10.事件です。
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暫くキルアの屋敷に滞在することになったリリーは住所の変更をするために久しぶりにギルドを訪れていた。入口から中を覗くとカウンター近くにダグラスがいるのが見えた。彼と会うのは隣町に買い物に行った時以来だ。
彼はリリーを見つけると嬉しそうに駆け寄ってきた。
「リリーさん、お久しぶりですね。元気でしたか?」
「いえ……じつは二日間ほど熱で寝込んでいました。ダグラスさんは大丈夫でしたか?」
あの時同じように雨に打たれたのだから彼も寝込んでいたのだろうか?リリーは言い難そうにダグラスに尋ねた。
「え?ああ、もしかして雨のせいですか?それなら僕は大丈夫です。リリーさんが寝込んでいたなんて!そんな事ならクスリを届けに行けば良かった。」
ダグラスは申し負けない、とリリーに謝った。そしてそっと手に持った書類を後ろに隠す。
「じゃあ、病み上がりの身体にはお仕事は無理ですね……」
手に持っていたのはどうやらリリー宛の依頼書のようだ。既に全快している身体なので本当なら森に入って薬草採取も調剤の手伝いも問題なくこなせる自信がある。問題はダグラスとの仕事は時間の拘束が長い事だった。今はキルアの屋敷にお世話になっている分、遅くまで外出することは避けたい。
「ごめんなさい。本調子じゃないので……他の人にお願いして貰えますか?」
「ん、いいよ。リリーさんが出来るときにお願いする。それよりも風邪薬と栄養剤、取りにおいでよ。分けてあげる。」
「あ、あの」
既に治っているので断ろうとしたリリーよりも早く、ダグラスは彼女の手を取って歩き始めてしまう。なんだか彼がいつもより少し強引な気がしてリリーは戸惑った。
しかし好意でクスリを分けてくれる相手に強く拒む事もできない。
それに相手は何度か仕事もしている知り合いのダグラスだ。
少し話をしたら屋敷に帰宅すればそれほど遅くならないと思い直し、リリーは大人しくダグラスについて行くことにした。
「リリーさん、好きです。起きて」
呼ばれて重い瞼をゆっくり開くと目の前にダグラスの端正な顔があった。
いつの間にかベッドに仰向けにされていて両腕は彼によって押さえつけられている。そのまま首筋に唇を押し付けられているのに意識がボーとして抵抗が出来ない。かろうじて動く頭をゆっくりとずらして焦点の合わない目でぼんやりとダグラスを見つめた。
「ねえ、教えて。もう、公爵とはしちゃった?」
「してない。」
なぜだろう、彼に尋ねられたら返事を返さなければいけない気がする。
こんなこと、言いたくないのに。
大体、いつダグラスに公爵様の話をしたっけ?
「教えて、リリーはエッチな事初めて?」
「うん」
耳を舐められながら囁かれて意識がさらに混濁した。頭がフワフワして彼に触られているところがすごく気持ちがいい。
「そっか、じゃあ僕としようか?したいよね?」
「……したい?」
意味が理解できなくて彼と同じ言葉を繰り返した。
背中をスッと撫でられてびくりと身体が震える。
気のせいだろうか、遠くでバタンと扉が開く音がした。
「そろそろ、門限なのでリリーさん帰りますよ。」
リリーを抑え込むダグラスの遥か頭上から聞き覚えのある声が聞こえた。
見上げると優し気な口調とは対照的に恐ろしい形相のキルアがいる。
更にその後ろには制服姿の男が数名、入口のドアの方を向いて立っていた。
まだ事態が呑み込めていないダグラスをキルアは強引にリリーから引きはがして近くの制服の男に向けて投げ飛ばす。
「キルア様、私……帰りたい。」
「そうですね」
呂律が回らない口で一生懸命に紡いだリリーの言葉をキルアはゆっくりと最後まで聞いて彼女を抱き上げた。
「さあ、屋敷に帰りましょう。」
ダグラスは他所の町では今回のようなことの常習犯だった。
キルアとの食事の際にフィーナが話した『最近ダグラスという薬剤師と仕事をしている』という内容から偶然彼の事を思いだし、調べていたらしい。
今日もギルドに住所変更に行っただけのはずが、ずいぶん経っても帰ってこない事を心配してキルア自ら迎えに行き、そこでダグラスと出ていった事を教えられた。
そして彼はすぐに護衛を数名連れ、調べにあった彼の、この街での自宅へと突入し、間一髪間に合ったのだ。
「お風呂に入ってすっきりしましたか?」
朦朧とした意識の中、毛布にくるまれたままリリーはキルアにずっと抱きしめられ屋敷に戻ってきた。その後は侍女達の手によって風呂に入れられ念入りに磨かれたのち一人になりたいというリリーの我儘も聞いてくれ、ゆっくりとバスタブに浸からせて貰った。
そして用意された部屋着を着て浴室を出るとキルアが待っていた。
「もう薬の効果も消えましたか?」
「良く分かりませんが、正気だと思います。ご心配おかけしました。」
少し怒っているキルアにリリーは素直に謝る。キルアには勿論、自分の軽はずみな行動のせいで大勢の人間に迷惑をかけ、今もその後処理に動いている。その統括をしているのは勿論公爵であるキルアだ。
「余計なお仕事を増やして、ごめんなさい。」
リリーはもう一度深くキルアに謝った。
キルアの大きなため息が聞こえる。
「そんなことは良いんです。平和すぎる街なのでたまには役人に仕事が出来て良かったと思うぐらいです。」
物騒なことを言いながらキルアはリリーを抱き寄せた。
ダグラスに迫られてたいときは何も感じなかった身体が、キルアの暖かい体温を感じてじんわりと喜んでいるのが解る。
「間に合ってよかったです。」
「はい。」
二人はそのまま暫く抱き合っていた。




