30.パレード当日(前)
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目が覚めたら知らない部屋だった。
リリーは少し考えてそう言えは昨日ジュリアに誘われて屋敷に泊まったことを思いだした。
今日は国王様の生誕パレードの日。
街のメイン通りを馬車でパレードで縦断したのち郊外の原野で騎馬の祝賀競技がある。毎年最後にサプライズ演出があるらしくその為だけに集まる国民も多いとか。
キルアも公女様の付添いで参加しているのだろうか?会えなかったとしても後日二人で行事の思い出話をするのも楽しいだろう。昨日帰ってきてジュリアに内容を教えてもらってからリリーはイベントを楽しみにワクワクしていた。
「お嬢様、起きていらっしゃるのでしたらお支度をお手伝いします。」
ノックと共にドアの外からメイドの控えな声がする。リリーは慌てて答えて少しだけ寝癖を整えた。
「昨日、リリーには言っていなかったんだけど、今日マタドール公爵が三年ぶりに騎馬に乗るんですよ。」
支度を整えて馬車に乗り込んだ二人は臨時で用意されている馬車の降車場で待ち合わせてたカイと合流した。
基本的には国民への祝賀イベントなので貴族と言えども近くでパレードを見るためには馬車からの観覧は禁止となっている。
それを嫌う貴族は遠目に馬車から観覧をするしかなく、またジュリアのようにお忍び感覚を楽しむ貴族も多いので先程の様な少し離れたところに臨時の降車場が作られている。そこからは徒歩となるが限定の出店も出ていて厭きることは全くなかった。
「最近はカイがずっとジュリアのお供をしているのね。」
昨日のパーティーでも護衛兼パートナー役をしていた。剣士とはいえ元々美しい見た目のカイなのでそれなりの衣装を着てジュリアの隣にいると全く違和感がなく溶け込んでいた。
「初仕事で、お嬢さんの依頼を受けたら親父さんにも気に入られちゃってな。冒険者の用事を優先でいいからそれ以外の時間がある時はなるべ来てくれって頼まれてるんだよ。」
確かに美しいジュリアの隣にいて違和感のない容姿に加えて護衛の腕に関しては疑う由もないカイである。彼の価値を宰相はきっと一目で見ぬいたのだろう。
「まあ、ジュリアお嬢さんなら付き合っていても面白いからな。暫くはこの街にいるつもりだし。」
「え、カイ、いつかいなくなるの?」
無造作に頭の上に乗せれれた彼の手を嫌がりもせずジュリアが驚いてカイを見上げた。
冒険者が街を移動するのは良くある話だのだが貴族のご令嬢からしたら違和感のある内容だったようだ。寧ろ彼女に尋ねられたカイの方が驚いているようだった。
「ジュリア、すぐにいなくなるわけじゃありませんよ。大体カイも行く当てなんかないでしょ?何ならここに住みつけばいいのに。割とお薦めよ。」
「ま、まあそれも一案だな。考えとく。」
カイはジュリアから手を離すと、少し用事と言ってそのまま近くの路地へと入っていった。
「お嬢さん方、こちらの果実の飲み物如何ですか?生誕祭のお祝いに配ってるんですよ。」
近くの店の名前の入ったエプロンをつけた年若い男性がコップに入ったオレンジ色の飲み物を差し出してきた。
リリーはジュリアと二人顔を見合わせる。
基本路上での飲食は禁止だと、店内で護衛のカイ同伴で食べるならまだ良いが、出店などは絶対ダメ。出かける際に屋敷の執事に厳重に注意された。
出店、というか既存店が配っているものでもうすぐカイも戻ってくる。
そして、目の前にはおいしそうの飲み物。
二人は頷き合って店員から受け取ろうと手を伸ばした。
「待った。」
「やめなさい。」
いきなりかけられた男性の二つの声にリリー達の手がピタッと止まる。
振り向くと急いで走ってきたのか粗く息を整えているカイがジュリアのもう片方の手を握っていた。
「痛っ」
今度は店員の声がしたので見てみるとそこには少し怖い顔をしたエリーがいる。男の腕を掴んで飲み物の入ったコップの乗ったトレイ取り上げている。
「あんた、この子達に何飲ませようとしてんのよ?」
取り上げたコップの中身を一つを除いてすべて地面にこぼして、残った一つを店員の前に突きつける。
「ただのジュースならアンタ飲みなさい。」
男の喉からゴクリと音がする。彼はじっとコップを見つめている。
「飲めないでしょ?雇い主、教えなさい。」
エリーがため息をついた一瞬、男はエリーの手を振り払って走り出した。慌てて追いかけようとしたカイとエリーだったが既に相手は人混みの中。
「ったく、あんたも使えないわね。」
「お前もな。」
カイとエリーは二人そろって大きくため息をついた。
カイは先程路地にこちらを監視するように見つめる男を見つけて捕えようとしたらしい。近寄ると路地の奥に逃げ込んだので捕まえて何をしていたのか問いただしていたら自分は護衛を引き離す役だと言われ慌てて引き返してきたとの事だった。
そして間一髪で間に合って、今。
「あんた、こないだ森にいた剣士よね?護衛ならちゃんと仕事しなさいよ。」
「そっちこそあんときの魔法使いだな?リリーの護衛でもしてんのか?ってか、おエネかよ。」
「失礼ねえ、アンタ。そんなんだからリリーに相手にされな……」
「ああ?」
「カイ、エリーそろそろ、やめて?」
まだまだ続きそうな二人のやり取りをリリーはニコリと笑って止めた。
「さっきの男達、あっちでまとめて二人とも殺されてたよ。」
黙り込んだ二人をどうしたものかと考えていると聞いたことのある声が聞こえて、またかと思いながら振り返る。
予想通りラリーが立っていた。
「使えない二人の代わりに俺が後を追ったんだけど。」
二人に軽く睨まれる。
「見つけた時には路地裏でヤバそうな相手に刺されてた。で、そいつは逃げた。」
ラリーは責任を感じているのが少しばつが悪そうな顔をした。
「結局逃げられたんじゃない。」
「仕方ないだろ、まだ息があったら蘇生できたかもしれないからそっち優先したんだ。間に合わなかったけど。」
さすが神獣、そういう事もできるわけか。リリーは感心しながら二人が自分のために駆けつけてくれた事に感謝する。
「二人とも、ありがとう。わざわざ来てくれて。」
「ん、留守番も飽きたからね。リリーとお祭り見物したかっただけだよ。」
「そうそう。」
「良く分からないけどリリーの知り合いなら大丈夫ね。一緒に行きましょう。」
ジュリアはそう言ってカイと連れ立って先に歩き始める。リリーもエリーとラリーに連れられて後を追うのだった。
長くなりそうなので
まずはここまで。




