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2.初めての依頼。

お読みいただきありがとうございます。



「リリー・マイヤーさん 二十四歳 家は一代男爵家。期待の新人です。代わって依頼人はキルア・シャル・マタドール公爵 今年三十歳になられます。リリーさんは知らないかと思いますのでお伝えしますが我がギルド唯一のSSランク様です。」


早速公爵に連絡を入れてくれたサラと共にリリーは公爵の屋敷へと来ていた。

迎えに出てくれた初老の執事の案内で応接室に通され、ソファに座るように促されて暫く待っていると、ドアがノックされて公爵が現れた。


慌てて二人は立ち上がる。


SSランクとは在籍するだけでお給料が出るという奇跡のランクだ。

正直その時はかなりズルいランクだと思っていたが彼なら納得できる。

マタドール公爵は切れ長の双眸が印象的な青年で、肩に届くぐらいの長さの髪は少し青みのかかったブルーゴールド。それが緩やかにウエーブを描き彼の美しさを更に引き立てている。


そう、大人の男の色気がある。

昨日まで一緒にいたエリクもそこそこの整った顔立ちをしてどこの町でもそれなりにモテていたのだが公爵と比べれば所詮お子様の域だった。


その上、家事のスキルがSSで賢者?欠点が見当たらないとはこういう人物を言うのだろう。


「リリー・マイヤーさん、初めまして。キルアと言います。貴方の美しい金糸のような髪が風に揺れてまるで妖精のように美しい。」

「初めまして、マタドール公爵。リリーと申します。男性なのに美し過ぎてすごく緊張しています。」


貴族特有の挨拶だと分かっていても褒められたリリーのドキドキは止まらない。

確か《食事を共に》というのが依頼内容だったが彼と一緒にいたら何を食べるにしても緊張しすぎて味が分からないだろうし、絶対粗相をする自信がある。


むしろ依頼失敗になる前に自分から断ったほうが良いんじゃないだろうか?

あまり神々しさに挨拶をした後は俯いたまま公爵の足元しか見ていなかったのだが断るならしっかりと相手の顔を見たほうが良いだろう、リリーはゆっくりと顔を上げた。


「やっと私を見てくれましたね。」


彼はじっとリリーを観察していたらしく顔を上げたリリーと目が合うなりニッコリと微笑んだ。リリーは自分の顔が真っ赤になっていることを自覚する。


「あの、やっぱり……私ではご一緒するのは……」

「合格です。」

お断りします、と言いかけたリリーの唇は彼の人差し指によって動きを止められた。


彼のほんのり温かい体温が指から唇へ伝っていく。他人の体温をここまで間近に感じたのは初めてかもしれない。リリーは息をすることさえ忘れていた。


「さあ、依頼の話をしましょうか。」


いつの間にか彼の指が離れていた。我に返ったリリーは思い出したように空気を吸い込む。目の前にいる公爵がクスリと笑った。


「サラさん、依頼成立です。書類にサインしますから準備を。リリーさんも空気ばかり吸っていないで、そこに座ってお茶を飲みなさい。」


マタドール公爵が指示した応接セットには先ほどまでは置いていなかったティーカップがほんのり湯気をたてていた。いつの間に?リリーは不思議に思いながらも彼に促されてソファに座わる。


そしてマタドール公爵はなぜかリリーの隣に座った。


それを見て少し驚いた顔をしたサラだが、直ぐに元の職員の表情を作り書類を準備してテーブルを挟んで向かい側に腰を下ろす。


応接テーブルには大判の白い紙が二枚置かれた。


一枚はリリーも今朝見たマタドール公爵の依頼書だ。そしてもう一枚は細かく依頼内容の条件が書かれ、下部には契約の取り交わしのために署名する空欄が二つあった。ここに双方が署名をして契約となるのだろう。


「久しぶりに依頼成立となって安心しました。ではこちらにサインを。特別な依頼には特別なペンをご用意しました。」


サラが両手を広げるとそこに二本の金色に輝くペンが現れた。自分に差し出されたペンを手に取ると握る柄にLilly&Killuaの文字が浮かび上がった。隣のマタドール公爵のペンも同じように光っている。公爵も驚いているという事は今回初めての演出なのだろう。サラに視線を向けると自信ありげに公爵を見つめていた。


「いかがです?最近作ってみたんです。契約時にお互いの名前が浮き出るペンが出てくるなんてロマンチックでしょ?いい記念ですよね。」

「ああ、いい演出だね。で、これに何の意味があるのかな?」


文字が浮き出てきたペンを珍しそうに各方面から眺めながら公爵は全く興味がなさそうに尋ねた。

「そろそろ、カップル成立させろって上がうるさくて……。気分上がりませんか?」

「じゃあ、私以外の所で頑張りなさい。」

「はーい。」


彼女の渾身の企画は公爵に一蹴された。しかしサラもあまり気にしていないと言う事はマタドール公爵とはいつものこのようなやり取りをしているのかもしれない。


「じゃあ、ちゃっちゃとサインしてください。」

リリーとマタドール公爵はせっかくなので渡されたペンでサインをしたのだった。




◇◇◇◇◇◇


「あの……食事って、私が作るんじゃなかったんですか?こんな豪華なドレス汚しちゃいますよ!」

「食事はシェフが作ります。まずは着替えましょうね。」


契約が終わるとサラは書類を確認して帰っていった。


リリーはそのまま依頼を実行するために残ったのだが、何故か使用人のお姉様たちに別室に連れていかれドレスから靴、化粧に至るまで全て一式を整えられることとなった。

淡い緑色の布地に贅沢ににあしらったレースがひらひらと舞う。仕上げにとつけてもらったネックレスには大きな緑色の石が輝いていた。


若い執事に連れられて部屋を移動する。

大きな扉の前でマタドール公爵が待っていた。彼も黒いスーツに着替えていて胸にはリリーのドレスに合わせたように緑のチーフを入れている。


「可愛くしてもらったね、後で彼女たちにはご褒美をあげなくては。さあ食事をしよう。」

公爵にエスコートされ席に着くと音もなく給仕の男性が一皿目を置いて行った。


「何か嫌いなものはある?」

優しく尋ねられて慌てて首を振った。


「あの、これが依頼……ですか?」


リリーは初めこそ戸惑ってはいたが、目の前でにこにこしながら食べている公爵を見ると自分だけが騒ぐのは場違いと悟り、そこからは出てくる皿を丁寧に食していった。デザートまで終わる事には久しぶりに自分以外の人の作った美味しい料理を食べられてとても幸せな気持ちでいっぱいなった。


「美味しかったかい?出来れば感想を聞きたいな。」

マタドール公爵は食後の紅茶を飲みながらリリーに尋ねた。


「はい、とっても美味しかったです。特に鴨のグリルに柑橘系のソースが絶妙にマッチしていて、感動しました。」


本当においしくて、町のレストランなら確実にお代わりをしていたと思う。他の料理も一般的なレシピとは少し変えてあるのか見た目は見たことがあるはずのそれが口に入れると味わい豊かなものへと変化する。素晴らしい料理の数々だった。


「ありがとう。今日のレシピは私が考えたものだ。このように料理のレシピを作るのが楽しくて良く時間が空くと試作をして家の者に振舞っているのだが、皆美味しいと言う事しか言わないのでね。私の事を知らない誰かに食べて貰って感想が聞きたかったんだ。依頼を出して正解だったよ。お礼に今着ているものは君にプレゼントさせてくれ。」


公爵は少し寂しそうに笑った。


それは、雇い主の作った物を酷評するわけにはいかないだろうけど、これに関しては恐らくお世辞は含まれていないと思う。それを彼になんと説明したらよいのだろう。大体食事をするためだけにドレスまで用意されてこれでは報酬をもらうわけないは行かないではないか。


リリーは口元をそっとナプキンで拭うと対面に座っているマタドール公爵を見つめた。


「お言葉ですが、使用人の方は皆さん正直に感想をおっしゃったんだと思いますよ。寧ろせっかくの好意の感想を疑うなんて失礼です。それと、ドレスまでいただいたら提示された報酬を超えてしまいますので辞退させてくだい。」


彼の目が驚きに見開かれる。


身分の高い相手にかなり失礼な物言いだとは自覚しているがこれぐらい言わないときっと彼はこれからも使用人の言動を疑ってしまうだろう。それは同じ屋敷で暮らす主と使用人がお互い不幸なだけだ。


リリーは壁に控えていた給仕に視線を向けて立ち上がる仕草をすると直ぐに椅子がそっとひかれた。彼女はそのまま、まっすぐに立ち上がると公爵に向かってかつて男爵令嬢だった時を思い出しながら優雅にお辞儀をした。


「ご不快にさせてしまいました、申し訳ありません。依頼は失敗ですね。失礼します。」


リリーは堂々とその場を後にした。

すいません。

糖度が全くありませんが、しばらくお待ちくださいませ。

誤字報告、ありがとうございました。


別の小説もやってます。お暇なときにどうぞ

【出会ってすぐさま溺愛ってなに?~彼からの誘いは蜜より甘い恋の味~】

https://ncode.syosetu.com/n9804hm/

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