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22.冒険者ギルド(後)

いつもお読みいただき

ありがとうございます。

後編です。

まだの方は前編からお読みください。

森の入口。


 待ち合わせ場所で待っていたのは昨日ギルドで会ったオラン。そして、もう一人はリリーのよく知る人物だった。先日の夜会で遠目に彼を見たがなぜここにいるのだろう。


 「カイ、久しぶりね。」

 「ああ、リリー久しぶり。今日はよろしく頼む。」

 「今日の剣士ってアンタなの?」

 「たまには身体動かしたいからね、今日は任せろよっ。」


 アランの隣に立つカイを見てどうしてその可能性に気が付かなかったのか、リリーは呆然と相手を見つめた。大きく目を見開いたままのリリーとそれを見て心底愉快に笑うカイ。なんとも言えない空気があたりに漂った。 


「二人は知り合いなんだね。カイが昨日いきなり立候補してくれてたから不思議に思っていたんだけど、見知った者同士なら丁度いいね。今日はお互いよろしく。あはは。」


 事情を全く知らないオランは、あたりに漂う空気を無視して討伐を進めるだけに集中しようと心に決めた。

 森に入ると既に野鳥の巣らしきものがいくつもあった。

 野鳥と言っているが小型の魔物の分類になる。年中巣を作るのではなく産卵の時期にだけ巣作りをして雛が成長するまでを番で過ごすのだ。一回の産卵で複数生まれることがほとんどなので放っておいたら森だけでは食料が調達できずに近隣の町に出没して被害が出る。その為の討伐措置。だから全滅を目的とはしていない。


 取りあえず森の入口から近いところから減らしていき、彼らが嫌う大型獣の匂いのエキスをあたりに振りまく。オランは連れてきたバルンナという大きな魔鳥を使ってあたりの巣を散らしていく。落ちた巣は新たな巣材になる為なるべく集めて燃やすようにした。


 カイは周囲の魔物が寄ってくるたびに蹴散らして仕える素材は解体しているようだ。


 初めこそ彼に何かされるのではと警戒していたリリーだが、思った以上に円滑に作業が進んでいくので自分ばかり意識しても仕方がないと途中からは気にすることをやめた。


 森の半分ぐらいまで来たところで丁度昼食が取れそうな大きな空き地が出てきたので三人は食事をとることにした。折角なので屋敷の厨房で食材を借りて三人分のサンドイッチを用意してきたリリーはそれを収納から出して広げた。


 「今朝作ったものですが、良かったら食べてください。」


 サンドイッチと湯気が立つスープを人数分カップに入れて並べる。


 「リリーの手作りか。懐かしいなあ。」

 「美味しそうですね、いただきます。」


 カイが何の躊躇もなく口に入れたのを確認して流石に手作りに躊躇していたオランも手を出してくれた。


 「美味しいですね。討伐の依頼なんてそこら辺の魔物の肉を焼くくらいしか考えいませんでした。」

 穏やかな顔立ちのオランも食に対しての認識はそこら辺の冒険者と変わらないようだ。

 

 「だろ?リリーが作ってくれる食事に比べたらそこら辺の魔物の肉なんて考えられねえよ。ウチのパーティはこれで育ったようなもんだ。」

 「え、リリーさん……カイさんのパーティにいたんですか?それって勇者の?」

 オランが探る様にリリーを見た。


「以前ね。でも戦えないからクビになっちゃった。」


 隠しても仕方がないので正直に言った。

 正直もう少し何か思う事があるかと思ったのだが、こうやって口に出してみても別に何の感情もわかなかった。今はキルアとの生活を楽しんでいるし先日のエリクを見てすっぱり割り切れたのも大きいかもしれない。


「何スッキリした顔してんだよ。こっちはまだ終わってないんですけど。」


 何やら含みのある声が頭上から降ってきた見上げると少し怒ったような顔のカイいた。


 「こないだエリクを振ったんだってな。アイツはまあ、自業自得だけど俺はいきなり消えたお前をまだ忘れてないぜ。」

 「え?どー言う事?」

 

 ピーピーピー


「助けてくれ!」

「逃げろ!」 


 リリーが聞き返そうとした時森の奥から低レベルでは倒せない魔物の発生を報せる笛と共に助けを求める人の叫び声が聞こえた。

 カイが傍らに置いていた剣を握り締めて走り出す。


「お前ら、ヤバいから逃げろ。」


オランは荷物をまとめると近くを飛んでいた自分の魔鳥を呼び寄せた。


「僕はギルドに増援を頼んできます。少し急ぎますのでリリーさんとは別行動になりますが大丈夫でしょうか?」

「はい、帰るだけなら自分一人でも大丈夫ですので……オランさんこそお気をつけて。」

「もし迷う様ならその場に隠れていてください。後で迎えに行きます。」


 リリーが頷くとオランは駆け足でその場から消えていった。


「さて、一人で帰るか、それとも進む?」

先程、聞こえた叫び声は


 『逃げろ』が人間の声

 『助けて』が魔物の声


 魔物は人を襲っているのだはなく、助けを求めていた。放っておけばカイなら駆けつけて魔物を倒すことは出来るだろう。


 普通ならそれで終わり。


 でも自分は魔物が助けて欲しいと言う事を聞いてしまった。 


《やっと一人になったから迎えに来たんだけど、リリー行くつもりなの?キルアちゃんはソワソワ落ち着かないし、なんとなく森から嫌な気配がするからもう強制お迎えかなと思ったんだけど、》


 気か付けば傍らに大きな白い犬、エリーがいた。


 「奥にいる魔物が助けてって言ってて。」


 《そうね、何かに怯えてるのかしら。コリーなら放っておけって言うけど、私はリリーがしたいならついて行くわよ。》


 「じゃあ行きたい。」


 リリーがそう言った直後、エリーは彼女を背中に乗せて走り出した。周辺の木々が後ろに流れている。走るスピードがとてつもなく速い。リリーは慌ててエリーのクビにしがみつく。


《思ったよりカイって子が早く着きそう。あの子やるわね》


 カイに討伐されるまえに何とかしなければ意味がない。二人は人間の通れない道を使って先回りをしているのだ。


『助けて、助けて』

声が大きくなる。

ガサっ

 茂みを突っ切るとそこにいたのは大きなグリスリ。体長は五メートルはあるだろうか全身白毛で覆われているクマの様な魔物だ。

 通常は黒い毛のはずなのだがこの個体は白い。二本の槍が背中に刺さっていて血を流しているのが痛々しい。

「エリーあの子は?」

 リリーの知っている魔物ではないのでエリーに聞いてみた。


《グリスリの変異ね。もう何年かしたら神獣化するかもしれない、でもこのままなら攻撃された恨みから魔物で定着しちゃう。》


 「あの槍、抜いてあげたい。」


 痛みで地面に臥せっているグリスリを見てリリーは恐ろしさよりも助けたい気持ちで一杯だった。丁度反対側の茂みからカイが顔を出し、リリーを見つけて驚いている。逃げろ、彼の口がそう言っていた。リリーは首を横に振ると近くにいたリスにメモを渡す。リスはまっすぐにカイへと走っていき彼に届けた。パーティでよっく使った連絡手段だ。


 カイは一瞬、ありえないと驚いた顔をしたがそのまま頷いてくれた。


 「カイが暫く攻撃を待ってくれるから私行ってくるね。」


 《私が近づくとあの子を刺激しちゃうからこれ以上はいっしょに行けないわよ?でもリリーが危なくなったら貴方を優先するからそのつもりで。》


 リリーはゆっくりと魔物に近づいていく。深手を負っているので大人してはいるが、リリー他近づくとじっと見つめてくる。少しでも手を出そうとすれば今でも襲い掛かってきそうだ。


 「貴方にこの声が聞こえればいいのだけれど、お願い。槍を抜かせて?」


 リリーが優しく声を掛けると、魔物の耳がピクリと動いた。


 『助けてくれる?槍、イタイ』


 話が通じているのか偶然なのかはわからないが、魔物は槍の刺さった背中を沿ってオリリーの方へと向けた。リリーはゆっくりとその槍に手をかける。ゆっくり抜こうとするが冒険者によって深く沈められたそれは想像以上に力が必要なようだ。何とか一本抜いたがそこから新たな血があふれ出してしまう。リリーは気休めにしかならないが持っていたタオルで傷口を覆い、もう一本も同じように抜いてあげた。新たな血が出るが止血するすべはない。これではこの子は助からない。


 『ありがと、槍なくなった』

 それでも少し楽になったのか、魔物の顔が優しくなった。


 「リリー頑張ったわね。ここまでしたら少し私の力をこの子の分けてあげられるわ。」


 人の方になったエリーが魔物の身体に触れる。

 すると槍の傷跡が消えた。

 

 「おい、終わったのか?」


 待機していたカイが近づいてきた。

 

 「ありがとう。もうこの子は大丈夫よ。」

 「無茶な事しやがって。大体そいつは何だよ?さっきのは回復魔法か?」

 「えっと……」

 

 カイの質問にリリーはどこまで話して良いのか分からず言葉を濁す。

 

 「内緒よ。」


 リリーこれなら一人で帰ってこれそうね。エリーは彼女のこっそり囁くとニコッと笑ってその場から消えた。



 暫くしてグリスリは起き上がるとそのまま森の最奥へと消えていった。


 カイが手を出さないか心配だったが暴れていない生き物に攻撃をする程自分は勤勉ではないと言って笑っていた。そして、到着した増援部隊と共に彼らはやっと帰宅の途についたのだった。

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