。雷撃を惑わせてフレドラの後ろへ回る。
「黒澤流炎輪!」
刀の鎖を持ち、刀を振り回してフレドラを斬りかかる。フレドラは空中へ飛ぶ。
この地下は自由自在に飛び回れる広さがある。
「炎豪脚!」
左足に炎を纏い飛び蹴りする。華林は刀で防ぐ。必死で踏ん張るが少しずつ引きずられる。
やはり、華林では倒せそうにないのか?
炎の衝撃波が俺まで飛び散る。俺にはダメージは一切ないが周りの壁が少し割れる。
フレドラは後ろへ飛んで着地する。
「どうした? そんなもんで世界の王になるのか?」
「うざいわよ! あんた!」
そう言いながら、華林よ。息切れしているじゃん。あんま攻撃していねぇよ。
「黒澤流......雷閥斬!」
雷状の斬撃を飛ばす。しかし、フレドラはこれを右手で受け止め握り消す。
「世界の王になるための条件1つはクリアしているようだな。だがそれだけではなれねぇよ! この俺様、世界の王の守護者の1人! フレドラをぶっ飛ばしてみろ!!!」
そう、フレドラは俺の守護者の1人。だが今は敵だ。
この世界の秩序を乱すのなら問答無用で罰しなければならない。例え、自分にとって大切な人でも俺は闘う。それが俺に課せられた使命。
「どうした? 来ねぇのか? クロ......」
フレドラの言葉に俺は動いていた。一瞬でフレドラに近づき、右拳を振るう。
フレドラは飛ばされ壁にぶつかる。
「おいおい、お前よ。そう怒んなよ」
そう言われ、俺は怒っていた事に気付く。激しい怒りがこみ上げて来るのが分かる。
それはそう、あいつは言ってはいけない事を言おうとしたのだ。
「いずれ真実を知る事になる。別に構わねぇだろ」
「よくねぇよ。フレドラ......お前、何したか分かっているのか?」
「弘樹......あんた......」
「華林、下がっていろ。こいつは俺がぶっ飛ばす!」
「えぇ、分かったわ」
華林は察してくれたようで後ろに少し下がる。色々と疑問があるとは思うが真実を語るのは今ではない。
いずれは話すがそれは彼女を助けてからにしよう。彼女の口から語ってくれるだろう。
俺は大量の魔法陣を展開する。そして、魔法陣から光の刃を出現させ、フレドラに放つ。
フレドラは防ぐが全身に突き刺さる。
「ぐっ......へへへっ。これしきで俺様は倒れるかよ」
血が大量に流れる。それでもフレドラは立ち続ける。
フレドラ......お前は何のために闘っている? 俺には分からねぇよ。
光の刃は消えているが体は痛々しい。
「弘樹......ありがとな」
フレドラよ。お前、まさかだが死ぬつもりなのか?
俺は右拳を握りしめていた。
何だよ! 自分勝手すぎるよ! それは。フレドラ、お前が死んだらエンドラはどうすればいいんだ?
あいつはお前を慕っている。だからめちゃくちゃ悲しむぞ。
「フレドラ! いいのかよ!? それで。後悔はないのか!?」
「構わねぇよ。俺様の願いはこれだからよ」
ふらふらでありながら必死に立ち続ける。倒れそうになるが踏ん張る。
そんなフレドラを見て俺は......。