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「怖くないです」

 オルテンスの部屋への侵入者たちは、処罰されることになった。何もなかったとしても、国王の花嫁候補として王城に留まっている他国の姫の部屋に侵入するのは大問題である。

 尋問をしたところ、彼らはデュドナがオルテンスのことを気に入っている様子だったから攫ってデュドナのことを脅すつもりだったというのだ。



 オルテンスはその言葉を聞いても、不思議そうな顔をしていた。



「……私のことを人質にしてもどうしようもないと思うけれど」

「そんなことはありません! 陛下もオルテンス様が攫われたりしたらきっとショックを受けますよ」

「……そう?」



 オルテンスはそんなことを言いながら、自分を人質にとってもどうしようもないのにななどと考えている。




「オルテンス様、もう少し自分のことを大切にしてくださいね。私たちはオルテンス様のことを大切に思っています。だから攫われそうになったらちゃんと抵抗しましょうね」

「うん」



 オルテンスはミオラの言葉に素直に頷いた。

 オルテンスは自分が攫われそうになったというのに、恐ろしさなども感じていなかった。ただいつも通りの様子で過ごしている。その歪さが余計にミオラにとっては痛々しかった。




「オルテンス様、今日はゆっくりしましょうか」

「ん? 別にいつも通りで大丈夫」

「……オルテンス様、もっと怖かったって泣いていいんですよ?」

「んー、結局痛い思いはしなかったし、恐ろしくないよ」

「オルテンス様の怖さは痛いかどうかなんですか?」

「うん。痛いの嫌だもん。だから私、あんまり痛い思いせずに一思いに殺してほしいってそう思ってて……」

「……オルテンス様、大丈夫ですからね? 一思いになんて恐ろしいことは考えないでください。私たちはオルテンス様が痛い思いするのは嫌ですからね?」




 オルテンスにミオラはそう言って言い聞かせる。オルテンスはその言葉に頷くが、それでも本心はまだまだ殺されることを望んでいた。それが分かるから、ミオラはオルテンスの気持ちをどうにか変えたいなとそんな風に考えていた。




 さて、オルテンスとミオラが会話を交わしながらのんびり過ごしている中で、デュドナがその部屋へとやってきた。わざわざデュドナが部屋にやってきたのはなんだかんだオルテンスのことを心配しているからである。

 ――襲われかけたということで、恐怖で震えているのではないのかと思っているようだ。




「あれ、陛下?」



 オルテンスはデュドナの姿を見て不思議そうな顔をしていた。

 そのいつも通りの様子に、デュドナは何とも言えない表情を浮かべている。



「オルテンス、お前、案外平気そうだな」

「何がですか?」

「襲われたんだろう……怖くなかったのか」

「……え、別に」



 そんなことを言い放つオルテンスに、デュドナは呆れたような様子である。



「怯えてないならいい」

「陛下、心配してくれてたんですか?」




 オルテンスはデュドナが心配してくれると思っていなかったのか、不思議そうな顔をしている。デュドナはその言葉に少し気まずそうにそっぽを向いた。



「それはともかくとして……オルテンスのことを襲った連中は、処刑する事に決まった」



 デュドナはさらりとそんなことを言い切った。そのことに対してオルテンスは特に顔色を変えない。



 そういう逆らうものを簡単に処刑する決断をするからこそ、彼は冷酷王と呼ばれている。デュドナに不興を買ってしまえばすぐに命を散らされてしまうとデュドナのことを恐れる人は沢山いる。




「……お前は俺のことが怖くないのか?」

「どうしてですか? 怖くないです」

「……どうしても何も、俺の噂を知っているだろう? そして俺は実際に逆らうものを処刑すると言っている。それを聞いてもお前は全然態度が変わらないな」

「だって陛下は、理由もなく処刑なんてしないですよね? 陛下は私にとっても優しいから。私が全然ダメな人間でも、全然怒らないし……」

「……俺は優しくないだろう。それにお前も駄目な人間ではないだろう」

「陛下はとっても優しいですよ」



 オルテンスはそう言い切って、真っ直ぐにデュドナの事を見る。



 視線を合わせて告げる様子から、オルテンスがデュドナに対して恐怖心を全く感じていないことがうかがえた。

 デュドナはそのことに何だかむず痒い気持ちになりながらも、「そうか……」とだけ答えて部屋から去っていくのだった。

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