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36/46

35.戦闘開始です

いつもお読みいただきありがとうございます。



 森から次々と動物と魔物が出て来る。


 動物たちは広い場所へ出ると各々散り散りになり、魔物たちはある程度の集団となって人間のいる天幕に向かっていた。彼らの声が複数重なってリリーの耳に聞こえてくる。


《王家なんて滅びてしまえ……》

《怖い……やだ、人間、逃げて……》


 その中の一つが明らかに方向を変え、来賓の天幕へと向かう。

 その集団を指さしてリリーが叫ぶ。


「カイ、あそこの子たちは手遅れ。お願い!」

「分かった。」

「あそこの子たちはまだ何とかなりそうね、私が行くわ。ラリーしっかりとリリーを守るのよ。」


 ゆらりと神獣の気配を強くして彼が走っていくのをリリーはじっと見送る。そして自分はカイと共に呪いに侵されておかしくなった魔物たちのもとへと急ぐ。そこは耳を覆いたくなる程の苦しい叫びで埋め尽くされていた。


《嘘つき》

《殺してやる》

《信じていたのに》

《キライ》


 別れ際にキルアが少し教えてくれたのだが森の奥に眠っていたのはアリステッドという昔の王様で唯一の身内である弟に騙された。

 敵国との売国の取引の噂を流され、それが元で国民の支持もなくなり一部の味方しかいない王では仕方がないと悟り最後は自殺。のちに名誉は回復されたのだが既に埋葬されたとの為、彼だけは王家のそれでなく森の奥にひっそりと墓があるのだという。


「おい、リリーここの奴ら全部か?」

 カイが自身に襲い掛かってくる魔物を剣で切り捨てる。

「うん。残念だけど助けられそうな子はいない。」

 そう言っているリリーの元にも魔物が襲い掛かってくるがそれらはラリーによって一瞬で灰になった。先程の天幕の時のようにバリアで弾くのではない対応に一瞬リリーは目を見張る。


「リリーは俺が守っているから。カイ、あんたは好きなだけ暴れていいよ。」

キルアに宣言したように彼はリリーに近づく何者からも彼女を守るつもりらしい。また此方に襲い掛かってこようとする魔物に向かってラリーがニヤリと笑った。




「あんたたち、少し落ち着きなさい。怖くないから」


 エリーは魔物たちの集団に軽く衝撃波を当てながら説得をしていた。呪いの瘴気に充てられて混乱している彼らは人間の姿をしているエリーの事が神獣とは分からないらしく攻撃態勢を崩そうとしない。


 神獣の姿を見せれば分かりやすいかもしれないが大勢の人間に人型の姿を見せている今の状態で本来の姿の戻るわけにはいかなかった。どうしたものかと考え込んでいるとしびれを切らした魔物が飛び掛かってきた。

 

 とっさに相手に向かって炎を出してしまい慌てる。そして、一瞬火だるまになった魔物が距離をとって再び起き上がるのを見てホッと胸を撫で下ろした。


「ああ、まどろっこしい。私も説得じゃなくて殲滅組にすればよかった。」


 じりじりと魔物の群れがエリーにせまる。

 先程の威嚇の後でも彼らの戦意失われていなかった。


 乱れた前髪を片手でかき上げてエリーは魔物たちをじっと睨む。


「おまえら、誰に向かって襲い掛かろうとしているか解ってるんだろうな?さっさと正気にならないと優しい俺も流石にキレるぞ。」


彼はリリーの前では見せたこともない禍々しいオーラを放って静かに宣言した。




◆◆◆


「ここは危険です。取りあえず騎士がいる王の天幕まで行きましょう。」


 リリー達が行ってしまってから数匹の魔物が襲い掛かってきた。キルアとクラウが危なげなく対処したがそれも数匹だからできたことだ。幸い王の天幕はここから近い。魔物は王族に向かってくる自国、他国関係なしだ。


 それなら人数がいた方がよい。


「アンネ様、ジュリア。準備してください。」

「……腰が抜けてしまって立てません。」


 キルアに言われて直ぐに支度を始めたジュリアとは対照的にアンネ公女が弱々しく呟いた。無理もない。大切に何不自由なく城で育っていた公女なのだ間近で見る魔物もはじめでのことだっただろう。


「仕方ありません。私が抱きかかえて……」

「アンネ様、失礼します。」

「クラウ!」


 アンネのもとへ一歩足を向けたキルアより先にクラウが彼女を抱き上げた。驚く公女をそのままに彼はスタスタと歩き出す。ジュリアとキルアは慌てて彼らの後を追った。




◆◆◆


「そろそろ終わりかな?」


 カイが魔物と戦い始めてかなりの魔物の数が減った。気が付くと彼はリリーと離れて森の入口まで来ていた。森から湧いてきていた魔物もひと段落ついたようでこれなら大事にならなくてすみそうだ。カイはいったん剣をさやに戻して近くの石に腰かけた。


「カイ、ダメ。今から凄いのが来る!そこからにげて!」

「え?」


 遠くからリリーが叫んでいる。


 カイは突然の事に反応できず森をじっと見つめた。


 そこからは剣士のカイでも感じる事が出来る程の黒い呪いの気配が近づいてくる。

 直ぐに立ち上がろうとして足が震えている事に気が付いた。


 魔王とも対峙した自分が、怯えている?そんなことはあり得ない。


 だいたい、今から来る魔物を倒せるのは俺しかいないはずだ。

 自分が逃げてどうする?

 カイは自分を奮い立たせて立ち上がると剣を構えた。

 遠くでリリーが何かを叫んでいるが良く聞こえない。



「おい、勇気と無謀を間違えるな。」


 不意に背後から声を掛けられカイが振り向く。

 そこには大柄な紳士が不敵な笑みをたたえて立っていた。

ちょっと慌てて書いたので誤字多いかも。

すいません。

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