蟻塚到着
森が終わったころから、遠目からでも見えていた岩山に近づいていく。椿鬼曰く、この岩山とも断崖とも呼べそうな壁は蟻塚とのこと。
「先に着いてた人らが話してたんだ。これは蟻塚でメインは下だ。ってさ」
先客は蟻オタクだったのかな。まあ言われてみると、テレビでアリクイが舌を突っ込んでるやつに見えなくもない。いっぱい穴開いてるし。人が入れそうな穴、這い這いでしか無理そうな穴、武器を振り回しても大丈夫そうな穴。
こういう入り口多かったり、中で分岐路が多い系のダンジョンって急がば回れなルートが正解のゲーム多いんだよな。
「入るとしても先にここらでレベル上げしときたいねぇ」
「だな。そんで入る直前に耐久値回復させとこうや」
「その時は頼むよ。蟻も結構居ることだし、ラグメルがLv3にでもなったらはいるとするかい?」
「へばそれで頼む」
推定蟻塚の壁から出入りする蟻、地面の穴から出てくる蟻。プレイヤー達も結構居るがお互い邪魔にならない程度には距離が離れている。そしてその比率は6:4程。蟻の索敵範囲の狭さによってそれぞれのパーティーが安全に、かつお互い獲物の取り合いにならずに和気藹々とレベル上げを楽しんでいる。
こちらも始めますかとお互い目配せして、近くに居た蟻へ攻撃を開始する。先ずはインベントリから取り出した石を2つ矢継ぎ早に投げる。ターゲットを定めて加速した蟻の顔面に更に1つ、石を当てる。
顎、というか口に石が直撃した蟻の顔が跳ね上がり立ち止まった。元の位置に顔を戻してから、蟻は再度向かって来た。
ははーん。今の挙動はそういうことだろうなぁ。次のやつで試してみるとしよう。とりあえずこいつはさっさと倒して貰おう。
「そういえば、椿鬼は継戦能力あるほうか?」
蟻の片側の足3本をまとめて足払いし、倒れた胴体を蹴飛ばして消滅させた後、またもや何かを堪えるような仕草をして居た椿鬼に訊ねる。
「"跳躍"は移動系だから長いよ、クールタイムは5分かかる。でも、火力は出せなくなるけど"格闘"があるから普通に戦えるさ」
アーツをつかえればねぇ。と椿鬼はぼやくが、そもそもアーツの習得方法・生やし方は正確には分かっていない。
分かっているのは①職業・使用武器・スキル・戦闘内容を参照して気づいたら習得している。②クールタイムは存在せずスタミナを消費する。③習得数に上限は無い。④MPを消費する魔法アーツも存在する。⑤構えの設定が必須。などである。
βテスターで20近くアーツを習得したプレイヤーが、公式生放送で披露した奇妙なダンス。アーツの技後体勢を構えに設定することで可能となる、アーツ9連撃。凄まじいDPSを叩き出せる反面、瞬間的な大量スタミナ消費とどれか1つでも使ってしまうとそこから最後までは止められない、というデメリットを抱えている技。1本の片手剣で9つのアーツを使い94回のヒット数を持つことから今日の日の1994とその場で名付けられた出来事は皆の記憶に新しい。
魔法アーツは、火属性魔法使いが披露した長杖を肩に担いで着弾後に爆裂する魔法を使ったり、長杖を跨いで炎を噴射させて飛んでいったりなど、何をしたら生えたのか分からないアーツなどがあった。
つまり、生えるまで待て、出来れば特異性のある行動をしろ、というのが掲示板等で大勢が囁いている確証のない噂だ。
「俺はそもそも近接戦闘の心得は無いから弾が切れたら置物だな。まぁ、蟻なら軽いからぶっ飛ばして時間稼ぎくらいなら出来ると思う」
「2匹より多く来たらそれで頼むよ」
2匹ならそれぞれタイマンってことだな。良かろう。ならばぶっつけ前にリハーサルしときましょうか。
俺の前方に居るヤツと、椿鬼を挟んで俺と対角くらいに居るヤツのヘイトを取る。後者は俺のとこに来る前に椿鬼の前を通る必要があるし、弱々攻撃1つだけだから目の前に来たら椿鬼にヘイトが向くだろう。
先の戦闘で気になったことを確認しておくとしよう。邪魔が入らない1対1、距離も離れてるし顔はこちらに向いている。絶好の機会。
取り出すのは投石槍1本と石(中)を念のために5個。
「よいしょっお!」
狙ったのは口。顎のハサミの間だ。というかあわよくばケツまで貫通して突き破れ、って思いで投げた。
願いは届かなかったようだが、先程の蟻よりも大きく仰け反ってほぼ90度に折れ曲がった。すかさず普段は見ることの無い裏側に石(中)を当てると消滅した。1つ目でだ。
椿鬼もちょうど終わりのようで、止めの踵落としを頭部にくれてやっていた。
あ、レベル上がった。
「ふぅ。あんたの見てあたしも口元狙ってみたけどダメだったね」
「そうか。槍でもクリティカル取れそうな気がしたんだけどな。遠距離攻撃に補正付いてるとかか?」
「他ゲーでも矢、槍、刀、細剣とかだとクリティカル出易かったりするから、その上で素手は出難いとかじゃない?」
有りそうな話だ。
でもまぁ、このゲームかなりリアリティがあるというかクオリティが高いというか、ゲームとしての格が違うからな。刺突武器だったり、クリティカル発生率が高い技だったらどこに当ててもクリティカルになる。とかじゃなくて、その部位に的確に当たれば良さそうだけどな。知らんけど。




