13.森は危険がいっぱい(後)
お読みいただきありがとうございます。
コリー様が大変お怒りの為少し流血シーンあります。
苦手な方はお気を付けください。
この口調には覚えがあった。
「もしや、コリー様ですか?」
「今回は、加護が発動してよかったな、お嬢ちゃん。」
片目をパチンとウインクして少し長めの銀髪を片手でかき上げた。
そのままリリーを自分の後ろに隠す。
そして目の前で動けなくなっている三匹に向かって冷たく微笑んだ。
「ワシらの加護の存在すら感じ取れない小僧どもがこんなところで『狩り』などあと百年早かったな。まあ、これから死ぬお前たちはもう必要ない百年か。」
突然現れたコリーの気配に圧倒されたのか先程襲ってきた一匹は飛ばされた場所から微塵も動かずコリーをじっと見つめている。
『コリガン様』
後ろから出てきた二頭が改まってコリーに頭を下げた。どうやら彼らはコリーを知っていたようだ。
『空腹で判断がつかず、お恥ずかしいところをお見せしました。』
『末の弟の不始末、私の首でご勘弁を。』
一番小さい黒虎が一歩前に出た。どうやら三匹は兄弟らしい。
リリーはコリーの背中越しに後方でうずくまる黒虎と先程とは対照的に小刻みに震えてい
る二頭が見えた。
圧倒的な力の差がそこには存在していた。
【彼らは彼らの掟で生きている】
本来なら獣同士のやり取りにリリー達人間が関わることは間違っている。
それはテイマーの資格を得た時に初めに教わるものだった。
でも、今はリリーが原因。リリーは意を決して彼の上着の裾を掴んだ。
「コリー私、もういいから。それにコリーが怒るの怖いです。」
務めて柔らかい口調でリリーは言った。
先程殺されかけた事を帳消しにするのは本当は嫌だ。でもここでコリーによって三匹が殺されるのはもっと見たくなかった。一頭で勘弁してほしいと言ったおそらく長兄の言い分もリリーからしたら残されたものの気持ちを考えると受け入れたくない。出来る事なら兄弟皆助けてあげたかった。彼女の意思を感じ取って怒っているのか少し冷たく見つめてきた彼にリリーはしっかりと自分の意思を伝える。
「お嬢ちゃんは優しいな。でもこれは小僧たちへの教育でもある。」
コリーは少しだけ考えて一瞬片手を振る。
その瞬間、彼ら三匹の顔から血しぶきが上がった。
あまりの光景にリリーは顔をそらす。
『ありがとうございます。』
息絶えたかと思われた彼らから感謝の声が聞こえた。
三頭は顔に大きくえぐられた傷から大量の血を流していたが生きていた。
中でも先頭にいた長兄の片目は抉り取られた位置からしてもう再生は無理かもしれない。
それでも三頭ともが生きていることにホッし、リリーは安堵のため息をついた。
コリーがそれを目を細めて見ながらリリーの頭を優しくなでる。
「良かったな小僧ども、お嬢ちゃんが文字通り『話の分かる』人間で。兄弟で仲良くしろと言う事だ。今回はこれで許してやるからもう洞窟の奥で寝ろ。明日までにはワシらはいなくなる。」
「あ、待って。」
ゆっくりと起き上がって奥へと戻ろうとする黒虎達にリリーは先程捕ったウサギを持って慌てて駆け寄った。顔にべっとりと血が付いていて今もまだ流れている。足元の水たまりはきっと彼らの血だ。
「お腹すいてるのよね?少ないけど兄弟で分けて。」
リリーの言葉はきっと理解できてはいないだろうが意図は理解したようで比較的軽傷の黒虎がウサギを咥えた。彼らはそのまま洞窟の奥へと消えていった。
「さてお嬢ちゃん、加護が発動したからここが分かったがこれからどうするつもりだ?」
人型より神獣本来の姿のほうが楽なのかコリーは元の姿に戻ってリリーと共に焚火を囲んでいる。時折近くに獣の気配はするが直ぐに立ち去っていく。きっとコリーを恐れているのだろう。森で安全だったのは先程までは加護がその役割をしていたのかもしれない。
「明日、隣の国へ渡ろうと思います。どうせ一人ですから何とかなります。加護も…外して貰っていいですから。」
今日加護のおかげで命が助かったのだけれどこのまま一生甘えるわけにもいかない。
キルアと出会わなければ彼ら神獣とも出会えなかった。だから加護もお返しするのが当たり前。
リリーは名残惜しくなってコリーのフワフワの毛をナデナデしてその大きな身体にもふっと顔をうずめた。
「コリガン様っていうんですね」
「その名前はお嬢ちゃんが言うとムズムズするからやめてくれ。コリーだ。」
焚火の明かりがゆらゆらと揺れている。
「あと、お嬢ちゃんの希望だがすでに手遅れだ。」
「え?」
「迎えが来たぞ。」
コリーが目の前の茂みに鼻頭を向けるとガサガサと揺れて大きな人影が現れる。
「やっと見つけました。リリー。」
「キルア様」
エリーとラリー、二頭の神獣を従えてキルアが暗闇から現れた。
コリーがわかったように他の二頭もきっとリリーの居所がわかったのだろう。自分たちだけでなくしっかりキルアを連れてくるところが彼らの思惑を物語っていた。
「すいません。リリー、大人げない事をしました。」
「いえ、心配していただいたのですから……。私も言いすぎました。」
もう会えないと思っていた、先程恋を自覚したばかりの人物が目の前にいるだけでも恥ずかしいのに、必死で謝られたら許すしかなくなってしまう。リリーは謝り続けるキルアにあわてて駆け寄る。
「もう、許しますから。止めてください。」
リリーは自分に向かって再び頭を下げようとするキルアの両頬をつかんで彼の顔をじっと見つめた。
それは初めて見る、彼の泣きだしそうな顔。
「じゃあ、一緒に帰ってくれませんか。私の屋敷に。」
「もう閉じ込められるのは嫌ですよ?」
「善処します。」
絶対しませんと言わないあたり正直なキルアに苦笑しながらも、リリーはやっぱり頷くしかなかった。
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