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39.神獣vs???

いつもお読みいただき

ありがとうございます。


 カイはニヤリと笑うとそのままリリーを自分に引き寄せて抱きしめた。

 

 コリーとラリーはその場から動かない。


「そっちの二人、何かしようとしたら直ぐにこの子の喉切っちゃうから気を付けて。」


 そっと首筋を撫でられてゾワッと鳥肌が立った。


 そして彼はそのままラリーのつけた噛み跡に触れて慌てて手を離した。

 カイの指先が赤く腫れている。


「痛いじゃないか……傷、消しちゃおうと思ったけど流石に無理かあ。これさえなければこの子も僕の物に出来たのに残念。」


 残念そうに男は自分の指先を見つめた。


「当たり前でしょ。人間ごときが俺の印を消すなんて不可能だよ。諦めて早く返してよ。」


 カイが一瞬目を移した隙にラリーがその場から消え、目の前に現れた。

 しかしそこには待ち構えていたカイの愛剣が深々とラリーの腹を深々と突き刺す。


 「神獣にしては分かりやすいなあ。簡単に引っかかった。」


 カラカラと笑うカイを見てリリーは自分を抱きしめている存在がとても不気味に思えた。

目の前ではラリーが自分が刺された箇所をじっと見つめている。腹部に剣が刺さったままの傷は血が溢れることもなく不思議なほど綺麗だった。


 「痛いなあ……。」


 不意にラリーの喉から低い笑いと共にそんな言葉が盛れた。


「だから人間はキライなんだよ。最近はお気に入りのキルアやリリーと一緒にいたから忘れてた。」


 ラリーはそう言うと身体に刺さった剣と共にカイの手を掴んだ。


「俺が何もしていないと思ったの?もう君は逃げられないよ。」


 じっと俯いていたラリーが彼を見つめてニヤリと笑う。

あたりを見回すといつの間にかラリーを中心に半球の薄い透明な膜が見える張られていた。その端はコリーがいる。


「また逃げられたら困るからね。今度は意識も残らないレベルで消滅させてあげる。」


 ラリーの冷たい声音にリリーまでもがぞっとした。


「お、おい。リリーはどうすんだ?お気に入りなんだろ?俺に何かしたら殺すぞ!」


 カイはラリーの手を振り払って力任せに彼の腹部から剣を引き抜いた。

そしてリリーの首筋にそれをギリギリの距離まで押し当てる。一滴の血もついていない剣が目の前でキラリと光った。


「ごめんね、リリー。ちょっと痛いけど後で治してあげるから許して。即死しなければ大丈夫だから……だから死なないでね。」


 両手を前で合わせてラリーが可愛良しぐさでリリーに謝る。しかし目はぜんぜん笑っていないし、彼から立ち上る気配はリリーでもわかる位に殺気立っていた。


「痛いのは一瞬だからね、リリー。」


 完全に殺る気モードのラリー。


「ねえ、早くその娘の首筋の剣を動かしなよ?確実に殺さないと直ぐに俺が治すよ。そしたら君は人質を失う。そして俺の怒りを更に煽るんだ。」


 ゴクリ。


 リリーの耳元でカイの喉元から音がした。


 向かい合った神獣の『少々』常軌を逸した殺気に彼の本気を感じたのか徐々にリリーの首元から剣が離れていく。


 しかしそんな程度でラリーが彼を許す筈もなく……。


「もしかして怖気づいてるの?俺に喧嘩売っておいて今更だよね……ほら覚悟決めなよ。」


 既にリリーの首筋からは完全に剣は姿を消していた。そっと肩からまわされたカイの腕がなんとも弱々しい。


 それでも追及の手を弱めずさっさしろと彼を追い詰めるラリー。既に形勢は完全に逆転していた。


「ラリー?話し合いで収まるならそれが一番平和なんですけど……。コリーもそこでニヤニヤしてないで何とかして貰えませんか?」


ほぼカイの腕から解放されたリリーが恐る恐る進言する


「悪いな、お嬢ちゃん。キレたアイツはワシでも止められない。」

「いや……いくら何でも首を切られるとか一回死ぬとか痛いのは絶対嫌だし、うっかりそのまま死んだらどうするんですか!」


「ああ、それはキルアが悲しむからダメ。リリーそこは君が頑張って貰うしかないよ。」


 なんとも話が通じない。


「何を言っているんです二人とも。いくら神獣様でも私のリリーを傷つけたら許しませんよ?」


そこへ割り込んできた愛しい声にリリーは慌てて振り向く。


「キルア様。」


 そこにはエリーと共にキルアがいた。

 彼は国王の天幕にいるはずなのに何故?


「ここに来ようとしているキルアちゃんと近くでバッタリ会ったから一緒に来たんだけど、なに久しぶりにキレてんのよ?原因はそこのカイ…じゃなくて知らないやつね?」


 エリーは無俗さにリリー達に近づくとそのまま彼女の手を掴んでカイから引き離した。


「あ、おいっ。何するんだ……。」

あっという間にリリーを奪われカイは慌てる。


「ラリー。リリーは無事取り戻したわ。見苦しいからさっさと自分のそのお腹を直して頂戴。」

「はーい。」


ラリーは素直に己の傷口に手を当てる。まばゆい光が当たりを包み込んだ。


 エリーはそれを見届けるとリリーをそのままキルアに預け、カイから二人を守る位置に立った。


「で、そこのあんた。何したいわけ?私達とやり合うなんてどう考えても本気じゃないでしょ?」


 エリーはカイを睨みつける。


「………。ごめんなさい、やりすぎました。」


カイ、というか彼に乗り移った何かが突然頭を下げた。


「やっと、人語を話せる人間に憑依で来たんで……やりすぎた。」


「なにそれ……楽しくてはしゃぎすぎて俺の腹に剣を刺したの、馬鹿?」


 ラリーの声音には既に怒りのそれではなく呆れの色が宿っていた。


「もともと、自分が嫌っているのはこの国の王族だけだから……他に危害を加えるつもりはないんだ。先程までは取り憑いた魔物の奴の力が強すぎて自分でも制御できなくなった。」


解放して貰えて助かった。

カイに取り憑いた霊が素直にお礼を言う。


「じゃあ、もう何もしないのね。カイの身体からも早く出て行って欲しいんだけど……。」


 リリーが尋ねた。


 すると今まで大人しかったカイが殺気を込めた瞳でリリーを見つめた。正確にはリリーと一緒にいるキルアを。


「ああ、この国の王を殺したらこの身体を返すよ。だから、まずはそこにいる王族から殺そうか。」


 リリーを抱きしめるキルアの手がピクリと動いた。


「キルア様?」

「私は公爵です。王の臣下です。王族ではありませんよ?」


 キルアは真顔で応えた。

 不思議そうに彼を見つめるリリー。


「騙そうとしても無駄だ。この国の王族の血が入っているのが俺にはわかる。俺を嵌めた弟の子孫だ。そうだろ?」




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