43.養子縁組
随分、お休みしてしましました。
「お兄様とはゆっくりお話が出来ましたか?」
リリーは膝の上に腹を見せてうっとりとしているラリーに優しくブラシを当てながら隣に座り込むキルアに尋ねた。
「はい。そのつもりだったんですがどうも話が別の方向に拗れました。」
今朝何気なくリリーが言った一言から慌てて王宮に出向いていったキルアは出かけていった時の勢いとはうって変わってしょんぼりしている。
「先程までいらしていた使者のファランユース様のお話ですね?王家の事情で私は親族の公爵家に養女に行かないと結婚できないと言われました。キルア様にもその話はしていると、本当ですか?」
地方の男爵家の娘が王家に身近な公爵家へ嫁ぐ。それは具体的には大きな身分差を超えての婚姻であり、更にキルアとの縁づきを狙っていた各貴族から反対の声が出ている。勿論キルアの兄としては無視しても良いと思っていたのだが貴族の見本となる振舞いを求められる公爵家に王としては公平な立場を取りたいとの事だった。
簡単に言えばこのままでは結婚を許すわけないはいかない。
『先王の妹の嫁ぎ先の公爵家から養子の打診があるので、まずはそちらとの縁組をするように。』
わざわざリリーを尋ねてやってきたファランユースから先程そう告げられた。
王家の使いとして来たというその青年は美しい青い髪を肩のあたりで切り揃えふと見れば女性と見違えるような整った顔立ちをしていた。そして、突然の事で驚くリリーに対し使者特有の権力を笠に着るタイプとは違い一つ一つ丁寧に説明をしてくれた。
お願いとはいえ王家からの正式な要請はすなわち命令だ。
「今回は王様として頼むと、そう言われてしまいました。」
取りあえず一人では決めれないと説明し、彼には帰ってもらったが明日も来ると言っていた。
「はい……実は私も今日聞きました。兄としてというより王としては臣下の手前その様にしたいとの事です。決してリリーの悪いようにはしないからと念を押されました。」
「そうなんですね。」
「ただ、ご実家との縁はなくなります。それが嫌だというなら……。」
実際はすでに縁を着る方向で進んでいると言えずキルアは言葉を濁した。
「いえ、どの道もう家には帰れませんから。」
手紙を出したのはいつの事だっただろうか、気がつけば返事を待つことも忘れていた。その程度のつながりだ。きっとあちらもそう考えている事だろう。
ラリーのブラッシングが終わってコリーがのっそりとリリーの膝に頭をのせた。どうやらマッサージをご希望のようだ。
「養子縁組をすると、何が変わるんですか?」
リリーはコリーの背中を優しくなでた。
「叔母の家は王宮の直ぐ近くにあるのでそこに一旦移って上級貴族の風習を習ってもらうとの事です。そして時期を見て公爵の娘としてのお披露目をしてから、私と正式な婚約式。」
「キルア様と一緒にいられないんだ……。」
「嫌なら断りましょうか?」
そう提案するとリリーはゆっくりと首を振った。
「そこまで決まっているということはもう話がだいぶ進んでいるってことですよね、実家にも報告済みですか?」
リリーは少し寂しそうに言った。
もしそうならなぜ自分には実家から何の連絡も来ないのだろう。
「実は兄が気を回してマタドール公爵家の使いとして人を派遣したそうです。結婚の承諾と、養子縁組についても提案しリリーが承諾するなら受け入れてくれると返事を貰ったと言っていました。あわせて男爵家からの連絡は控えて欲しいとお願いしたようで……。」
男爵家からの連絡がないことをやんわりと隠すための嘘。
キルアは良いにくそうに続けた。
「すいません。祝福したいというご家族の気持ちを断るようなお願いをしてしまったと…兄が対面を気にしすぎて貴方を悲しませてしまうのではないかと謝っていました。」
全部自分のせいにしてくれと言われたことに心の中で詫びながらキルアはそう締めくくった。
別のお話を進めるためにいったん止めていましたが。あちらが完結しましたので再会します。
【完結】私、身代わりで嫁ぎましたが王子に深愛されています
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