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6.加護、貰っちゃいました。

リリーの前には三つの大きな白い塊がいた。


大きさはリリーより一回り大きいくらい?白いフワフワの毛に覆われている大型犬が三頭。それぞれ色の違う首輪をつけている。


始めはリリーを興味深そうに見つめていたが、暫くすると飽きたらしくその場にうずくまって目を閉じてしまった。飼い主のキルアは着替えてくると言って今はいない。


ゆえに、動かぬ白い大きなフワフワが三つリリーの目の前にあると言う事だ。


「皆さん、散歩……します?」


リリーがつぶやくと、一頭がのっそり顔を上げ欠伸をした。


《お嬢ちゃん、散歩行きたいのかい?》

「あら、私の言葉が分かるっていうことはただのワンコちゃんではないですね。」


リリーはテイマーの上級スキル持ちで中でも生き物との対話については神レベルまで会話ができる特殊能力を持っている。勿論、相手が人間の言葉を理解していないと会話としては成立しないので話し合い相手はテイミングして言語を理解した動物くらいだった。


だから冒険者時代はもっぱら周囲の動物の雑談を聞く能力といわれていた。


《人間には神獣って言われる事が多い》


神獣は様々な力を持ち共に生活するだけでも幸運をもたらすという生き物で様々な形態をしている。リリーが出会った神獣はわりと神々しい生き物達だった気がするが。その点彼らはなんというか……モフモフの愛玩動物。確かに一緒にいるだけで幸せになれそうだ。


「こんなところで神獣様とご一緒できるなんて嬉しいです!流石公爵家、神獣様にも愛せれているんですね。」


《だって、キルアちゃん可愛いでしょ~。つい構いたくなっちゃう》


先程話しかけてきた個体とは別のフワフワが起き上がって嬉しいそうに話す。

話し方からして女性なのだろう、キルアを【ちゃん】呼ばわりとは、リリーはクスリと笑った。


《私たちとキルアちゃんの出会いなんだけどね……》

「そうなんですか、雨の中キルア様が……」


リリーが彼女とキルアについての話を膨らませていると今まで黙って丸まっていた最後のフワフワがリリーのそばに近づいて来て前足でリリーに座るように指示をした。


綺麗に手入れされた芝生にリリーは指示されるままに、ふんわりと座り込む。


《散歩に行かないならそのブラシで毛づくろいしてくれ》


座り込んだリリーの膝にふんわりと頭をのせてブラッシングをねだる仕草はワンコそのもの。リリーはすぐに用意してあったブラシでブラッシングを始めた。他の二匹も羨ましそうに見ている。


「三人とも順番に遣らせていただきますからお待ちくださいね。」


一通りブラッシングが終わり、ついでにマッサージもしてあげると三匹はリリーの周りをとり囲むようにして身体を寄せ合いまったりし始めた。


《お嬢ちゃん、気に入ったぞ。ワシらと話ができる人間は久しぶりだ。折角だから加護をあげよう》


「神獣さまの加護ですか?それって聖獣さまご本人にも負荷がかかると聞いてますよ。そんなことしなくてもいつでもマッサージくらいしますから。」


神獣の加護とは神獣と繋がりあらゆる災害から庇護者を守ってくれると言われている。しかしそれは神獣に大きな負担となるらしい。大変光栄な事だが今日出会ったばかりのリリーが軽く貰うものではなかった。


《いいじゃない、いま加護を与えているのはキルアちゃんだけだから何の問題もないわよ。》

《ああ、それぐらい俺たち三人なら軽いものだ。》


そう、口々に言われると大変断りづらい。


「じゃあ、ありがたくいただきます。」


リリーが渋々頷くと彼らは何やら聞き取れない言葉を唱え、三匹同時に遠吠えをした。

少し高めの音が周囲に響き渡る。

するとキラキラと光るものがリリーの周囲に降り注いできた。


《これで加護が成立した。ワシの名前はコリー、他の二匹はエリー、ラリー。お嬢ちゃんの名前を教えてくれ》


「リリーです。なんだか似た名前ですね。よろしくお願いします。」


加護と言われて身構えたが別段何も変化はなかった。


「そういえば、キルア様も加護をいただいているんですよね、じゃあ彼ともお話とかしているんですか?」


先程はあくまでも犬として紹介されたので秘密にしているのだろうか。


《いや、キルアは俺たちとは話せない、あんたが特別なんだな。加護もここに居座らせてもらっているお礼に俺たちが勝手にアイツにかけているだけだ。》

ラリーは身体をそらせて伸びをした。

《ラリーったら素直じゃないねぇ、キルアちゃんの事大好きなくせに。兎に角、キルアちゃんは話せないから私達の事を犬だと思ってるの。しなくても良いのに毎日欠かさず散歩に連れて行ってくれていろんなお世話もしてくれて、そこもまた可愛いんだけど》


散歩やブラッシングをするキルアを思い浮かべてリリーなニヤニヤする。


「秘密にしているのではなくキルア様に伝えていいなら、私から説明しますよ。きっと喜ぶと思います。」

《そうね、是非お願い》


三匹は嬉しそうに頷いた。



暫く三匹がリリーとゴロゴロしていると、やっとキルアが戻ってきた。


「リリーすいません。着替えに戻ったらそのまま仕事の電話が数本入ってしまい遅くなりました。おや、だいぶ仲良くなりましたね。」

「はい、仲良くさせて頂いてます。なんと加護までいただいちゃいました。」

「加護?」

「はい、この子達、神獣さまなんですよ。私の能力でお話が出来たのでいろいろ教えてもらいました。」


「で、加護を貰ったと?」

「そうです。キルア様にも既に加護が贈られているそうですよ。」


唐突な展開にキルアも落ち着こうと思ったのか芝生に座り込んだ。

するとコリーがゆっくりキルアのほうに歩いていき頭をキルアの膝に乗せた。キルアはいつもの様にその白いフワフワを撫でる。


「その子はコリーって言うそうです。」

「私は首輪の色からとってルビーと言ってました。」


青い首輪をしたエリーが短い尻尾をフリフリしてアンっと吠えた。


「この子はエリー。」

「サファイヤはエリー。」


緑の首輪をしたラリーがじっとキルアを見つめている。


「この子は?」

「ラリーです。キルア様の事が大好きだそうですよ。」


ラリーが恥ずかしそうにプイっと視線をそらせた。


キルアはそっと立ち上がると少し離れたところにいたリリーの隣に座りなおした。それを見て三匹も二人を囲む位置に移動する。


「神獣様ですか…道理ですぐに大きくなるわけだ。雨の中、子犬を保護して三日後にはこのサイズですからおかしいとは思いましたが。うん、捨てなくてよかった。」


三匹が初めて知った事実に驚愕の表情でキルアを見た。いやいや、普通は捨てます、もしくは業者呼びますよ。リリーはそのまま飼い続けたキルアの行動のほうが驚きだった。


「三日間でいきなり子犬からここまで大きくなる犬って、私だったら怖くて通報します。キルア様はある意味すごいですね……。」

「いや、一度拾った命を再度投げ出すのは良くないと父から教わったので。それに、この見た目、手放し辛くありませんか?」


近くにいたラリーを引き寄せてキルアはぎゅっと抱きしめる。

すると、リリーの手にふんわりしたモノがあたった。エリーの頭だった。どうやら同じ事をしろと言う事らしい。リリーもそっと抱きしめる。フワフワしてとても肌触りのよいそれは確かに手放しがたい。


「コリー、エリー、ラリーそしてリリーですか。なんだか兄弟みたいですね。皆、可愛い。」

キルアが目を細めて微笑む。

「えっと、私は人間ですよ?」


楽しそうに笑うをキルアをリリーは覗き込んだ。

そのままぎゅっと抱きしめられる。


「ほらやっぱり、可愛い。」


クスクス笑うキルアに抱きしめられながら、頬をほんのり赤く染めたリリーは必死に脱出しようともがくのだった。

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