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19.お仕事のチャンスです(前)

いつもお読みいただき

ありがとうございます。

キルアが城から呼び出された為、二日間ほど屋敷を不在になる。


昨日それをキルアの口から聞いた時リリーは心の中で小さく歓声を上げていた。


別に彼と一緒にいたくない訳ではない。

出来る事なら一緒にいたい。

でも折角だからギルドの仕事も再開したい。。

勿論キルア以外の依頼人から。


贅沢な考えだが、もともと社交的で仕事が好きなリリーは屋敷に籠っている方がストレスなのである。だからこそせっかくのチャンスを無駄にはしたくなかった。


「いいですか?怪しい人にはついて行かない。お菓子をくれる人もダメです。夜道を一人で歩くなんてもっての他ですからね。」


リリーとの最初の約束なので、しぶしぶ許可を出したキルアは出かける寸前までリリーの周りを離れずソワソワしていた。外にはすでに馬車が待機しているのだから約束の時間なのだろう。


「大丈夫ですよ。危ないことはしませんから。しっかりと公爵のお仕事してきてください。」


リリーは少し呆れながらも、キルアを馬車まで送っていった。


「キルア様が言ったように誰からもお菓子を貰わない様にしますから、美味しい食べ物お土産に待ってますね。行ってらっしゃい。」


リリーは窓越しに、にっこりと微笑んで馬車を送りだした。

そして、身支度を軽く整えると、久しぶりのギルドへと向かうのだった。




「久しぶりね、リリー。公爵様から今日の事は聞いているけど……後ろにいるのは誰かしら?」


サラはカウンター越しにリリーの後ろにいる小柄な美少年を見つめた。


肩に届きそうな長さのサラサラした金髪がとても目を引く少年、青年?小柄な為が年若く見えるが、雰囲気だけ見ればリリーよりも年上のような気もする。


不思議な男だった。


「今日の護衛?みたいなものです。彼もいっしょでお仕事受けられます?」


少し困った顔をしながらリリーが尋ねる。



護衛付きで仕事。


長年職員をしているサラも初めての経験だった。

それにここは通称、婚活ギルド。

護衛とはいえ男付きの女性と仕事をしたい依頼者がいるだろうか?

それも依頼者がほぼ勝てる見込みのない、飛び切りの美形。


無理だろ。


「リリー。本気で仕事する気あるの?」

「勿論。今日がチャンスなんだから何か紹介して、サラ職員様。」





リリーと護衛の少年、神獣のラリーは依頼主の老人の家へ向かって歩いていた。


結局サラがリストから探し出したのは、とある老人の買い物の手伝いの依頼だった。先方にも問い合わせてくれて人出が増えるのはとても助かるとの返事をもらっている。


「まったく、私一人で大丈夫なのに…。」


リリーは歩きながら拗ねて愚痴をこぼす。

隣ではラリーが歩きながら物珍しそうに周りを見ている。


「リリーは最近俺らに信用されてないから、諦めて。出かけるたびに誰かに絡まれるとかある意味すごいよね?それも人間だけじゃなくて獣にまで。」


確かにその度に助けられている為それを言われると大変、居心地が悪い。


「これでも、大勢の人間の前だからって目立つコリーとエリーはつい来なかったんだから感謝してほしいんだけど。」


ラリーだけでも目立つのに三匹まとめてくるつもりだったのかと思うとなんとも恐ろしい。それこそギルドの入口で門前払いをされてしまう。


「そうそう、今日は俺は『ライ』って名前で呼んでね。流石に『リリー』の護衛が『ラリー』じゃ兄弟みたいでつまらないから。」


先程から周りの女性の視線を一心に集めている青年がリリーに向かって二コリと笑った。


面白い事、きっとないと思いますよ、ラリーさん。

丘の向こうに今日の依頼人の屋敷が見えてきた。



◇◇◇


依頼人はサイモン・イクス(56)老人というほどではなかった。


キルアの屋敷と比べたら小さい屋敷だが趣味の良い家具が揃えられており尋ねてみると子供に爵位を譲った元子爵との事だった。


「素敵なお嬢さんで安心したよ。今日の依頼だがこれを息子に届けて欲しい。貴金属とお菓子だ。」


(お菓子をくれる人もダメ)


リリーは荷物を受け取りながらキルアの言葉を思い出してクスリと笑う。


「そうそう、この家にあるドレスを着て行ってくれ。きっと息子が喜ぶ。」


無害な顔をしてニコニコ微笑む元子爵。

ほら見ろと言わんばかりニヤニヤするラリー。


なんだか、怪しいことになってきました。

後編は19日金曜予定です

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