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4.草むしりは男性がやる仕事のようです

ブックマークありがとうございます。

リリーが借りた家は郊外にある庭付きの一軒家だった。

規模からしたら一人で住むには大きいが今はこの物件しか空いていないらしい。町はずれにあることからギルドからは少し離れていて、その分家賃はかなり抑えめに設定されている。それも都合がよいので直ぐにリリーは契約した。


「さて、どこから手を付けようかしら。一階のリビングとキッチン。二階の寝室は直ぐに掃除をしないと住めないし、二階にある他の客間は荷物置き場になりそうだから後回し。庭の雑草は、さっき依頼を出したから誰か来てくれると良いけど。」


サラと内見をした翌日リリーは掃除道具を持って借家を訪れていた。条件が良いのでその場で契約まで済ませたが、家自体は何年も空き家だったせいで掃除をしなくては引っ越してくる事が出来ない。サラに専門業者も紹介されたが節約のため自分で掃除をすることにしたのだ。


かといって、全部一人ではそうとう時間がかかるので草むしりについてはギルドに依頼を出した。リリーはFランクなのでまだ指名依頼は出来ないのでフリーの依頼書だ。

とはいえ費用もあまりかけられないので《銅貨五枚 食事つき(手作り:サラ曰くこれが重要らしい)》という条件なので直ぐに来てもらえるのかは、あまり期待はしていない。運よく誰か来てくれればラッキーというところだ。


「リリーさん、依頼を受けたいという方を連れてきましたよ。」


やっと一階部分を掃き掃除したところで戸口に先程取り付けた呼び鈴が鳴った。換気のために全てのドアを開けているので開放中の玄関のドアからサラがそのまま入ってきた。


あわててリリーも掃除用具を置いて入口へと迎えに出る。


「今朝依頼を出したばかりなのに早いですね、助かりま……す。ってマタドール公爵ですか?」


サラから少し遅れて入ってきた人物は、先日あったキルア・シャル・マタドール公爵だった。先日のスーツ姿ではなく至ってシンプルな水色のシャツに黒いパンツ姿、髪は後ろで軽く束ねられており手には掃除、草刈り用具を持つというシュールな組み合わせでニコニコと微笑んでいる。


「こんにちはリリーさん、依頼を受けに来ました。」

「こんにちは公爵様。あの……草むしりですよ!いいんですか??」

「勿論です。ついでに掃除も手伝おうかと両方の準備をしてきたので任せてください。」


確かに誰が受けても良いフリーの依頼になっていたが、それでもおかしいだろう。


さっそく準備に取り掛かってしまった公爵の後姿をじっと見つめているリリーに横からそっとサラが小声でささやいてきた。


「リリーさん、ごめんね…流石にこれは公爵としてあり得ないと阻止しようとしたんだけど兎に角やるの一点張りで……SSランクの人物に無理なら退会するって言われるとギルドとしては断れなくて。そういう事だからもう依頼成立処理も終わってます。」

「サラさん……依頼は発注した側に断る権利あるんですよね?」

リリーは半ばあきらめているが一応こっそり確認した。


「今回は、無いです。」


サラは契約書をリリーに手渡すとさっさと帰っていった。

リリーは渡された契約書貼られたたメモを見てため息をつく。


《リリーさんに20Pボーナス付けますから一日お相手よろしくお願いします。》

リリーは思わず契約書をくしゃりと握りしめた。



◇◇◇


流石のSSランクは伊達ではなかった。


あんなに生えていた草がサクサクと刈り取られて、脇に積み上げられていく姿は芸術的な域に達していた。公爵という地位、外見の美しさからSSランクになったと勘違いしていたが能力まで本物のSSとは。そういえば先日いただいた感動するほど美味しい食事のレシピも全て自身で考案したと言っていた。

そこまで考えてリリーは重大なことに気が付いた。


「どうしよう、食事ってお昼は私の作ったサンドイッチだ……。」


まさかこんな大物が来るとは予想外だったし正直、今朝張り出したばかりの依頼なので誰か他の人が来るとも思っていなかった。だから念のため多めに作ったサンドイッチがあるだけ。


今から準備してもランチ時間にはとてもではないが間に合わない。


「マタドール公爵、あの……そろそろお昼になりますが、ご飯サンドイッチなんですが、お食べになりますか?」


リリーが公爵に声をかけると万遍の笑みが返ってきた。

「ありがとうございます!楽しみです。」


リリーは観念してサンドイッチとスープの入った水筒をそっと机の上に置いた。



ランチをはさんで庭の整理が済んだ所でマタドール公爵は帰るそぶりもなく当然のように室内の掃除に取り掛かった。


キッチンで掃除をしているリリーには重点的に一階をやっていてほしいと指示を出し、自分は二階を掃除してくると言って階段を上って行った。まさか一人であの広い部屋を掃除するつもりなのだろうか。リリーは急いで自分の担当部分を片付けて手伝いに行かねばならないと心に決めていた。


幸い一階は部屋数が多いわけではないので一時間もあれば片付いてしまった。


リリーは公爵を手伝うために二階に上がって、既にどの部屋もピカピカに磨き上げ上げられている事に驚いた。


「ああ、リリーさんいらっしゃい。今ちょうど終わったところです。ただベッドは交換が必要ですね、足が折れかけています。これはさすがに私でも直せない。」


すでに掃除を終えた公爵は、仕上げとばかりに備え付けの家具の確認と簡単な修理をしていた。


「ありがとうございます。流石に寝具は買いそろえようと思っていたので、大丈夫です。後で見に行って来ます。それと、もう十分助けていただいたのでこの辺りで今日の作業を終わろうと思いますが如何でしょう?」


後は徐々に荷物を運びながら気になれば片付ける程度で大丈夫だ。やはり年季が入って強度が気になっていたベッドを新しく注文すると言う事になればこの後数日は納品に時間もかかる。暫くは宿暮らしが続きそうだ。


「そうですか、では今日の記念にベッドは私にプレゼントさせてください。何かお好みはありますか?」

「はい?何の記念ですか?」

「掃除をご一緒できた上、おいしい手料理まで頂きました。そのお礼です。」


きっと悪気はない。それは十分わかっているのだが。


「えっと、サンドイッチはお約束してあった報酬に含まれていますから気にしないでください。それにお礼をするのは私の方ですよ?報酬を出してお礼を貰うなんて聞いたことがありません。お気持ちだけ受け取っておきますから……そんな悲しい顔しないでください。」


始めこそお説教のテンションで話していたリリーだが公爵の悲しそうな顔につられてついつい申し訳得ない気分になってしまった。


「そうだ、じゃあ間を取って今からベッドを選びに行くのを手伝ってください。」


この提案の効果は絶大だったようで、復活した公爵はすくっと立ち上がった。


「そういう事なら任せてください。寝具のコーディネートの資格もあります。」

二人はさっそく戸締りをすると街で一番大きな家具屋へと向かった。





二人で見に行った家具屋で一目ぼれしたベッドを注文して二人は軽く夕食を食べることにした。


公爵相手にどんな店に入ればよいかと考えていたら、彼自身が行きつけだという小料理屋に案内された。そこは少し高級そうに見える店構えの割には店内は冒険者、商人から貴族まで、いろいろな身分の人間で溢れていた。


流石に公爵が店に入ったとたんに店主が出てきて個室に案内される。


「いらっしゃいませ、今日は珍しく女性のお方をお連れとは。ゆっくりして行ってください。」

奥に通されて挨拶を済ますと店主はスッと下がっていった。


公爵は本当に常連のようで、店員に新しいメニューを確かめながら次々と料理を注文していく。お酒も飲むようで公爵は麦酒をリリーには甘い果実酒も注文してくれた。


「随分大きなベッド買いましたね。」

注文した前菜とお酒が届き食事をしながら、公爵が先程注文したベッドについてリリーに尋ねた。


「私、ベッドは大きいのが好きなんです。宿も数日ならいいんですがやっぱりベッド小さいと落ち着かなくて、だから引っ越しを決めたっていうのもありますね。」


今回購入したのはクイーンサイズのベッドだ。小柄なリリーなら三人は寝る事が出来るかもしれない。おかげで在庫がないので取り寄せをすることになり納品にはしばらく日数がかかりそうだ。


「もう少し、窮屈な宿のベッドでの暮らしが続きそうです。」

リリーは甘いリンゴの酒をチビチビ飲みながらため息をついた。


「では、私の屋敷に泊まればよいではないですか。部屋なら空いていますし、ベッドもすべてキングサイズです。」



マタドール公爵はとても良いことを思いついたと言って嬉しそうに、残りの麦酒を煽った。

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