閑話:ラリーの怒りは怖かった
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ありがとうございます。
短いですが前回の付け足しです。
「ラリー、私の靴知らない?」
リリーはラリーに抱えられたまま子爵の屋敷を出たところ、自分が靴を片方しか履いていないことに気が付いた。
抱えあげられたときは確かに両方揃っていたはずなのだが。
「ああ、片方はアイツの所に置いてきた。」
ラリーは子爵の屋敷を顎で指示した。
「取りに行かなきゃ。」
「聞こえませーん」
バタバタと暴れるリリーを抱えてラリーはその場から消えた。
◆◆◆
女性の靴が片方だけ目の前にある。
勿論、先程までここにいたリリー・マイヤーの物だ。
奴らが出て行ったときは、こんなもの確かになかったはずなのに何故か今は目の前にある。
所詮男爵の娘と思っていたのに先程の付き添いの男はマタドール公爵の名前を口にしていた。彼の縁者という事なのだろうか?それとも愛人?
とんでもないものに手を出してしまった。
エマールは目の前の靴を見つめ深くため息をついた。さて、これをどう扱えばよいのだろう。
この靴を正直に返しに行くというのは悪手でしかない。場合に寄っては全てがバレて家ごと取りつぶされる。
では、返さないで放っておくというのはどうだろうか?いつまでも彼女に未練がある男と思われ、バレればやはりマタドール公爵の逆鱗に触れる可能性がある。
元々彼女を連れてきたのは父だ。ならば彼に返しに行って貰おうか?いや、マタドール公爵に睨まれたら父は全てを話してしまうに違いない。そうなったら本当に全てが終わる。
ギルド経由で返す?困った、上手い言い訳が見つからない。
ああ、いっそ捨ててしまいたい。
でも、誰かに拾われたら……
エマールは完全に積んだ。
数日後、リリーがギルドを尋ねるとサラに手招きされた。
エマールが返したいものがあるから出来る限り早くライと二人きりで会いたいという。加えて、リリーには大変申し訳なかったと、もう二度と会わないから許してほしいとの伝言も付け加えられていた。
爆笑するラリーを横目で見ながら、リリーは自業自得とはいえ少しだけエマールを不憫に思ったのだった。




