造ったもので殴る
触覚をせわしなく動かしてこちらに頭を向ける。こちらに気づいた様子で走って来る速度は、考えていたよりも遅く、準備していれば後1、2個は石を投げることが出来る程度だ。
Pスキルやアーツと違い、Aスキルは音声入力でしか発動しない。アーツは、職業や武器種、スキルで種類も難易度も変わってくるが発動は"構え"が必要になる。魔法は、詠唱から声に出さなければいけないが"無詠唱"という技術もあるようだ。
慣れていない言葉や、構えは咄嗟には出てこない。さらに、ここまでクオリティが高く、臨場感・緊迫感のあるゲームでの初戦闘である。気持ちを整え気合いを入れる時間があるのはありがたい。
「キシィイ」
蟻が接触およそ2,30mほどの距離まで来たので深呼吸し、槍を野球バットのように持つ。このゲームほど自在に振り回せる槍なんぞ使ったこと無い上に、野球は学生時代の授業依頼だからだいぶ適当だ。
しかしながら、今まで培ってきたゲーム的距離感とゲーム的運動神経でタイミングを計りスキルを発動させる。
「"腕力強化"」
両腕に灯ったエフェクトを横目に確認しながら、蟻に対して半身になるように左足を前に出しつつ腰を落とす。そして右足でしっかり地面を押し返して腰を回し、下からかち上げるようにして槍を振る。
「───ッッじゃあッ!」
顎から顎下(首?)をまとめて殴りあげたことで、高く反響したような音が響く。威力は高かったようで、蟻は結構な距離を裏返しの状態で吹き飛んでいく。
だがまだ倒しきれてはないようで、ポリゴンになったり消えたりもせず、良く見ると足も微かに動いていた。揺れる脳ミソが無い虫系モンスターは、いくつかのゲームでは目眩が由来のスタンは起きない。
このゲームでそうなのかは分からないが、今追い討ちを掛けなければ"腕力強化"が切れてしまう。このゲームでのスキルはMPやSPではなく、クールタイムを待ってからの再使用となるので、使ったからには攻めるに限る。
(バフが切れる前に倒しきる!)
「うらッ!」
すぐさま攻撃したかったが、なかなかぶっ飛んでしまったせいで蟻との距離が離れているので、急いで体勢を戻し構え直した槍を投げる。
槍は石による初撃と同様に、表面積の広い腹部へ突き刺さった。槍の1/3程が蟻の体に入り込んだ。貫通することは無かったが十分に致命傷だったようで、エフェクトを残してその体は消えていった。
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・蟻の外殻
蟻の身体を覆う殻は軽く頑丈。
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・蟻の大顎
働き蟻の顎には鋭さはあまりないが、挟む・掴む行為に適している。
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ドロップを拾い、インベントリ内を確認すると非常に簡素な説明のアイテムが入っていた。
いやまじで情報少ないな。レア度とか品質とかバックグラウンドを考察できそうなテキストとか、もうちょい何かあっても良くね?まぁ、いっぱいいる雑魚モンスターっぽいからこんなものなのかもしれんが。
外殻は確定ドロップかな?大顎はレアっぽいか。下から殴って顎に当てたから、ワンチャン部位破壊ドロ。検証ダイジ。検証。検証。俺はやらんけど。後で検証板見に行こ。
うーん、外殻は防具一択かなぁ。盾も有りかと思うけど、槍刺さったからそこまで硬くなさそうなんだよなぁ。顎は俺的にはハズレだな。ナイフ位にしかならなそう。
リザルトを確認した後、蟻に投げつけて放りっぱなしにしていた槍を回収してインベントリに戻したそれを何となしに見る。
「うえぇ、減ったなぁ」
・石の槍(作:ラグメル)[ランク:1][質:B]
━ATK:20,耐久値:10/25
たった1度の戦闘で半分以上、耐久値が削られていた。それも、たった1体の敵にである。もしスキルを使ってなかったら、スキルが切れる前に倒しきれてなかったら、複数だったら。
そこまで考えて、ゾッとして慌てて周囲を警戒する。案の定、見えるだけで2匹の蟻が離れたところを歩いていた。急いでその場を離れようとして、やめる。
さっきの蟻は石を当てるまで気付かんかったし、さっきよりも距離あるし、むしろここが良さげ。来た道戻ったら視界悪くなるし、進んだらポップ率分からんし、今がベスポジだろう。直すには。
さて、最後のスキルの確認だ。
「"野外鍛冶"」