1.婚活ギルドに所属しちゃいました。
新連載です。よろしくお願います。
今日パーティを解雇された。
朝の食事の支度の為に皆よりも早く起きて宿のキッチンに行くといつもは寝坊助のエリクが待っていた。
「リリー、君との旅はここまでにしたい。わかっているだろう?このままだとうっかりリリー、死んじゃうよ。」
そう告げられて、ズシリと重い麻袋を渡された。
最近時間が空くと四人で話しているのは知っていた。
なんだか嫌な雰囲気だなと思っていたがまさか今日?この後、海を渡り最果ての町へ行くという時に?確かに非戦闘員の自分は足手まといかもしれないがここまで連れまわして知らない街で捨てますか?
リリーの脳内は衝撃の告白から驚き→怒り→爆笑→空虚までを五回くらい繰り返した。
「そうね。バイバイ。」
リリーはそのまま自室で荷物と先程エリクから受け取った麻袋を自分の魔法空間へ放り込む。まだ早朝の朝もやの中、彼女は一人、宿から逃げるように旅立った。
リリーの冒険はあっけなく終わりを告げた。
リリーは二つほど前のモノクルという街に生活全般に特化したギルドがあることを思い出した。テイマーのスキルを持つ彼女だが冒険者として単体での仕事は勿論できるわけがない。そうなるとやれることは家事全般だった。パーティ内でも担当していてそれなりに重宝されていた。ハズなのだが……。
「勇者パーティから離脱した人間て登録ができないとかないよね?」
モノクルの町が見えてきたところでリリーは不吉な事を考えてしまった。
先程の麻袋は開けてみたら金貨が詰まっていた。退職金代わりと言う事らしいが使うたびに先程の事を思い出して気分が悪くなりそうだ。リリーは一代限りの農業男爵家の出身なので実家に帰ったところで迷惑がられるだけだ。なんとしてでも仕事を見つけ無ければならない。
「おや、リリーさん。戻って来るなんてどうしたんですか?」
「うん、ちょっと買出しにね。」
先日も挨拶をした門番に顔を覚えられていたらしい。まだ噂が立っていないようで和やかに門を通過できた。そのまままっすぐギルドを目指す。
「あの…登録したいのですが。」
「こんにちは、生活ギルド「エンカ」へようこそ。」
大きない白い建物の中に入ると受付があり男性と女性の二人が立っていた。先程少し掲示板を見たが、依頼内容は食事の支度や、清掃、外出のお供など様々で、この程度ならリリーでもすぐ受けられそうなものもいくつかあった。
「依頼ではなく、登録ですか……かなり条件が厳しいんですよねウチ。」
受付の女性がリリーを上から下まで全身にくまなく視線を落としていく。ただ立っているだけなのに何故か裸にされている気分になりリリーは恥ずかしくなって下を向いてしまう。
「まあ、いいでしょ。たまにはこういう新人がいても。で、貴方何が得意?」
リリーの全身を観察する事を終わらせた女性はやっと本来のギルト職員らしい質問をしてきた。
「料理、清掃は割と得意です。あと、テイマーの上級です。」
「ウチ、生活ギルドだからテイマーはちょっと……。まあ料理は需要あるかな。」
「草むしりも大丈夫です!」
「草むしりは男の仕事でしょ」
ノリよく突っ込まれてしまった。
「まあ、やれる仕事はあるでしょ。はい登録しまーす、まず名前!」
てっきり冒険者ギルドのように登録書を書かされるかと思いきや口頭でいろいろ質問されながら受付の女性サラが端末に情報を登録していく。(ちなみに背の高い、自分の事を一途に思ってくれるタイプが好みです。
)登録が終わると白いカードを一枚渡された。大きな鳥が二羽描かれている。
「これに貴方の情報が入っているわ。落として時に個人の情報が漏れると問題になるので表面はギルドのマークしかないけど専用の機械で読めば全部わかるから偽造もできない、依頼を出すときもこのカードが必要になるから気を付けてね。」
その後、リリーはギルドについての講習を受けた。
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
☆所属開始は基本最下位のFランク持ち点20Pから始まる(勿論リリーもF)
☆依頼については報酬の他に1P~5Pのポイントが設定されていてそのポイントでランクアップが決まる。
☆依頼の受注は依頼主に権利があるため、交渉によっては依頼を受けられない場合もある
☆依頼失敗は均一3P減
☆さらに週二回は自分から依頼を出さなければいけない。その場合、指名またはフリーのどちらでも良い。勿論依頼が誰にも受理されなくてもポイント減ではないが同じ依頼は二週続けて出せない。
☆相手からの指名は断ることは可能だが断った場合はマイナス5ポイント更にペナルティとしてその相手からの依頼は一か月禁止となる。
☆指名依頼は自分と同等以下の人物に限られる。その為《意中の相手》が居てもランクを上げなければ指名はできない。
☆ランクアップのために各ランク+50P必要。0Pになった時点で退会。
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
「以上ですが、質問はありますか?」
複雑そうなルールを一気に説明されてリリーは正直混乱していた。ただ依頼を消化して報酬を得るつもりでいたのに何やら方向が違う気がする。大体先程からおかしい単語が頭の中で反芻している。
「《意中の相手》ってなんですか?」
◇◇◇◇
リリーはとりあえず宿をとって部屋のベッドに横になった。気が付けば既に日が傾いている。早朝にエリクの所から追放されてモノクルにきて生活ギルドに登録。なんとか明日から依頼を受けられそうだ。しかしあの後衝撃的な事実を知ってしまいそれが今の疲労感の半分を占めている。
婚活ギルド。
今日登録したギルド「エンカ」はそう呼ばれている。
サラに聞いたところ寧ろ生活ギルドとして純粋に登録している人のほうが希少でほとんどが婚活ギルドとして登録しているとの事だった。
ギルドに入ったときに掲示板で確認した依頼書に顔写真が載っていることに違和感を覚えてはいたがそもそも内容で依頼を受けるのではなく第一印象(顔)で依頼を受ける事がこのギルドの基本で登録した会員同士で依頼をやり取りしている。
外部からの依頼も可能だが顔写真必須、一か月に一つの依頼のみ。会員のほうが有利なことは明らかだった。さぞかしにぎわっているかと思いきや今日もそうだったがギルドの受付ラウンジは人がまばらだった。
『会員登録には審査があります』
サラがニッコリを笑っていたが現にリリーは珍しいと言う事で登録出来た。
基準が分からない。
考えても仕方がないのでリリーは明日に備えて眠りにつくのだった。
朝になり宿で出された朝食をいただくとリリーは早速昨日のエンカへ足を運んだ。昨日はひっそりとしていたギルドも朝は流石に込み合っている。リリーにもこなせる何か良い依頼はあるだろうか?
掲示板の片隅にひときわ目を引く依頼書があった。白地の紙に家紋のような透かしが入っている。
《食事を共にしてくれる方募集 金貨二枚 5P》
一番下にある依頼の草むしりが銅貨二枚と言う事は上記は百倍の報酬という事になる。ちなみにリリーが泊まっている宿は一泊銅貨一枚だ。
リリーは受注カウンターに昨日のサラを見つけて近寄った。
「サラ、あの透かしが入っている依頼書、なんで皆無視するの?一番良い報酬だよね?」
「あれはね、SSランクのキルア様の依頼なの。申し込んでも顔合わせで断られるだけだから皆諦めてるのよ。リリーやっぱり何も知らないのね。」
キルア・シャル・マタドール公爵。
SSランクの会員で家事全般オール最高位のレベルSSで賢者でもあり、普段の仕事は屋敷で領地の経営。暇な時は城に顔を出して宰相の相談役をしているらしい。依頼については顔合わせをしたのちに何かしら理由をつけて断られるらしい。
「顔合わせをしたいだけに申し込んでくる馬鹿もいるわよ。そういうのは受付で断るように言われているけどね。」
「ふーん」
昨日のやり取りもそうだがリリーが本当に何も知らないと言う事が分かってサラは自分の判断が正しかったことを確信した。このギルドに申し込んでくる大半の女性がキルア目当てなのだ。
それではギルドとして立ち行かなくなってきたので困っていたところに昨日、リリーが来た。だからこそリリーはすんなり登録できたのだ。
「申し込んでもいいけど、断られたら一日損するわよ。」
依頼自体は直ぐ受注出来るがまずは依頼者との顔合わせがあるので断られたらその日の別の依頼は受けられないと考えたほうが良い。すぐに報酬が欲しい者ほど手堅い依頼を受けるのが無難と言う事になる。
「でも、依頼内容が気になるので……挑戦します。」
リリーのその行動がのちに、彼女にとってとんでもない事態へと転がって行くのだが……そんなことは今は誰も知らない。
続きが気になる方、ブックマーク、評価の☆、感想などお待ちしています。