17.格が違いすぎました。
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「キルア様。」
「リリーすぐ終わりますからね。」
キルアはリリーに微笑むとエリクに掴まれている腕を優しく握りしめて逆に彼の腕を強引に掴んだ。
「何すんだよ、痛いだろ。」
「私は今あなたがリリーにしていた事をそのままお返ししただけですが?勇者なんて言うからどれだ鍛えているかと思えば、他愛ないものですね。」
見たこともない冷めた笑みを浮かべてキルアはエリクを睨む。
パーティーにいたころエリクは鍛えた身体が見事で体格の人並外れている素晴らしい冒険者だと思っていた。しかし、初めてキルアに会った時も感じてはいたが二人が対面してしまえば違いは歴然だった。
キルアは体格も迫力も彼以上、エリクが背伸びした子供でキルアは大人の男性。
エリクが勝てる要素など初めから一つもなかった。
「たかが魔王一人相手にしたからって、偉そうにされては困ります。爵位の話を取り消されたくなかったらさっさと聖女と結婚でもしなさい。」
「お前、誰だよ!ユリアと生活するにはリリーが必要なんだよ、返せよ!」
エリクがキルアの胸ぐらを掴んで叫ぶ。
「私はキルア・シャル・マタドールです。先程まではリリーが貴方と共にいたいならと思って黙っていましたがそうではないようです。だから貴方に俺の大切なリリーはあげません。それと、私は公爵です。その手を退けなさい。」
キルアは掴まれたまま一切抵抗をせずに静かにエリクに宣言する。
それは真の貴族だけが持つ威厳。
エリクが気圧されるには十分だった。
「マタドール公爵、お怪我はありませんか!」
その後、ようやく駆け付けた衛兵に取り押さえられたエリクを一瞬だけ見たキルアは震えるリリーをしっかりと抱きしめながらその場を後にした。
◇◇◇
リリーは馬車に乗っている間中キルアに抱きしめられながら屋敷に帰宅した。
夜会を早めに退席することとなったため国王に挨拶に行った時も繋いだ手を離して貰えず、陛下にからかわれた。会場から出る馬車に乗り込んだ際に少しだけ外が騒がしかったようだったがあれはだったのだろう
『嬢ちゃん、うでが腫れてるぞ。』
部屋に戻ってきたリリーにコリーが近づいてきた。
先程までは気分が高揚していて気が付かなかったが、エリクに捕まれたところが赤く腫れている。豹変した彼の顔を思い出すだけでも体が震える。
「やだ、冷やさないと。湿布薬あったかな?」
リリーはなるべくなんでもなかったかのように振舞ってクスリ箱をガサガサと探し始めた。
『勇者だっけ?アイツ。なんなの?偉そうに』
いつも感情を表さないラリーが珍しくイライラしている。
やっぱり色々見られていたらしい。
二度も彼らがいないところで危ない目にあったリリーは彼らに全く信用されていない。
最近は外出するときにデリケートな部分は除いて、大体彼らに居場所を覗かれている。
今日はキルアも一緒だったので見られていないかと思ったのだが、予想が外れた。
「仕返しとかしちゃだめだよ?」
リリーがクギをさ刺すと、ラリーがプイっと横を向いた。
「あんなのでも魔王を倒した勇者なんだから、少しは偉いのよ、多分。」
リリーはやっと見つけ出した湿布をぺたりと腕に張り付けた。
『ん?魔王?魔王ちゃん?』
「魔王ちゃん?」
なんだかエリーの可愛い呼び方にクスリと笑ってしまう。
気が付けば他の二匹も何故か微妙な顔つきだ。
嫌な予感がした。
「もしや神獣様たちは『魔王』とお知り合いですか?」
リリーはありえないと思いながらも聞いてみた。
『最果ての地で一人で退屈してる奴だろ?時々遊んでやってた。』
『五十年くらいのスパンで癇癪起こすからその時に少し激しく遊んでその後暫く眠っちゃうのよ……。ああそろそろその時期だったわね。』
『ワシらキルアに拾われてすっかり忘れておったな。』
口々に言われてリリーはお驚きにあんぐりと口を開けたまま。
「っていう事は、エリク達は死ぬ思いをしながら無駄なことしたってこと?」
『まあ、そうなるわね。結果何とかしたならいいんじゃない?今頃冬眠してればいいけど念のため後で魔王ちゃんのお見舞い行ってくるわ。』
あんなに苦労していた道のりの先に待ち受けていた強敵が実は神獣たちの遊び相手。
しかもいつでも会いに行けるって……。
「あははは。おっかしー」
バンっ
「リリー何かあったんですか!」
突然大声で笑い出したリリーの声を聞きつけてキルアが慌てて部屋に入ってきた。
リリーは今日あった嫌な出来事全てを忘れるように思いっきり笑い続けた。
連日暑い日が続きますが
お身体お気を付けくださいませ。
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