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8.加護があっても風邪にはかかるらしいです

お読みいただきありがとうございます。

翌日、リリーは熱を出した。

目が覚めたら天井がぐるぐると回っていて焦ったが建物が変になったわけではなく、自分がおかしくなったと分かってリリーは安心した。


まだ引っ越しをしていないので宿の部屋だ。

喉がとてもヒリヒリしていて、とりあえず水が飲みたい。


リリーは立ち上がってみたが熱があるらしく足元がおぼつかずベッドに逆戻りするしかなかった。風邪だろうか?昨日の雨が原因かもしれない。


冒険者をやっていた時は多少の熱でも言い出せず彼らについて行くしかなく自前の薬草で誤魔化し、しのいでいた。おかげで何かしらのだるさをいつも抱えていたことが今となっては懐かしい。一人になってからは睡眠もよく取れ、だるさとは無縁の生活をしていたので正直今の状態はすごくつらいものだ。


以前作ったクスリはパーティーを離れるときに全ておいてきてしまった。今から作る気力もない。いっそこのまま寝ていたら治るのだろうか?


「そう言えば、今日は公爵様の所のコリー、エリー、ラリーと遊ぶ約束をしていたなあ……連絡しないと。ああ、でも今は無理かも……少し寝よ。」


リリーは一人呟くとモゾっと丸まり毛布を手繰り寄せた。



おでこにひんやり冷たい物がのせられたのを感じてリリーは目を覚ました。


そっと瞼を開けてみると見知らぬ黒髪の男がじっとリリーを見下ろしていた。水が入ったコップを差し出される。


「あら、起きたのね。リリーったら約束の時間に現れないから心配になって来ちゃったじゃない。そしたら寝込んでるから慌てたわよ。」


切れ長の目に薄い唇の整いすぎる顔立ちの青年の口から『おねえ』口調が飛び出してリリーは一瞬固まった。それも相手は自分を知っているらしい。


彼と約束などしていただろうか?今日の約束?


「あの……、もしかしてエリー?」


リリーが恐る恐る聞いた。

男はニヤッと笑った。


「正解。あんた、私の事、『女』と思ってたでしょ?あいにく私たちは三人共、男よ。三人一度にキルアちゃんのとこから消えたら騒ぎになるから私だけ来たの。さっきリリーが公爵邸に行けない事はキルアちゃんと他の二人に知らせたから大丈夫。」


「ありがとうございます。」


白いモフモフの犬だったはずがこんな美しい男性だったと分かるとリリーはなんだかとても恥ずかしくなった。

そう、彼をモフモフしていたのか……つい人間の彼をモフモフと触っている光景を想像してしまいリリーは眩暈を覚えた。きっと高熱ゆえの幻覚だ。リリーは恐ろしい妄想を振り払うように頭を振ると少しだけ体を起こし、ベッドへ寄りかかった。


「もう少し寝てなさい。私たちの加護は流石に風邪ぐらいの極小の災いには効かないわよ?この後キルアちゃんが来るみたいだから大人しくしてなさい。」


「はい?公爵様が来るんですか?ここに?」


あまりの爆弾発言に熱で思考がまとまっていなかった頭が一気に目覚めた。


「私が書いた手紙を見たらすぐに準備し始めたから、そろそろじゃない?」


下の階でザワザワと人の声がする。

トントンとドアをノックする音がした。


「リリーさんキルアです。入りますよ。」


本当に来た!リリーは慌てて布団に入りなおした。


「私が神獣のエリーだってことは内緒ね」


エリーがそっとリリーに耳打ちをして入口のドアを開けた。


「いらっしゃい。リリーなら起きたよ。」


エリーは外にいたキルアに向かってそう言うとニッコリと笑い、そのまま階段を下りて行った。


「キルア様?」


ドアの入口からエリーが下りていった階段をじっと見つめ続けるキルアにリリーは声をかける。声をかけられてやっとキルアがエリーに微笑んだ。


「貴方が風邪をひいたと聞いたので心配で看病に来ました。」


穏やかに微笑むキルアの顔を見ただけで熱が更に上がっているのだが……。


早速食事の準備をするキルアの後姿を見つめて、リリーは少しでも迷惑をかけないよう、そっと目を閉じた。

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