外伝・バカンスでサンイレーナ島に来ました。
学園のホリデー期間の、ある日の午後。
暫定的に国王に即位した、フィオナ新国王陛下がやつれた顔でウチのお屋敷に来て、開口一番に言い放ったわ。
フィオナ「王宮の引き継ぎ終わった!地獄かな!
休みブン取ったよ!リオネル、エリーゼ!
アドリアーノ海へバカンスに行こう、一緒に!そうしよう!」
エリーゼ「あの、フィオナ陛下?
だいぶ言動がハイで危うい感じになってますわよ?」
フィオナ「コック役はフレイ、荷物運びと警備はヨハン。
何故か侍女役としてロジーさんが名乗り出たから、連れていくよ。
エルレンが断るなんて。もう!」
エリーゼ「……あのー、ウィンデル様は?」
フィオナ「セシリーさんとヴェネティアングラスやレース、宝飾品の買い付けだってさ。
もう新婚さんかな?」
リオネル「嫁さんに早くも尻に敷かれてないか?」
フィオナ「目指すはアドリアーノ海に浮かぶサンイレーナ島!あとはよろしく……」
言うだけ言って、行きの馬車で爆睡してしまったフィオナ陛下である。先行き不安だわ。
◯船から降りて、サンイレーナ島の桟橋へ
エリーゼ「ついたのね、ここがサンイレーナ島。あの女の別荘ね……いや、女なんていないけど」
リオネル「白の壁とターコイズブルーのドーム上の屋根が美しいな。
晴天の空と、紺碧の海に映える。
しかしこの島は……山の上に街があるのか。随分と坂が多いな」
フィオナ「……ここは、火山のカルデラで出来た島だから……古代、中世と何度か噴火していて……
うぷっ!おえぇ……」
エリーゼ「まさか、フィオナ陛下とあろうものが船酔いなんて……」
リオネル「この後、ロバに乗って山の上まで行くんだけど、大丈夫か?」
フィオナ「……少し休ませてくれ」
ロジー「そうですね!その辺のカフェで休憩しましょう!ヨハン君もへばってますから」
ヨハン「……王侯貴族だからって、オレに荷物全部持たせないでくれます?!」
◯発覚!島のまさかのトイレ事情
エリーゼ「別荘ついたー!なかなかおしゃれな内装ね!」
ロジー「わー!この窓から島と海を一望出来るんですね!凄いです!」
リオネル「プール付きで、シャワーも完備。
バスタブはないのが残念だが。文句はないな」
こっちの人だと、プールがお風呂がわりなのよね。
エリーゼ「そんな、トイレが……流さないタイプですって……!」
フィオナ「何を言っているんだ、セルシアナエリーゼ。
我々は魔法が使えるんだ。流さなくても流せる様にしてしまえば良いのさ……!」
リオネル「または、魔法で臭いや物を分解すれは良くないか……?」
エリーゼ「じゃあ何でウチの国は水洗トイレが発達してるんですか?」
フィオナ「セルシアナエリーゼ、あれはだね。
先代の青薔薇の聖女、桜子ひいお祖母様が『最新の水洗トイレもねぇのかよ!』って猛抗議してねぇ……
あの方も青薔薇の魔法しか使えない方だったから……」
エリーゼ「桜子ひいお祖母様、グッジョブ!」
◯別荘でお昼にしました
フレイ「フィオナ陛下ご所望のパエリア作ったぞー」
ロジー「わー!美味しい!」
フレイ「でもパエリアってもっと別の国食べ物だろ……
地元の食堂のタベルナとかで、地のもの食べた方が良くない?」
フィオナ「私は……実はちょっと偏食が多くて……」
フレイ「いや、かなり偏食家ですよね?ムール貝避けて食べてますよね?アレルギーでもあるんです?」
エリーゼ「私イカ墨パスタ!明太子スパゲッティが食べたいな」
フレイ「メンタイコってなんだよ?そんなの知らないぞ?」
リオネル「そうだな。俺はピザ食べたいな。四種のチーズにブルーチーズ、ゴルゴンゾーラ入りの」
ロジー「アタシはいつものオートミールのパンケーキがいいなぁ。はちみつとレモンで」
フレイ「……やっぱお育ちが出るよなぁ、こういうの」
ヨハン「あのー、俺の分……」
◯浜辺に来ました。
リオネル「砂浜に来たけど、この島には白い砂浜にエメラルドグリーンの海ってないのか」
フィオナ「残念ながらね。でも赤い崖のあるレッドビーチや、黒い砂浜、透明度の高い漁港など、なかなか面白い海辺が多いんだ……え?向こうにある?」
リオネル「そんなに地面を見てエリーゼは何をしているんだ?」
エリーゼ「……ビーチコーミングよ。平たく言えば石拾い」
フィオナ「……石拾い?子どもじゃあるまいし」
エリーゼ「前にね?友達と浜辺で、推しと同じ名前の鉱石を探しに行った事があってね……。
ジャスパーに瑪瑙、カルセドニー、アンバーにオニキス、コーラル、コランダム……ボウズだった悲しい過去よ。あ、石英は拾ったわ。
その後、覗いた鉱石屋さんで普通に売られてたわ……徒労感よ」
リオネル「姉上、何を言っているんだ?寝言か?世迷言か?」
エリーゼ「うっうっ……!見事に黒い軽石と貝しかない……私は悲しき過去に縛られし哀れなモンスターよ」
フィオナ「まあまあ。鉱石も貝も、この島の成り立ちや植生、生態を知るための貴重な資料だ。
念のため、漁港組合に確認を取ってから採取しようか」
フレイ「ああ。いつだか綺麗だからと触れたら、それは猛毒のカツオノエボシで、エラい目にあった貴族の話とか聞いたものな」
◯水着に着替えて海水浴へ。
エリーゼ「うーん、水着を新調したけど。
時代が時代だからデザインがレトロよね……
あと、視線が気になるからパレオ巻いておこう」
ロジー「わ!エリーゼ様素敵!
アタシも同じ様にしよ!……あれ?なんか違う……」
フィオナ「……セルシアナエリーゼ……その、豊かで、とても素敵だね……目のやり場に困るな」
エリーゼ「何が?」
リオネル「好き嫌いせず何でもパクパク食べていたからな。育つだろ」
エリーゼ「ねぇ、何がなの?」
ロジー「エリーゼ様ってスタイル良いんですね!ウチのお母さんも……」
エリーゼ「うわー!臀部か?腹部か?最近太ったのよ!
そんな事大きい声で言わないで!セクハラ!」
フレイ「あのさー、エリーゼお嬢が1番声デカいぜ?」
ヨハン「そういえば、近くに海中から温泉が出ている所があるらしいぞ」
ロジー「へぇ、色々あるんですね!……あったかい!ここかな?」
温泉の沸く海に浮かぶフィオナ陛下。
フィオナ「……ああ、もう何もしたくない……
ローズベル王宮に戻りたくない……」
リオネル「完璧人間だと思っていたフィオナ兄上が……
どんどん駄目人間になっていく……おいたわしい」
エリーゼ「これぐらいは許してあげてね?
多分、王宮で息の詰まる様な生活送って来ていたから……多分だけど」
ヨハン「エリーゼお嬢は、陛下のオカンですか?
まぁ別荘のベッドで死んだ様に眠ってるもんな、お昼過ぎまで……」
◯夕方、夕陽の映える美しいレストランにて。
フィオナ「夕日が美しいレストラン、リザーブしておいたよ」
エリーゼ「わぁ!夕日、綺麗ね……」
リオネル「ああ、セルシアナエリーゼ。
君とこんな美しい絶景が見られるなんて」
エリーゼ「私も嬉しい。ずっと、リオとこうしていたいな……」
そう微笑んで、私とリオは手と手を絡ませる。
ああ、これはリオなりのキスの合図ね。と、期待しながら身構えていると。
フィオナ「ねぇ、それこの旅の企画者である私に言うべきじゃないか?」
フレイ「……陛下、抑えろって」
ロジー「このムサカっていうグラタン?美味しい!
グリークサラダも!カラマリっていうイカリングも!
あ、お魚のグリルとデザートのブドウが来ましたよ!食べましょう!」
フレイ「ロジーも。
いいシーンなんだから大人しくしてろって。
……一人で全部食べるなよ?」
ロジー「何を言うんですか、フレイ様。
騎士の家に産まれたなら、身体をしっかりと作り上げるためにも、栄養豊富な食事をきちんと取らねば!」
ヨハン「そういやロジーさん、少しふっくらした?
入学の時結構痩せてたよな?」
ロジー「あー。あの時は……
キャスに『王子を誘惑しろ』とか。
『ご飯食べ過ぎるな、お菓子食べるな!』
『アレしちゃ駄目』
逆に『コレしろ』ってギャンギャンに言われていて……食欲が湧かなかったんですよね」
フレイ「それは……大変だったなぁ。
明日の朝食、パンケーキ作ってやるよ」
ロジー「いいの?やったー!」
フィオナ「私はエリーゼお手製の唐揚げが食べたい……」
フレイ「いや、そうだけどさぁ?
こら!フィオナ陛下は出された料理を蔑ろにしない!
フライドポテトとブドウばっかり食べない!」




