7.指名依頼が来ました。
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「リリー、依頼が来てるわよ。」
ギルドに来て掲示板を見に行こうとしたらサラに呼び止められた。
「ダグラスから薬草採取だって。指名依頼ね。」
「ありがと。行ってくるね」
ダグラスの研究は彼の自宅の隣に建てられている。母屋ほどではないがある程度の広さがあって販売もそこでしている。
依頼書をサラから貰うとリリーはそのまま彼の所に向かった。
先日の約束を守ってくれるとは律儀な人だ。
ダグラスの家に着くと準備をしていた彼が出迎えてくれた。
「依頼を出してすぐ来てくれるなんて感激です。」
「いえ、丁度ギルドに顔を出した時に呼び止められまして、タイミングが良かったんですね。今日も薬草ですよね。」
「そうです。ただ今日はそんなに沢山は必要ないので二人ならすぐ終わりそうですね。行きましょうか。」
二人は連れ立って森へと向かった。
木々の間から朝日が差し込む森は空気が澄んでいる様に感じるのは気のせいだろうか?
リリーは森の空気をめいいっぱい吸い込んで大きく深呼吸をした。
今後の事も考え薬草を取りつくさないように注意しながらリリー達は作業を進める。
一時間くらい経った頃、ぽつんとリリーの目の前の葉に水滴が落ちたのを始めに雨が降り始めた。
通り雨かと思ったが遠くで雷の音までしている。
「リリーさん、本降りになる前に引き返しましょう。十分薬草は揃いました。」
ダグラスはさっさと撤収の判断をして採取した薬草を濡れないように袋に詰めた。
二人がダグラスの家まで帰った来たころには二人ともすっかり濡れネズミの状態。リリーは家を濡らすわけにもいかないと、このまま帰宅するつもりだったのだが、濡れたままの彼女を見たダグラスに強く入浴を進められてしまった。リリーは気が付いていなかったが、雨に濡れた衣服が身体にまとわりついて体のラインがはっきりした状態の彼女はいつものあどけない少女の顔つきに煽情的な色気がプラスされ、どう見ても、このまま一人で歩かせられる状態ではなかったのだ。
「リリーさん、濡れた服は洗いますからそのままで、私の物で申し訳ありませんが着替えを置いておきますから使ってください。」
「ありがとうございます。」
ドア越しにリリーの声が聞こえたので、ダグラスはそっとその場を離れた。
「着替えありがとうございます。」
リリーはダグラスのTシャツを着て浴室から出てきた。少し大きめのシャツはリリーの膝くらいまでの長さがあり用意された短パンも穿いてみたが大き過ぎたので脱いでしまった。結果シャツ一枚の状態である。
「すいません。来ていただいたのにこんなことになって。」
リリーを待っている間にダグラスも着替えていて更にコーヒーも用意されていた。
彼女は差し出されたカップを受け取って口をつける。
暖かいコーヒーを飲むと身体が冷えていた事を実感した。
「薬草、集まりました?」
コーヒーを飲みながらリリーは短時間しか採取できなかった薬草について尋ねた。
「大丈夫です。欲しかったものは、ほぼ揃いました。後は在庫で何とかなりますから気にしないでください。」
「ほぼって足りないんですよね?、それじゃあ明日も取りに行きますから……」
雨のせいで足りなくなったのなら依頼は終わっていない。優しいダグラスはきっとリリーから言わなければこのまま依頼を終われせるつもりだろう。
「うーんそこまでじゃないんで」
ダグラスは少し困った顔をして考え込んでしまった。
そして、何か思いついたらしくリリーに向かって優しく微笑んだ。
「じゃあ、明日、一緒にデートしてください。」
「デート??」
「はい、僕とリリーさんでデートです。」
良いことを思いついたとニコニコしながらコーヒーを飲むダグラスにリリーは頷くことしかできなかった。
◇◇◇◇◇
二人は朝から隣町のキーフへと来ていた。
キーフはモノクルの倍以上の大きさの大都市で様々なお店が集まっている。今日はデートと言う事で何をするかと思ったのだが、ダグラスが椅子が欲しいと言う事だったので少し足を延ばすことにした。
家具屋に行き二人で椅子を選んでいると店員に声をかけられた。
「ご夫婦で使うならこちらも良いかもしれませんよ?二脚で色違いのお揃いです。ここのところが隠れたポイントで小さくハートの柄になっています。」
定員が椅子の隅の所を指さしてこっそり教えてくれた。確かに四隅にハートマークが控え間に彫られていた。
「い、いえそういうわけではなくて」
「ち、違います」
二人は慌てて訂正したが、定員はニッコリ笑うと二人をそのままに別のグループへと声をかけに行った。
「さっきは焦りましたね……まさか夫婦に間違われるとは。何食べます?」
「そうですよね……びっくりしました。このサラダ食べたいです。」
二人はその後も何件か店を覗いた後少し遅めのランチのためにレストランに入っていた。
ここはコース料理ではなくメニューから自分の好きな料理を頼むシステムらしい。
「じゃあ、サラダとお肉も頼んでいいですか?後はスープも必要ですね。」
ダグラスは店員を呼んで注文をした。
「今日はありがとうございました。こんな大きな町に来たの初めてで、楽しかったです」
「デート、楽しんでもらえたみたいで良かったです。」
ダグラスはニッコリと笑った。
「リリーさんはいつもギルドの掲示板を見てはお仕事ばかりしているみたいだったから心配してたんです。こうやって出歩くこともしてないんじゃないですか?」
確かにリリーは物欲があまりない。洋服も着られれば良いという程度だった。
「なんとなく、ずっと仕事していた癖が抜けていないみたいで、何かしていないと落ち着かないんですよ。」
リリーは恥ずかしそうに照れ笑いを浮かべた。
不意にダグラスの手が伸びてきてリリーの小さな手を包み込んだ。そのままそっと握りしめる。
「リリーさん、それは悪い癖です。ゆっくりでいいから治していきましょう。僕がお手伝いします。」
ダグラスの真剣な眼差しにじっと見つめられてリリーは耳まで真っ赤になった。
執筆ペースがゆっくりですがお付き合いいただけると幸いです。