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18.引っ越しの相談をしようと思います。

いつもお読みいただき

ありがとうございます。

《俺の大切なリリーはあげません》




エリクに絡まれた自分を取り返すためにキルア様が言った言葉。


彼を私から引き離す為とは言えあんな事を言われるなんて。

キルアの言葉が嬉しすぎて、優しすぎて、悲しくなる。


リリーは間違っても勘違いしないように必死で自分を律する。


先日の夜会彼の横に立ち様々な人と挨拶をしてみて、やはり自分はキルアとは身分が違いすぎることもよく分かった。

彼に言い寄ってきた女性たちも(彼は迷惑していたが)皆素晴らしい令嬢だった。

いつか相性の良い、身分の釣り合う人と出会って結婚をするはず。


それは一代男爵、ほぼ平民のリリーではありえない。

それにいつか自分でない者がキルアの恋人としてこの屋敷に来ることを考えると今すぐにでも逃げ出したい気持ちだった。


《まさか誰かの家で世話になってたの?その人の迷惑でしょ?》


あの時言われたエリクのセリフが今でも胸に深く刺さって患部ががズキズキとしている。


いつまでもキルアの好意に甘えているわけにはいかない。

だからと言ってエリクと結婚する選択肢は勿論ない。


そろそろ潮時かもしれない。


始めたばかりで現在ほぼキルア専属の扱いになっているギルドの仕事は本当はいろいろな人と出会えるやりがいのある仕事だ。だからキルアと離れてこれからもやっていきたい気持ちはある。


でも何も知らなかった頃ならともかく、今は一人暮らしをするのはやっぱり無理だ。

ギルドに女性の同居人のいる家を紹介してもらおうか。


もしくはかなり遠いが一度実家に帰る?

危険な道だが今なら神獣の加護があるから何とかなるかもしれない。


ふと、先日の些細な諍いの際に見せたキルアの憔悴しきった顔を思い出す。

どうするにせよ、今回は彼に『心配』させる前に相談しなくては。


丁度メイドが朝食の準備が出来たと呼びに来た。





「ここにずっと居ればいいじゃないですか?」


朝の食事が終わって寛いでいた時に何気なく相談したところキルア全く悩まずにそう言われた。なんとなくキルアがホッとしているようにも思える。


「私に相談してくれてよかったです。黙って屋敷を出られたら今度こそギルドを潰して国境を封鎖するところでした。」


物騒なことを言ってキルアは控えていた使用人に新しいお茶を頼む。嬉しそうにニコニコしているところを見ると機嫌はいいみたいだ。リリーに相談されたことが嬉しいらしい。


「大体なんで今更引っ越しなんて考えたんです?部屋が手狭ですか?それなら広い部屋がいくつもありますから屋敷の中でなら引っ越しはいくらでも出来ますよ?」


「いえ、そういう理由ではなくてですね……ご迷惑かけっぱなしですから。」


リリーはキルアへの恋心について話すつもりはなかったのでやんわりと話を濁す。


「『迷惑』って…昨夜の勇者ですね。まったく余計なことを言う人です。リリーが私の迷惑になることは一切ありませんから。ああ、彼が貴方を追ってここに来るようなことがあっても対処できますから安心してください。」


実は昨日、城から帰宅する際に衛兵から解放され追いかけてきたエリクがキルアたちの乗り込んだ馬車に詰め寄るという出来事があった。


リリーを車内に残して対処はしたが、あの執着は少々行き過ぎている。


今更だが名前を名乗ってしまったのは早計過ぎた様だ。


リリーもあれだけ怯えていたから、うっかり自分から近づかないとは思うが用心に越したことはない。そう思うと屋敷の片隅で直ぐに助けに行けない場所というのは屋敷内であっても心配になってきた。


いっそ部屋を自分の隣の続き部屋に移してしまった方が安心できるのでは?室内の扉の鍵を空けておけばいつでもお互いの部屋を行き来できる。

キルアは少しばかりの下心を隠して目の前のリリーに提案した。


「リリー、ついでにお願いですが、最近物騒になってきましたので少しの間だけ部屋を移っていただけますか?落ち着いたら好きな部屋に引っ越しをしていいですから。」


「??」


屋敷から出ていく相談をしていたはずのに、いつの間にかこの屋敷内で引っ越しの話にすり替わっている。それも、キルアの話に若干怪しさがにじんでいる。


「私の部屋の続き部屋へ移動をお願いします。」


離れるために決心した引っ越しが、なお一層お互いを近づける展開になった瞬間だった。

台風、心配ですね。

雨風、お気を付けください。


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