9.公爵様が焦っています
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キルアの手厚い看病のおかげで翌朝リリーは全快した。
もう一度言う、全快した。
「リリーさん、風邪を甘く見てはいけません。心配なので暫く屋敷に来てください。」
一晩中看病をしてくれた相手の無茶振りに冷たい対応を出来るわけもなく、リリーは枕を抱えて黙り込んでいた。目の前ではキルアによって、さっさとリリーの荷造りが始まっている。
「宿は私が清算しておきましたから……」
リリーの冷たい視線にようやくキルアが気付いた。
「一つ教えてください。キルア様は何をそんなに焦っているのですか?」
いつも強引なキルアだがそれでも絶対リリーの意見は聞いてくれる。
でも今朝は一方的に宣言して、自分の発言すら許してくれる気配がない。挙句の果てに勝手に宿の精算までとは行き過ぎ以外のなにものでもなかった。
「焦って、そう見えますか?」
キルアは荷造りの手を止めて落ち着くために大きく息を吐いた。
「そう見えます。私、昨日何かしましたか?それとも、なにかここに居ちゃいけない事があったのですか?怒らないから教えてください。」
リリーは小さな子供に言い聞かせるように優しく尋ねた。
キルアの予想もつかない行動には少しだが慣れたつもりだ。感覚も少々ずれていることも最近分かった。些細なことで怒っていては身が持たない。だからキルアが今何に困っているのか知りたかった。
「昨日、ここに私の知らない男がいました。」
聞いたこともない弱々しい声が聞こえた。
「下の階も、沢山男性がいて……なのにリリーさんは病気で一人で寝ていて、そんなの耐えられません。」
恥ずかしいのか顔をほんのり赤く染めて必死に説明するキルアにリリーは降参した。
「エリー貴方わざとやったでしょ?」
キルアの屋敷に移って二日ほどは過保護な看病をされベッドから一歩も出してもらえなかったがようやく外出の許可が出た為リリーは庭で神獣たちと遊んでいた。
《そう?結果的にお屋敷に住んでいるんだからリリーだって納得したんでしょ?》
「納得っていうか、断れる状況じゃなかったよ、キルア様をエリーが煽ったから。」
《あれくらいで焦るなんてキルアちゃんったら子供ねぇ。でも正直リリーが男ばかりのあそこに居続けるのは賛成できなかったわ。諦めなさい。》
エリーはリリーの膝の上で、もふっと伸びをした。そのしぐさが可愛くてつい全身をモフモフ触ってしまう。気持ちよかったのかエリーに嬉しそうにすり寄られてリリーは先日の美しい彼の姿を思い出し、つい一歩身を引いた。
「エリー、少し離れて……。」
人型の時のエリーを思い出してなんとなく彼と距離を取ったリリーに、今度はラリーが近づいてきた。
《なに?喧嘩しているの?そんな事よりブラッシングして》
エリートのやり取りを聞いていなかったのか、サリーがリリーに毛づくろいの注文する。
綺麗な毛並みが暫く手入れされていなかったのか少々粗く乱れていた。
そういえば前回会う約束をしたのにリリーがあんなことになったのだから、その後誰も手入れをしなかったのかもしれない。
彼らには本当に申し訳ないことしてしまった。
「はいはい、じゃあ膝に乗って。」
膝を軽く叩いてサリーを誘う。
バフっとリリーの膝に乗り上げてサリーがリリーを見上げた。
《なんなら俺も、人型になってみようか?》
全部聞かれていた。リリーの顔が一気に赤くなった。
《これくらいで発情してんじゃねーよ》
エリーとサリーの声が重なった。