28.祝賀会に出席します。
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リリーと一緒にいたいと駄々をこねまくったキルアが城へ行ってしまってから七日経ち、国王の誕生祝賀を祝うためアンネ・ミラ・カマエル公女がようやく来訪した。
そしてリリー宛に何故か届いた祝賀会の招待状は差出人が国王自身という大変断りづらい物。どうしたものかと困惑していたらジュリアの家から使いの者が来た。
事態を察した宰相が当日はジュリアと共においでと言ってくれたのでとても助かった。いつもならキルアから何か言ってきそうなものだがあれから一度も連絡がない。きっと忙しいのだろう。
突然の招待状に困惑を隠せないリリーだったが、パーティー当日少しでも彼に会えたら良いなと思いながら徐々に増えていった豪華なドレスの中から当日着る物を選ぶ為に衣裳部屋へとゆっくり歩き出した。
当日、約束の時間ギリギリにジュリアが迎えに来た。彼女の隣には護衛役のカイが正装で付き添っていた。
「ジュリアわざわざ迎えに来てくれてありがとう……」
「ほら、早く乗って。時間がないの。」
リリーが挨拶を終える間もなく、押し込まれるように促されて彼女が乗り込んだのを見届けると馬車はすぐに動き出した。
城に着くと宰相のハインツが停車場で待っていた。ジュリア共に挨拶をしてそのまま王様のもとへと案内される。王の間に入ったとたん、ここ数日会いたかった人物が驚いた顔をしてこちらを見ていた。
「リリー、こんな所に来てどうしたんですか?」
「『こんな所』とは失礼だな。取りあえずこの城の中ではそれなりに、ここは重要な場所なのだが。」
茶化す国王を一瞥してキルアがリリーに近寄りそっと抱きしめる。
「会いたかったです。」
「キルア様、恥ずかしいです。」
クスクス笑いをかみしめる国王、顔を背けるジュリア、突然の事に戸惑いながら真っ赤な顔をするリリー、それを全く気にしないでリリーの肩に顔をうずめるキルア。そしてその光景を生暖かい視線で見守る周囲の目。なんとも言えない和やかな空気があたりを包む。
「そろそろ公爵の我慢が出来なくなる頃かと思って、丁度良いから呼んだんだよ。」
キルアの両腕から解放されてようやく王様に挨拶したリリーを改めて抱きしめて離さないキルアに国王は得意げにそう言った。
「城の侍女たちがマタドール公爵の顔が日に日に無表情になっていくと噂していたからな。いつも笑顔を絶やさない麗しの公爵としてはダメだろ?」
「そんな事ありませんけど……まあ少しリリーに会いたかったです。」
子供のように不貞腐れるキルアを見てリリーはクスリと笑う。
寂しかったのは自分だけではなかったようだ。
何の連絡もなく放っておかれた気分だったリリーはキルアも同じ気持ちだったことに安堵する。暫くしてキルアの手が名残惜しそうにリリーから離れた。
「この後はパーティーでアンネ公女の同伴があるので、私はそろそろ行かないと。リリー、会場ではくれぐれも変な人にはついて行かないで。」
そう言ったキルアの視線の先には王様が。
リリーが戸惑いながらゆっくり頷くのを確認してキルアは部屋を出て行った。
「私は変な人ではないよ?」
「……存じています。国王様。」
王様にニッコリ微笑まれて、リリーは神妙に頷いた。
国王が中央の玉座に座り祝賀の宴が始まった。
国賓であるアンネ・ミラ・カマエル公女には玉座の近くに席が用意され、その後ろにはマタドール公爵がついている。王が参加者にお礼を述べている最中に、二人が時折和やかに話している姿を遠目に見つめながらリリーは帰りたい気持ちでいっぱいになった。この後のダンスまではいるようにと言われているがリリーは同伴者を伴っての参加ではないのでいなくなったところで支障はない。いっそ帰ってしまおうかとそんな考えが頭をよぎる。
自分はこんなに嫉妬深かったのだろうか?直前までそんなことを気にしたこともなかったのだが目の前にいる公女とキルアを見ていたくなかった。このままでは涙が出てきそうだ。
国王の挨拶が終わり軽やかなバイオリンの音が流れ始めた。王と王妃が立ち上がりダンスを始める。
初めは主賓の二人のみ。
流石の貫禄だった。
照明を反射させてキラキラと輝く美しい衣装も見ごたえがあり、軽やかにくるくると回る二人から目が離せない。あっという間に一曲が終わった。
思わす一斉に拍手が上がる。
王は王妃に一礼をするとそっとその場を離れ公女の前へ。そして彼女の手を取るとそのまま中央へと誘う。驚き顔だった公女もそこまでされたらそのまま流れに身を任せているようだ。
「リリー嬢、一曲お願いできませんか?」
自分を呼ぶ声に振り向くといつの間にかキルアが立っていた。
「王が公女を引き取ってくれました。」
そう冗談めかしてキルアはリリーをダンスに誘うため手を差し出す。
「やはりリリーのファーストダンスは誰にも渡せません。そろそろ始まりますから行きますよ。」
キルアのリードに任せてリリーは軽くステップを踏む。さっきまでの嫌な気分が嘘のように晴れていく。自然と顔も笑顔になるのが分かった。これならもう少しこの場にいても良いかもしれない。ゆっくりになった曲に合わせてキルアに寄りかかりながらリリーがそう思い始めていると目の前のキルアの顔が何やら複雑な表情になっているのに気か付いた。
「リリーこの一曲終わったら帰ってください。」
「はい?」
突然言われて驚いた。
自分は何かおかしなことをしてしまったのだろうか?
「貴方が可愛すぎます。私から離れたら悪い虫がつきかねない。」
「そんな、考え過ぎです……。」
耳元でキルアにそう熱く囁かれてリリーは頬をほんのり赤く染めた。
そろそろ神獣出したいけど
困った出番がない(笑)
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