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42.まだ婚約中です

お読みいただきありがとうございます。

とろとろとですが、二章始めます。

 ……未だに二人の関係は『婚約者』。


 キルアとリリー正式に婚約を発表して丁度一年が経った。本来婚約期間は三か月の予定だった。しかし『間の悪い』というか『おめでたい』というか丁度その時期にこの国の王に子が生まれた。


 第一王子の誕生。


 国全体が祝賀ムードの包まれてキルア達も大変喜んだ。そして国を挙げての祝時に自分たちの祝い事を重ねるわけにもいかず、二人で話し合い必然的に結婚は少しだけ延期することとしたのだが、その間に問題は起きた。


『幼い王子よりも、王弟殿下の公爵が王太子としてふさわしい。』


 そんな進言を臣下達にされても王は何も言わなかった。


 無事生まれた我が子を愛しく思いながらも最近関係が修復された弟の事もこの上なく愛している兄は、近頃頻繁に離宮に出入りしている公爵の姿を見てついに復籍かと勘違いした臣下達の進言に怒ることも頷くこともせずただ、だんまりを決め込む。


 そう、それは王自身が望むことだから。


「兄上。企みましたね。」

「人聞きが悪いね。臣籍なんかに下るからそんな言葉遣いを覚えたんだね。そうだ、キルアの王族への復籍を認めよう。」

「お断りします。」


 ついに噂を思慮してキルアが王のもとへと訪れた。自分はそんなことを微塵も思っていないし迷惑だと、そう説明したのだが彼はにこやかに笑っているだけ。


 大体普通の親はようやくできた実子に後を継がせたいものではないのだろうか?キルアは目の前の兄の思考が掴めずいらだっていた。


「大体こんなことをしていたら一向にリリーと結婚できないんです。あの子は王族となった私なんて恐れ多いと言って逃げてしまう様な女性なんですから。」


 実際、今朝それに近いことを彼女に言われて青くなって急いで兄に会いに来たのだ。しかし、目の前にいる国王陛下は己の都合が良い妄想しか口にしない。


「それについては気にせずとも良い。先程メイガン叔母上から養子縁組のお返事をいただいたところだ。」

「養子縁組?」


 クロム公爵家に嫁いでいるメイガン叔母から?


 父の妹にあたる叔母とは今でこそ疎遠になってしまったが爵位が同じ事もあり若い頃は良く相談相手になって貰っていた。確か子供に恵まれなかったがその分夫婦二人の時間を謳歌していると聞いたことがある。


「リリーちゃんの実家は男爵でしょ?調べたところいろいろと困窮なさっているようだったので少しの援助と交渉をしておいた。実の娘とはいえ随分交流がなかったようであっさり養女に出すことを承諾してくれたよ。今クロム公爵家との養子縁組の書類を作っている。先代王の妹の養女になればキルアが公爵だろうと王弟殿下になろうとなんの問題ない。」


 リリーから実家と疎遠だと聞いてはいたが、これから公爵家と縁が出来るという時にそんなあっさり手放すだろうか?むしろこれを機会に切り捨てた娘にすり寄ってきてもおかしくないのだが。


「男爵家、それも困窮している家が公爵家と縁ができる機会をみすみす手放すようには思えませんが?それにリリーの意思はどうしたんです?」


 キルアはひどく違和感を覚えて兄に詰め寄った。すると国王は流石にバレたかという表情をして少し真顔になり話し始めた。


「彼女には今頃使者が説明に行っている。実は男爵家については確かに少し抵抗された。初めはお前との婚姻の報告をしに行った筈の使者から聞いた話だが、彼らは実の娘の事を高く売れる商品の様に言ったらしい。婚姻を認める代わりに、これから親戚づきあいをする上での『援助金』を交渉されたと言っていた。」


 確かに公爵家と親戚関係になるのなら、それなりの身支度を整えたいと思ったのかもしれない。しかしリリーからはそんな話は一度も聞いたことはなかった。


「彼らはね、リリーちゃんに対して一度も祝福の言葉を口にしなかった。その上彼女と会いたいとも言わなかったそうだ。延々と持論を述べる男爵に取りあえず援助を約束して使者が戻ってきたときにそれを聞いた私の気持ちがわかるかい?申し訳ないが直ぐに叔母に連絡を入れさせてもらったよ。」


「そんな事があったんですか。」


 冒険者として仲間から別れを切り出されたリリー、今度は家族に売られた様なものだった。


「男爵家との『手切れ金』は私からの祝いだ。彼らは今後一切干渉しない。あくまでも彼女が叔母上の養女になるのも私のわがままで通すからそのつもりで。」


 リリーが本当の事を知ってしまわぬよう、国王の心遣いだった。


 自分はリリーと思いを通じてやはり幸せボケしていたのだろうか?彼女の家族からの連絡がないことを全く気にしていなかった。


「ありがとうございます。」

 やはりこういう時は年長者の既婚者の方が気を回すのがうまいと言う事か、キルアは深々と頭を下げた。


「と言う事で、結婚したら復籍でよいかな?」

「それとこれとは別です。そういう事なら結婚も少し考えます。」

「え?」


 キルアの発言に驚く兄。


「一緒に住んでいますし別に結婚を急ぐ理由もありませんから。世間が落ち着くまで待ちますよ。」


 手切れ金程度で、彼女の実家が黙ってくれるとは少し考えられない。それなら少し様子を見た方が良いだろう。

 キルアは少し冷静にものを考えることを思いだし、呼び止める国王に返事もせずに執務室から出て行ったのだった。




 リリーが不安がっているのではと思い、キルアは折角登城しているのだからと、わらわら相談を持ち掛けてくる王宮の役人達を蹴散らして取り急ぎ屋敷へと帰ってきた。

 すると庭先で王からの使者が帰るタイミングと蜂合わせた。


「おや公爵様、おかえりなさいませ。」


 キルアに向かって優雅にお辞儀をする年若い男性。緑の帽子は王の近習のみに許された証だった。


「ああ、兄の使いはファランユースだったか。久しぶりだな、まさか俺の愛しい人を泣かせたなんて言わないよな?」


 ファランユースはニコッと微笑む。兄曰くこの男が本気になれば男女問わず完堕ちするらしいとか。


「素晴らしいお嬢様です。貴方様と相談するまで返事は保留されました。」


 初めての敗北ですと、少し悔しげに言いながらも『明日も来る理由が出来ましたので楽しみです。』と言い残し彼は立ち去っていった。


 彼の何やら、含みのあるその物言いに少しだけキルアの心がざわめく。尚更早くリリーに会いたくなってきた。


「あ、キルア様。おかえりなさい。」


 遠くから自分を部声がしてキルアは辺りを見回す。そこには手に神獣お気に入りのブラシを持ったリリーが立っていた。

新作書いております。

もしよろしければマイページから飛んでください。

リンクの張り方が分からすここに張れない(笑)

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