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妄想お嬢様

作者: belgdol

 わたくしには弟が一人いますの。

お父様とお母様がお若い頃の学園衣装を持ち出して仕立て直して合わせてみたと言って笑っていた次の年に生まれた子。

……あの二人、年甲斐もなく……、不潔!とまでは思わなかったですけれど、自重してクレメンスとは思いましたわ。

そりゃあ、若かりし日の思い出を燃料に久しぶりに燃え上がる二人なんてお互いはいいのかもしれませんけれど、それなりの知識のある年頃の娘にとっては地獄でしかありませんわ!


 こほん。

でもまあそんな苦しみの代価とでも言わんばかりに生まれた子のロードリヒは天使のようでございました。

ふあふあの金髪をショートカットで揃えて、零れんばかりに透き通る蒼の瞳で微笑みかける幼児特有の曲線を描く頬の柔らかさと言ったらもう……。

わたくしを「ねーね」と呼んで頬っぺたを寄せてくる姿には何度撃墜されたか……。

あぁ~、わたくしこのままでは人生の被撃墜王ですわ~。

一生実の弟に撃墜されて地を這う人生が待っているのです………。


 などとかなり人生終了のお知らせを出されているわたくしですが、わたくし少し気がかりなことがありましてよ。

そう、それはずばり……年の離れた弟にできる恋人に対する小姑ムーブを我慢できるか不安な事ですわ!


 幼児である現時点で光り輝かんばかりの、聖母子像の子の方で描かれそうなロードリヒもお年頃になれば、そこはそれ男の子。

青春の情動のままに同じ年頃の女の子にエッサーコイサードンブラコー(意味不明)と現を抜かしてしまうかもしれません。


 いや、ロードリヒを信じていないわけではないんですのよ?

でもね……年若い男性の……その、欲求って……とても強いって言いますでしょう?

現にわたくしの同学年の殿方にもかなり遊んでいると噂の殿方がね、いらっしゃるんですの。

だから純粋無垢な我が家のロードリヒにはそうなって欲しくないなぁ……って思いますの。


 それが無理ならせめて複数の女性の間を遊び回る不実な男になるのだけは避けてほしいというのがわたくしの願い。

あ、あんな天使のロードリヒが!

複数の女性を弄ぶインキュバスのような殿方になったらと思うと……ひぃぃぃ!

やめてくださいまし!刃傷沙汰はよろしくなくてよ!


 はあ、はあ……取り乱しましたわ。

こんな、こんなつやつやふくふくの柔らかお手手のロードリヒが。

すらりとやや筋張った線の細い、でも男性らしさはしっかりと示す手の男性になって、女性を後ろから搔き抱いて。


「ああ、なぜこんなに君は俺を狂わせるんだ……君の前では俺は愛を乞う哀れな獣。どうかその慈悲を俺に示してほしい……」


 なんていいながらお、お、おチェストをまさぐったりなんかしたりするようになるわけが……。

ないない、ありえませんわ。

そんな悪夢じゃあるまいし。

びーくーる、びーくーるですわ。


そうですわ。

小姑ムーブですわ。

ロードリヒの連れてきたお嬢さんに対して採点が厳しくなった結果。

ねちねちねちねちとロードリヒとお相手のお嬢さんにストレスを掛けた結果嫌われる。

そんなのは嫌ですわ!

でもやはり、事前にハードルをどの程度に設定するかというのは難しい問題ですから、ロードリヒが小さい今のうちから考えておくのがいいと思いますの。


 そうね、まずは我が家は子爵家ですから、お茶会の作法はより上位の伯爵様や侯爵様に対するものは当然として、下の家格の方々に対しても面目というものがございますから、手を抜くことは許せませんわね。

衣装の好みは……まぁ自宅で着るものに関しては自由と言いたいところですが急な来客などもあるかもしれませんし、やはり放埓にというわけには……まあ貴族間のお客様なら普通先ぶれを出すのが常識ですから、あまり気にすることではないのかもしれませんが、それこそ敢えて慣例を破る不躾な方々に対して弱みを見せないためには常に貴族らしい恰好を…。

あ、あら?

おかしいですわ。

わたくし達貴族ってこんなにがんじがらめの生物ですの?

これじゃわたくしの好むと好まざるに関わらず、ロードリヒが選んだ女性が出来た貴族女性でなければ口うるさい小姑一直線ですわー!


 ど、どうすればいいんですの!?

詰み!?詰みなんですの!?


「ねーね」


 なんですのロードリヒ。

お姉さまは今忙しいのですわ。


「ねーね、おかお、おもしろい」


 ……あ、あらぁ~。わたくし今の顔にでてましたの?


「ねーね、おかお、おもしろいけど、ローのことむしするの、めーよ、めー」


 あ、あ、ごめんなさいましロードリヒ。

お姉さまそんなつもりは。


「ローとあそんでるときはちゃんとして、ねーね」


 ロードリヒのぷくぷくお手手がわたくしのスカートの裾を握って腕をふるふると振る。

ちょっと絵面がはしたないですけれどそれはいいですわ。


 そうですわね、ロードリヒ。

先々には不安もありますけれど、お姉さまがそんな不安に囚われて、今の貴方を蔑ろにしてはダメよね?


「ごめんなさいましロードリヒ。では改めてなんの遊びをしましょうか?」

「つみき!ねーねといっしょにおしろつくるの!」

「よろしくてよ。お姉さまの築城の腕を見せて差し上げますわ」

「わぁい!ねーねちゅき!」

「わたくしもロードリヒがだいすきですわ!」


 大好きなわたくしのロードリヒ。

どんな大人になるにしても、貴方は大事なわたくしの弟ですわ。

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