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3.薬草採取とダグラス

お読みいただき感謝です。


「おはようございます、サラさん。折角紹介していただいた《期待の新人》でしたが昨日の依頼失敗です。」


昨日は遅い時間と言う事もあり報告は明日にしてそのまま宿に帰ってきてしまった。


その為、リリーは朝になってからギルドを訪れていた。

既に公爵から連絡は入っているだろうからギルド側もわかってはいるのだろうが、自分が気まずいからと言って報告せずにいたらどんどんギルドに行きづらくなってしまう。こういうことは後々の事を考えたら早めに済ませてしまったほうが良いのだ。


「おはよう、リリーさん。あれ?依頼達成してますよ。報酬もなんとボーナスが付いて二倍の金貨十枚!おめでとうございます。それとお手紙も届いてます。」


サラはニッコリと微笑んで一枚の封書をリリーに手渡した。封筒にうっすらとマタドール公爵家の紋章が印字されている。封はされていないようなので重要書類ではないようだ。


リリーはそのまま中身を確かめる。


『リリー・マイヤー様/昨日は、貴重なご意見をいただき感謝しております。ありがとうござました。今後も機会を作りお付き合いして頂きたく、次回お会い出来る時を楽しみにしております。/キルア』



何か間違っている気がする。リリーはそっと手紙を封筒に戻した。


昨日リリーがしたことと言えば、食事の後、目上の神のような存在に啖呵を切り、ドレスを脱ぎ捨て、用意された馬車を断り二時間ほどかけて歩いて帰ってきた《だけ》のはず。ボーナスを貰う謂れもなければ、こんな丁寧な御礼状も届くはずがない。


「あの、サラさん。この手紙に『次回お会い出来る時を楽しみにしております』って書かれているんですが指名依頼でも来ているんですか?」


「わあ、そんなこと書かれてたんですか。気に入られましたね。指名は来てないですよ、その書き方は恐らく次に掲示板で自分の依頼を見つけたら是非受けてくださいって感じですね。指名ほどは重くないお願いレベルです。あと、今回の報酬については先方から返品不可ってコメントが入っています。報酬を返品するはずないのに可笑しなこと書いてきてますね。」


過分な報酬は身に余るので半金を返品しようとしていたのに先を越された。まあ、お金は必要だし後日何かの形で屋敷に返しておこう。



「じゃあ、無理に依頼を受けなくても良いってことですね、安心しました。昨日の依頼は身分違い過ぎてハラハラしたのでもう今後は少し軽いお仕事にしようと思っていたんです。」

「そうですか、なんとなく初回大金星だからこのままいけるかと思ったのですが……」

「はい?」

「あ、なんでもないです。報酬は個人口座に入っていますので、ギルドカードを持ってきていただければいつでも引き出し可能です。今は貯めておいていいですか?」


まだ手持ちに余裕があるリリーはそのまま口座に入れておいて貰うようにお願いした。

そして、先程掲示板で気になっていた依頼について聞いてみることにする。


「この、《薬草採取助手、八時間 銀貨一枚》なんですけど、採取だけじゃないってことですか?」

「ああ、ダグラスさんの依頼ね、彼、薬師で腕もいいのよ。薬草採りに同行した後に少し試薬の作成に協力して貰いたいとの事だったわ。ちなみの危険はないと保証付きです。年齢も近いから『そっち』もおすすめよ。」


依頼書のファイルの中から該当するものを見つけてサラが説明してくれた。そこには簡単なプロフィールと顔写真も入っている。それなりに男前な顔立ちの青年だ。


「サラさん…私、恋人募集していないんです。」

「残念。リリーちゃん年頃で可愛いのに。で、受けてみる?それなら連絡するけど?恋人募集云々については気にしなくてもいいわよ。あくまでもお仕事として考えて。」

「じゃあお願いします。割と薬の知識あるので得意なんです、薬草採取。」

「了解。じゃあ後で連絡するわね。」


サラは早速ダグラスに連絡を取るためにカウンターの奥へと入っていった。



リリーは時間が空いたので町の中を散策することにした。


昨日マタドール公爵のお屋敷から夕方に帰ってくる途中にまだ開いている店をチラリと見ることはできたがやはり朝の活気のある町は印象が全く違う。見たこともないものが立ち並ぶ露店を見るだけでも楽しかった。


前回この街に来た時は旅の中継として二日ほど宿に滞在しただけだったので観光はおろか買い物すらほとんどした記憶がない。そう、当時パーティメンバーのアイテムの確認管理などでリリーだけ宿に籠りっきりになるのが日常だった。


今思えば、広い世界が見たくていろいろ考えていた時に、幼馴染のエリクに誘われ、そのまま共に旅に出たが結果は訪れた街を見ることもなく日々宿に籠る生活しかしていなかった。本当に自分は何をしていたんだろう。突然放り出されたことは今でも悲しい記憶だが実際こうなってみると冒険から解放されたのはリリーにとって良かったのかもしれない。まあ、だからと言って放り出されて良かったわけでは断じてないが。


身の回りの物を少し買い足して宿に帰ると、ギルドからの手紙が届いていた。

ダグラスと連絡が取れたらしく、明日早朝にギルドに来てほしいと書いてある。依頼受注はリリーでほぼ確定の様でその場で顔合わせと契約をして、そのまま薬草採取に出発するようだ。


リリーは明日のために早めに眠ることにした。


ダグラスの依頼はリリーにとって大変有意義なものだった。

冒険者として同行していた時に身に着けた薬草の知識が見事に役に立ってくれ、ダグラスが想定していた倍の薬草を採取できたと喜んでいた。研究室に戻ってからもいろいろな手伝いをしたがどれも楽しくて時間が過ぎるのがあっという間だった。


「今日は本当にありがとうございました。遅刻したときにはどうしようかと思いましたがキャンセルしないでよかった。仕事がこんなに捗ったのはいつ振りだろう。」

ダグラスは売店で買ったコーヒーをリリーに差し出しながらポリポリと頭をかいた。


「こちらこそ。朝お会いしたときは写真の方とあまりにも違って別人かと思いましたが、

かえって緊張せずに一日楽しく過ごせました。」


早朝にギルドで待ち合わせをしたはずが時間になってもダグラスが現れず、サラと二人諦めかけていたところにボサボサの髪の毛、しわくちゃの服で駆け込んできたのが昨夜遅くまで仕事をしたまま寝坊したダグラスであった。


「あの、今度はもう少しましな格好でお会いできると思うので……週末にでも食事なんかいかがですか?」


ほんのり顔を赤らめて言う彼を見てリリーの方が恥ずかしくなってしまう。


「すいません。今はそういう気分じゃないので。あ、依頼なら是非お受けしますよ!」

「こちらこそ、こういうの慣れていなくてスマートに誘えなくて申し訳ない!じゃ、じゃあ今度は指名します。」

お互いぎこちなく言い交わして、一瞬見つめ合うと何方からともなくクスクスと笑い出した。


「お見合いギルドなんって言われているからもっとグイグイ来られたらどうしようかと思ってましたけど、相手がダグラスさんでよかったです。ぜひまたご一緒させてください。」

「僕もです。迫られるの苦手で……あ、こんな姿じゃ誰も迫ってきませんよね。本当に近いうちに指名しますね。」

二人は笑顔で言い交わすと帰路に就いた。


まだ日暮れには時間があるので宿に帰る前にリリーはギルドに寄って明日の依頼の下見をすることにした。掲示板をのぞいてみるとまたマタドール公爵の紋章入りの依頼書が張り出されていた。


《犬の散歩相手募集  金貨一枚  5P》


犬の散歩に金貨一枚って相変わらず価格設定がおかしい。

なんとなく今は公爵と顔を合わせづらいのでリリーは少し悩んで諦めた。サラはそのままカウンターにいたサラに声をかけた。


「今日は早朝からありがとうございました。無事依頼も終わって報酬もその場でもらいました。なんとかこの仕事続けられそうです。」


前回は公爵家からギルドを通して報酬が支払われたが今回ダグラスはその場で報酬を渡してきた。


「そう、おめでとう。ポイントはカードに加算されるから大丈夫よ。」

「それで、そろそろこの近くに家を借りようかと思うんですがどこか紹介していただけませんか?それにギルドの既定の《自分から依頼を出す》っていうのもやりたいので宿に住み続けるのはもったいなくて。」

格安とはいえ毎日宿に泊まっていてはそのうち自分で出す依頼の報酬を支払う余裕がなくなってしまう。


「じゃあ、ギルドが職員用に家を所有しているからその一つに住んだら?時々軽い依頼を受けてもらう事にはなるけど会員なら家賃も格安よ。今から見学するなら丁度私も時間があるので話をつけてあげる。」

「ありがとうございます!なんだか、サラさんにはお世話になりっぱなしです。」

「いえいえ、期待の新人ですから。お世話させていただきますよ。」


サラは笑って自分のカウンターに受付終了の札を下げた。

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